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第二章一 季節は春。 私と拓ちゃん宛てに往復はがきが届きました。 結婚披露宴を知らせる綾子からの招待状です。 一人不安を抱えて静岡へ旅立ち、結納を済ませた綾香が心を落着かせ、そしてお嫁さんになる幸せ一杯の笑顔が、届いたはがきには映っているように見えました。 「ついに綾香もお嫁さんかぁ」 花嫁衣裳の綾香を想像したのか拓ちゃんは、そう呟いたあとに安堵した表情をみせていました。 私達二人は、届いた往復はがきの出席に丸印をつけ、「綾香が幸せになりますように」と、まるで祈願をするかのようにはがきを投入した赤いポストに手を合わせたあと、星空の中を二人で帰ってきました。 見上げると外灯の灯火に輝く小さな桜の蕾が夜風に吹かれて揺れています。 この蕾が満開の花となり和の風情を私達に語りかける時期になる頃、綾子は桜の花のようなウエディングドレスを全身に纏って式場を舞うに違いありません。 ──その夜 ベッドに入ると拓ちゃんは私を優しく抱いてくれました。 「次は……」 「えっ? 何? 拓ちゃん」 薄明かりのベッドの上、腕を回した拓ちゃんが私を抱きしめてくれます。 「次は、舞の花嫁姿だな…」 「拓……………」 そのままくるりと私の上に多い被さってきた拓ちゃんは私の唇に唇を重ねた後、私の耳元で囁きました。 「早く、早く舞の花嫁姿を、見てみたい…」 「拓… ちゃぁん… ぁぁ… …ぁぁぁ…」 何より嬉しい言葉のプレゼントに私の身体は熱く反応して耳に吹き付けられる刺激に吐息が止む事がありませんでした。拓ちゃんの男らしくて力強い舌先に私の身体は蕩けていく錯覚を覚えて堪らなくなっていきます。 幸せになりたい… 今も、そしてこれから先も… そんな事を考える私は、拓ちゃんの愛情ある愛撫に身も心も全て捧げる気持ちで一杯になり、首筋から胸へと伝う舌先に責められ早く乳首を愛撫して欲しくて堪らなくなっていきました。 二 早くぅ… 乳首への官能を求める私の願いはすぐに受け入れられ、吸い付くような拓ちゃんの唇は私の突き出した小さな苺をおしゃぶりしてくれました。そして、それと同時に蜜を溢れさせて花弁と化した私の内襞を押し開いて挿入されてくる拓ちゃんの二本の指の刺激も私を淫楽へと誘っていくのです。 人形のように操られる私の身体は熱く燃え上がり、拓ちゃんの言うがままに身体は勝手に動いて淫欲を欲しがってしまいます。そして私は、恥かしい格好で、お汁を流している陰唇を舐めてもらいたく、赤ちゃんのように両脚を開いて持ち上げた姿でおねだりしてしまいました。 「拓ちゃん… ここも… お願い……」 と、言う私の言葉にも拓ちゃんの意図があります。だって、もっとも感じてみたいあそこを他所にそこの周りだけを刺激されては腰を突き出して懇願するしかありません。 どこだい? まるでそう聞いてくるような舌先に私はわけもわからず両手であそこを開いてみせて「ここを…」と恥じらいも捨てて愛しい男性の前でお汁を溢れさせているあそこを見せて催促してしまいました。 でも拓ちゃんは、そういう舞を求めていたと思います。 そして再び私は、隠語を言葉に並べて拓ちゃんの愛撫をあそこへと求めていくと、茂みを掻き分けて走る拓ちゃんの舌先は、熱い噴水のようにお汁を噴出している私の陰唇へと密着してくるのでした。 満足感に浸る私に拓ちゃんの大きな身体が覆い被さってきます。両腕を回しても回しきれない逞しい身体で私の熱く痺れ続けている体内の入口を何度も突き上げて私を狂わせているのです。 そして、小さかった波は次第に大うねりとなって私の身体から流れ出し、更に私の身体の奥で大きく脹らみ硬くなった拓ちゃんのあそこからは、生きる活力となるエネルギーの液体が魂が宿す私の子宮へ注ぎ込まれてきました 拓ちゃんの全てと融合していく私… もう拓ちゃんなしでは生きていけないことを実感していました。 三 幸せ一杯の毎日。 逆に私は、幸せな日々を続けていくことが不安になり、朝、目を覚ますと必ず拓ちゃんの存在を確認し、すやすや眠る拓ちゃんの寝顔を眺めながらほっと一息ついては不安を消し去っていきました。 「私の考えすぎだわ… 拓ちゃんがいなくなるなんて考えられないもの…」 朝、出勤仕度をしている拓ちゃんの背中を眺めては、私はそんな不安も抱えていました。 「舞? どうしたんだよ。ぼぉっとした顔して… 会社、遅れるぞ」 「…うん…… ねぇ… 拓ちゃん…」 「んっ? 何だよ?」 「私のこと… 愛してる?」 疑っていたわけではありません。ただ、その日の朝は、拓ちゃんの気持ちを確認しておきたかったのです。 「…ははっ、何を言うかと思えば… 嫌いだったら昨夜、舞を思い切り抱いたりしないだろ? それに、ここにさえいないと思うけどな…」 「それは… それはそうだけど…」 子供のような問いかけに戸惑ったのか拓ちゃんは、最初苦笑いをみせていましたが、私の肩を抱き寄せると優しく言ってくれました。 「愛しているよ」 背伸びした私の唇に拓ちゃんの唇が重なってきます。とても、とても深い愛を感じる口付け。今まで交わした口付けの中で一番の愛情を贈ってもらえたように私は感じずにはいられません。 しかし、まさかその口付けが最後となるとは想像もしていませんでした。 その悲劇の幕開けは、会社へ出掛けようとした私がハイヒールに足を運んだその時に起きたのです。 「あっ?! 携帯が鳴っているわ…」 バックの中で鳴り響く携帯の着信音の音色に私は、いつもと違う不安を覚えながら鳴り続ける携帯を手にしていました。 「村田さんからだわ。どうしてこんな朝早くに…」 鳴り響く携帯に視線を送った後、私と拓ちゃんは顔を見合わせました。 そして私は思い出しました。以前、拓ちゃんの出張中に届いた村田さんからの連絡、あの時と同じ胸を押し潰されそうな恐怖が押し寄せてきた心苦しさを。 四 私の悪い予感は的中してしまいました。 「舞、どうしたんだ? 村田さんだろ? 何かあったのか?」 慌てている村田さんの口調に言葉を返せない私に、不信に思った拓ちゃんが声を掛けてきました。 「…そ、それが… 綾子が帰ってこないって…… どうして…」 「う、嘘だろ?! …舞、電話を代わって。俺が詳しい話を聞いてみるよ」 「うん……」 陽気な春を前にして、突然吹き荒れた嵐のようでした。何が綾子にあったのか… いいえ、それより無事でいるのか心配で心配でなりません。 私と代わった拓ちゃんは、詳しく村田さんから事情を聞いていました。 話によると、一週間ほど前から綾子の様子がおかしいことに村田さんは気付いていたそうです。その時は、綾子がてっきり結婚式のことを考えすぎて表情を曇らせていたとばかりに思っていたそうですが、昨日昼、買い物に出掛けたまま帰ってこなくなったそうです。 『綾子の家にも連絡してみたが帰っていないみたいなんだよ。だから、ひょっとしたら舞ちゃんの所に行っているのではないかと思って、今、連絡してみたところだったんだが… そうか、そちらにも行っていないのか…』 「ええ、こちらには連絡もないです。でも… どうして綾子が家出を…」 『分からん… 僕らにもさっぱり分からないんだよ… 済まないね、拓郎くん君達まで心配をかけて…』 「い、いいえ… もし綾子… 綾子さんから連絡があったら直ぐに連絡をします。舞にもそう伝えておきますから…」 『あぁ… 申し訳ないがお願いするよ…』 一晩中捜し求めていたのでしょう。村田さんの疲れきった声がそれを物語っていました。 「どう言う事なの? ねぇ、拓ちゃん?! どうして綾子がいなくなったりするの?!」 「…お、俺にも分からないよ… あいつ… 何やっているんだよ…」 携帯を切った拓ちゃんは床の一点を見詰め、一つ大きな溜息をついた後、私の顔を見て「とにかく… とにかく綾子から連絡が来るのを待とう」と不安げな表情で言いました。 今の私達には、遠くに離れて過ごす綾子のことをどうすることもできない意地らしさに歯がゆさを憶えます。近くなら直ぐに探しに出掛けているところですが、今は姿を消している綾子からの連絡、または「無事に帰ってきた」と言う村田さんからの吉報を待つしかありませんでした。 五 会社に出勤してからも綾子のことが気掛かりで仕事になりません。何があったか検討もつきませんが、一言だけいいからせめて連絡だけでも欲しいと願いながら一日を過ごしていました。 でも、帰宅時間になっても、アパートに帰ってからも綾子から連絡が入ることはありませんでした。 携帯は、拓ちゃんからの着信音が鳴るばかり。 『舞、どう? 綾子から連絡はきていなのか?』 「うん… まだこないの… はぁ… どうしたのかしら… 悩み事がある時は必ず連絡をよこしていたのに…」 「そうだったよな… 俺達に連絡してこないってことは余程のことがあったんだろうな…」 「余程のこと? …余程のことを私達に話せない綾子は……」 「どうした? 舞…」 「拓ちゃん、まさか綾子…」 私は、一人悩み苦しむ綾子の哀しげな表情を想像すると、まさかこの世にお別れをしようと綾子が考えているのではと恐ろしくなったのです。 「ま、舞! 何を考えているんだ!そんなことがある分けないだろ!」 「う、うん… そうだよね。 …ごめんなさい。おかしなことを考えて…」 「とにかく、今から帰ってくるよ。 今は、綾子からの連絡をただ待つしかないよ… 待つしか…」 拓ちゃんは私と、そして自分自身にそう言い聞かせるように携帯を切りました。 桜の蕾が膨らみかけた桜並木を会社帰りの若い女性達は、桜が早く花を咲かせないかと楽しみながら歩いて行きます。その女性らとすれ違う拓ちゃんは眉間にシワを寄せて立ち止まると小さな蕾を見上げました。 「何があったんだよ… 綾子…」 小さな蕾がこれから綺麗な花を咲かせようとしている姿を見ていた拓ちゃんは「綾子、お前もこれから一花咲かせようとしているんだぞ」と小さく呟きながら携帯を握り締めています。 遠く離れた静岡。一睡もしないで綾子からの連絡を待ち続ける村田さん。 私は一人アパートで、夕食の支度をしながらも携帯を目の前に置き、いつでも綾子からの連絡が入ってもいいように気をつけていました。 時計の針は夜の八時を指しています。 と、その時でした。 一本の携帯に綾子からの着信音が鳴り響いたのです。 六 綾子からの連絡に鳴り響いたのは拓ちゃんの携帯電話でした。 「綾子?! 今、どこにいるんだ! 村田さんも心配していたけど連絡したのか?! 綾子? 聞こえているんだろ? 綾子!」 『……………』 「何処にいるんだ? なぁ綾子! 今何処にいるんだよ!」 『……………め…ん。 …ごめん……………ぐすっ …ごめんなさい……』 「迎えに行くから場所を教えてくれ。村田さんにも無事だったことを連絡しておくから…」 『拓……… お願い……誰にも連絡しないで………』 「どうして?! 何があったんだよ! みんな心配して待っていたんだぞ!」 『ごめんなさい…… うぅ…… ぅぅ…… 迷惑かけてごめんなさい……』 受話器の向うですすり泣く綾子の声を聞いた拓ちゃんは、つい興奮して大声で問い掛けていた事に気付きました。 「す、済まない… 大きな声を出してしまって… 分かった。分かったから誰にも連絡はしないよ。だから、今いる場所だけ教えてくれないか。俺が、俺が迎えに行くから。なっ、それでいいだろ?」 拓ちゃんは、綾子の居る場所を聞き出すと街灯が灯る歩道を振り返り、今来た道を直ぐに引き返して行きました。 どうやら綾子は、拓ちゃんに会う為に拓ちゃんの会社の近くまで来ていたようです。 静かに流れていた時間は、桜の花を吹き飛ばすような突風へと変わり、鑑賞を望む私達の心をあざ笑うような時間へと移り変わるのです。 私の携帯に拓ちゃんから連絡がきたのはそれから三十分経過してからでした。 「どうしたの拓ちゃん? まだ帰ってこないの?」 『あぁ… それが… 今、綾子と一緒なんだよ…』 「えっ?! 綾子? 綾子が見つかったの? 拓ちゃん、綾子は元気?ねぇ?」 『あぁ… 大丈夫だよ』 「元気なんだ! あぁよかった… 村田さんも安心してたでしょ?」 『……… いや…… それがまだ、連絡していないんだ』 「えっ? …どうして?」 綾子が見つかったと安心して喜んでいたのもつかの間、拓ちゃんとの会話におかしいと思った私が沈黙した実際の時間はほんの数秒だったと思いますが、何故か私には数分、いいえ、数十分もの間拓ちゃんとの会話が長く途切れたように思えたのでした。 第二章七へ |