官能小説『貴方の想い出を追いかけて』



竜馬


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第二章七


 夕食仕度のお鍋がぐつぐつ煮えてお湯が沸騰し始めても、私はただそのお鍋を意味もなく眺めているしかありませんでした。そして、溢れ出したお湯をじっと見詰め、沸騰したお湯を冷ますためにガスのスイッチを切るのと一緒に、拓ちゃんと綾子の関係もこのスイッチのように切る事ができないのかしら… と、なぜかそのようなことを断定している私に拓ちゃんの申し訳なさそうな言葉が残っていました。

『一晩落着かせて、明日の朝一番に村田さんには連絡を入れるから』

 本当の災いは、そう言って携帯を切った拓ちゃんに及ぶのを私は後から知ることとなります。

 取り合えず綾子の気持ちを落着かせる為にホテルへ移動した拓ちゃんは、誰よりも先に自分に連絡が入った事と、会社の近くへ来ていた綾子の行動を重ねて考え、自分を頼りにしていること、そして、今回村田さんの所を飛び出した原因が自分と何らかの関係があるのではと感づいているようです。

 そして、哀しい事に拓ちゃんのその予感は的中してしまうのです。  

 それから数分後、信じられない言葉を拓ちゃんは聞かされることとなりました。

   衝撃な事実を打ち明けられた拓ちゃんは、目の前でうなだれながら肩を震わせて泣き崩れる綾子に何度も確認していきます。

「嘘だろ… 綾子… ……妊娠しているって… 本当なのか?」
「ぅぅ…… 本当なの… 三ヶ月らしいの… うぅぅ…」

 そうなのです。綾子のお腹の中には赤ちゃんがいたのです。三ヶ月前と言えば拓ちゃんの出張と重なってしまいます。

 拓ちゃんは、出張先のホテルで「これが最後…」と自分に言い聞かせて綾子の身体を抱いたあの夜を思い出し、綾子の赤ちゃんが自分の子供だと確信してしまい頭を抱え込みました。

「嘘だ… …そ、そんな……」
「拓郎… 御免なさい! 私、妊娠していると知った時、おろそうと思ったのよ… でも… でも、出来なくて… ぅぅ… 私、どうしていいか迷って…それで一層死んでしまった方がいいと思って… そう思っていたら、村田さんの家に帰ることが出来なくなって…」
「綾子… 赤ちゃんを… 赤ちゃんをおろしてくれないか…」
「拓郎?! でもね! でも…」
「今となってはそれしか方法はないだろう?! 俺も… 俺もこんな事を言いたくない… でも、綾子と村田さんの結婚式は決まっていることなんだよ!今はまだ間に合う… なぁ綾子… 頼む…」
「拓郎… うぅぅぅ…」
「済まない… 綾子、俺が、俺が全て悪かったんだよ! 俺が…」

 二人は、暗くて長いトンネルの出口を必死に模索しているようでした。



第二章八


 明くる日になり、約束の朝になっても拓ちゃんからの連絡がこない事で私は二人の関係を疑うしかありませんでした。けど、私が考えていた以上に事態は深刻となり、私の知らない所で私の運命が決められていくなんて余にも哀しすぎます。

 何が起きているの? 何も知らされずまま受け取った拓ちゃんからの電話は私の願いを裏切るものでした。「済まない…」と言って言葉詰らせる言葉には何かを決心した拓ちゃんの覚悟がひしひしと伝わってきましたが、その事に触れる恐ろしさを感じた私は自分の想いを吐き出しました。

「拓ちゃん?! 今日の肉じゃがは大成功よ。この前は焦がして笑われたけど今日は大丈夫だから早く帰って来て… ねっ、拓ちゃん、早く…」
「…ま、舞… ごめん…」
「どうして謝るの? 私は、拓ちゃんが帰って来てくれたらそれだけでいいの。何があったとか聞いたりしない… だから、ねっ、早く…」

 色々と頭の中を駆け巡りましたが、拓ちゃんが帰ってきてくれさえすればそれでいいと思う私の願いは叶いませんでした。

「済まない… 舞… 俺…」

 次第と拓ちゃんの声が薄れていきます。

   拓ちゃんが何を言っているのか、またその意味が分らない私に「帰れない…」と言った拓ちゃんの声だけが私の身体に重くのしかかっていました。

 その日の朝拓ちゃんは、私の元へ帰ってくる為に産婦人科へ行く事を綾子へ勧め、一緒に病院へと付き添って行ったそうです。でも私にはわかります。生まれ来る自分の赤ちゃん、小さな生命を途絶えさせてまでも拓ちゃんが私の元へ帰ってくるような男性でないことを。

 結局拓ちゃんは、中絶を止めさせてこの責任を一人で負う覚悟で私に電話を掛けてきたのです。

 私は、数ヶ月前の記憶を手繰って思い出しました。

 拓ちゃんが出張に出掛けたあの日…

   綾子を訪ねて携帯に掛かってきた村田さんからの電話。泊まりに来ていない綾子がいかにも遊びに来ていると村田さんに嘘をつき上手く誤魔化せたとほっと一安心し、まるで正義者のような達成感に浸る偽善者の私…

 間違いでした… 何もかも。

   私の勇気の無さが今、周りのみんなを不幸へと陥れようとしているのです。



第二章九


 それから数日後、恐れていた春の嵐が吹き荒れました。  

 謝りに行った拓ちゃんの頬を、村田さんは二発、三発と殴ったと聞きました。
その後、拓ちゃんは村田さんの御家族の元も訪ね、土下座して許しを被ったそうですが先方の御家族の怒りは尋常ではなかったそうです。そして、婚前前の破局の責任を取る形で拓ちゃんには莫大な慰謝料を請求されそうになったそうですが、 お怒りの御両親を説得させて何とかその場を納めてくださったのは村田さんだったそうです。

 一方、綾子の家庭も大騒動となり、赤ちゃんをおろし拓ちゃんと別れることを突きつけられたことを拒み続けた綾子は、勘当同然で家を飛び出してしまったそうです。

 私の知らない所で、私の知らない数々の出来事が勝手に歩き始めていることに、私の存在の薄さを嘆かざるをえません。

 それから更に数日が経過した或る日でした…

   分っていながら私は、拓ちゃんの帰りをひたすら待ち続け、部屋に飾られた拓ちゃんの想い出の品数を大事に抱きながら一日一日を過ごし続けていました。そんな或る日、仕事を終えた私はアパートの部屋に明りが灯されていることに気が付き、小さな灯火でありますがどこか暖かくなる胸の鼓動を高鳴らせていました。

「拓ちゃん?! 拓ちゃんが帰ってきてくれたんだわ!」

 弾む心は、今まで哀しみに耐えていた私の足取りを軽やかに運ばせ、一人の部屋へ上がるアパートの辛かった階段も苦痛には感じさせません。急いでドアを開けると私は拓ちゃんの姿を探しました。

「拓ちゃん?! 帰ってきてくれたんだね!」

 部屋に入ると、テレビをつけたまま横になっている拓ちゃんの姿が見えると「遅いな! 腹へって死にそうだったんだぞ!」と怒っている拓ちゃんの背中に私は抱きついて行きました。

「拓ちゃん! ……拓ぅ… …ぇ? ……そ、そんなぁ」

 明りだけが灯された部屋の中。誰もいない事に気付いた私は拓ちゃんの残像を追いかけて台所やお風呂場を探して回りましたが、残像どころか今までの部屋とは何かかが違う事に気が付いたのです。

「嘘… 嘘… 嘘だよぉ… 拓ちゃんの歯ブラシが消えている… 御揃いのコップも無くなっている… 拓ちゃん… どうして…」

 一つ一つの想い出の品物がまるで私と拓ちゃんの過去を消し去るかのように全て無くなっていたのです。御揃いのパジャマ、枕、スリッパ… 近くのスーパーで買い揃えた二人の思い出の品々は、空っぽになった宝石箱のように私の生きる希望さえも奪い去ってしまいました。

 拓ちゃん… 拓ちゃん… 拓ちゃんの想い出が… 消えていく…







第二章十


 想い出の品といえばテーブルの上に静かに置かれていた部屋の鍵と、棚の上に飾られた二人で笑顔で写っている写真だけでした。 それ以外の品物は全て拓ちゃんが運んで行ったようです。

 本当にこれで、拓ちゃんと離れ離れになったと痛感しないわけにはいきません。

「でも………」

 それでも私は望みを捨てる事はできませんでした。拓ちゃんがいつでも帰ってきても大丈夫なように心化粧を忘れる事はありません。綺麗な心で迎え入れなければいけないわ… そう思いながら私は、拓ちゃんと綾子が別れてくれることを何処かで必死に願う矛盾した心に胸を痛めていくのでした。

 信念を持てば持つほど辛い想いは大きくなるばかり…

 そんな私に、二人は遠い小さな街にアパートを借りて住み始めたという風の便りが届きました。

   街中、桜の花が散り、暖かな春の中でも寒さがかえる薄氷が張る季節。

   薄暗い夕刻になると、アパートの外廊下を小走りに走り去っていく吹き返しの風に、隣の住人の表札をかたかたとノックさせている音が聞こえてきました。

「たっ?! 拓ちゃん?! 拓ちゃんなの?!」

 照明の明りをつけることも躊躇い、薄暗いテーブルの上に顔を伏せたまま放心状態の私は、拓ちゃんの姿を玄関扉の向こう側に感じ、裸足のまま玄関を開けると冷たい外廊下へと飛び出して行きました。

「拓ちゃん? 拓ちゃん! どこ?! どこにいるの?! ねぇ拓ちゃん!返事をしてよぉ… ………早く… 帰ってきて…」

 階段を下り、細い路地を小走りに走り、拓ちゃんの残影に声を掛けながら追い続けると、ライトを点灯させながら走る車が行き交う大通りへと辿りつくのです。「もうすぐ帰ってくるよ」と、拓ちゃんが帰宅途中に掛けてくる連絡を受けると、私はこの大通りへ出迎えに行くものでした。

「たく……」

 右を向いても左を向いても、にっこり笑って手を振る拓ちゃんの姿はいつまで待っても現れませんでした。

 ビルの合間から見える陽が落ちたあとの茜雲を意味も無く眺めます。

   二人、手をつないで歩いた帰り道。見上げた空、朱色と白色に染まった雲が街の明りを反射させて赤い花のように凄く綺麗に見えていた幸せの日々とは違い、一人で見上げた空は、まるで哀しみに滲んだ涙雲のようでとても切なく見えました。

 拓ちゃんも、遠い場所からこの空を眺めているのかしら…



第二章十一


 一人で過ごすアパートはまるで別世界のようでした。

   拓ちゃん! と、呼んで振り返ってもそこは真っ暗な闇の中。 恐くなり目を閉じ耳を塞いで部屋の隅に逃げ隠れる毎日に気が変になりそう… 自分が自分でない… 舞なのに舞じゃない私が無表情で生きているみたい。

 それから数日間、私は記憶を無くしていました。

   憶えている事といえば「拓ちゃんに会いたい…」と願いながら、拓ちゃんがいつも帰って来ていた道にたたずみ待ち続けていた記憶だけでした。

 そんな私がふっと我に返ったのは、陽が落ちた仕事帰りの夕方でした。

   後ろから誰かに肩を叩かれた私は、ダンサー達が稽古している公園に立ち寄り、木陰に隠れて練習状況を意味も無く眺めていました。ぼーっと立ち尽している私の肩を叩いてくれたのが拓ちゃんだと期待しながら、わくわくする気持ちで振り返りながら私は拓ちゃんの名を呼びました。

「拓ちゃん?! ……えっ?… だ、誰…」

 私の肩を叩いたのは、身なりを整えていた拓ちゃんとは全然違う風貌、見た感じ大学生風のような私の知らない男の子二人でした。期待に胸を高鳴らせていた私の喜びは泡となって消えて落ち込む私に無精ヒゲの男性が声を掛けてきたのです。

「どうしたのお姉さん? 昨日もここで見掛けたけどこんな場所でぼーって突っ立っていてさ。あんまり元気がないから心配でつい声を掛けてみたんだよ。なっ。」

 二人は目を合わせると頷きながら私の肩に馴れ馴れしく腕を回して私を誘ってきました。

「暇があるなら一緒に遊ぼうよお姉さん。その先に行くとおもしろ所があるんだよ。大丈夫、大丈夫、恐いところじゃないからさ」

 そう言う無精ヒゲの男性に優しく肩を押された私は、もう一人の男性に腰を引かれて公園を後にしてしまいました。



第二章十二


 現実離れした毎日を過ごしていた私は、身も知らない男性に誘われているのも夢の中の出来事としか受け取れませんでした。

 誘われた場所は公園から時間にして十分くらい歩いた場所にあるビルの空き部屋。 以前綺麗なブテックのお店が営業していた広々としたこの空間の真ん中に今はワンセットのソファーが置いてあるだけでした。

 歩道に面した大きなショーウィンドには走る車のライトが次々と照らされていきますが、どうやら私達三人の姿は外部から見えないフィルムが張ってあるらしく、それをいいことに無精ヒゲの男性が私をソファーへ押し倒してきたのです。

「いやっ…… 止めて……」

 車のライトを照明の代わりにして襲ってくる男性は、照らされた私の唇を嘗め回すように吸い付いつき、その不気味な男性の舌先に私は抵抗をみせますが、もう一人の男性に足首を掴まれていてはどうすることも出来ませんでした。

 でも… でも、もういいんです。

   拓ちゃんと離れ離れになってから生きる気力を失った私は、彼らに汚されてボロボロにされながらこのまま死んでしまっても構わない、このまま存在していたって誰も私のことを必要としてくれない世の中だったらいっそうのこと辱めを受けて地獄の果てまで落ちて行きたい…

 そう思うと哀しいことに抵抗する力も失せて彼らの言いなりになっていく私。

   上着のボタンを外され、ブラジャーを持ち上げられた後、私の乳首に吸い付いてきた男性は、同時に膨らんだ脂肪を揉み解してきました。一方、スカートの中に腕を入れると勢いよくショーツを下ろして足首から抜き取った男性は、私の太股を持ち上げるなり茂みの中に気味悪い舌先を這わせながら私の恥かしい密部を必死に嘗め回してくるのです。

   人形の私… 二人の執拗な責めが繰り返されてきますが私の身体と神経は何も感じることなく死体同然になっていました。

 それから更に一時間、二人の男性は面白いように私の身体を甚振り続けてきました。凶器のような肉の塊を自慢する二人は私の身体にそれを突き刺すと力の限り振り回し、私の口とあそこは彼らの性器で繰り返し何度も犯され続けていきました。

 二人の男性が何度重なって来たか記憶がありませんでした。拓ちゃんのような愛情あるSEXとは違い、それはそれは醜いものでしたが過去を清算する私にとっては丁度よかったのかもしれません。

 汚れて行く私… 楽しかった過去が少しずつ薄れていくのが分りました。



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作者竜馬さんのHP『官能小説は無限なり』

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