第6話:反省室の少女

その1


「ねぇ、エリ子ってばぁ・・・こんど入った、あの梨香ってコ、ちょっとナマイキじゃないぃ?・・」

 黒船館船底ルーム、相変わらず大勢の客で賑わっている。
 エリ子を始め、何人もいるエスコーター達も、休む閑なく案内を続けている。

 とは言うものの、やはり若い女の子だ。
 そんな忙しさの中にも、僅かな時間をみつけては、仲間同士の立ち話をしている。
 話の内容は他愛もない噂話、幹部への不満やその場にいない仲間の悪口など・・どんな職場でも、同じようなものらしい。

「う、う~ん・・・そうかな?」
 エリ子が曖昧に頷くと、話しかけていたその案内係は、我慢ならないというようにまくし立てた。

「そうよ、お客様にちやほやされてさぁ・・・来たばっかりなんだから、お客様も珍しいだけよ。それなのに色目なんか使っちゃってさぁ、プレゼントなんか貰ってるみたいよ。」
「えっ、それってホントォ??」
「そうよ、あのお客様に気があるみたい、って勘違いさせたら大変よ。そんなこと、ミツホさんに知られたら、ドヤされるわ。そう思って、注意するように言ってあげたのよ。」

「それで・・・?」
「癪に障るじゃない。ワタシ、人気があるから大丈夫ですってさ。あのコの指導、あんたの受け持ちだったじゃない? 気をつけたほうがいいわよ。ほっとくと、あんたまでトバッチリ食らうから。」
「うん、今度注意しとく。サンキュー!」

 エリ子も、黒船館に就職して、もう2年以上になる。
 今ではミスをすることも無くなり、認められて新人の指導担当まで任せられるようになっていた。

 黒船館も、何度か改装を重ねている。
 そのたびに新たな責任者が任命されているが、今の船底ルーム責任者はミツホ。
 諜報部拷問課のマキ、陵辱部屋のナミなどにも勝るとも劣らぬサディスティンとして、案内係たちには恐れられている。

 今も船底ルームに現したミツホの姿を素早く目に留めた二人は、素知らぬ振りをして分かれると、それぞれ客のエスコートへと戻って行った。


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 ワタシは今日も黒船館に遊びに来ていた。

 ワタシのお目当ては、最近ここの案内係になった「石川梨香」。
 ブルーのセーラー服がよく似合う可愛い娘だ。
 何とか気を惹いて、モノにしてやろうと、いろいろと画策している最中だ。

 もちろんワタシも、黒船館の館員だ。
 外に連れ出してナニやらいたそうとか・・・そんな不埒なコトを考えているわけじゃ断じて、ない。

 ここ数回、来るたびに珍しい色のルージュとか、あの子の年頃じゃチョット手の出ない香水の小瓶など、気の利いたプレゼントを贈って様子をみている。

 最初は戸惑った顔をしていたが、どうやら貰うのに慣れてきたようだ。
 この調子なら、近いウチに・・・ワタシは期待に胸を膨らませていた。

 が、今日はどこにも姿が見えなかった。
 受付で聞いたら、非番だと言う。ワタシはガッカリした。
 他の案内係をお付けしますが・・・そんな受付の言葉に頭を振って、しばらく1人で船底ルームをブラつくことにした。

 その時、近くを連れ立って通り過ぎた案内係の話し声が、切れ切れに耳についた。

「・・・こんど入った、あの梨香ってコ・・・」
「・・・色目なんか使っちゃってさぁ・・・貰ってるみたいよ・・・」
「・・・あのお客様に気があるみたい・・・なのよ。」

 もしかすると・・・ワタシのプレゼント作戦が上手くいっているのか?
 先ほどまでの、梨香がいなくてガッカリしていた気分が一転し、急にばら色の未来が開けたような気がした。

 よし、それならば・・・一つのアイデアが頭に浮かぶ。

 ワタシは予定を変更して、今日は帰ることにした。
 今度来るときの、準備をするつもりだった。

 今度、あの子が出てくるのは明日の夜、だったな・・・受付の言葉を思い出しながら、足取りも軽く黒船館を後にした。



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