第4話:逃亡の果てに ~続・針山の一夜~

その4


 その時、不意に事務室の電話が鳴った。
 残っていた男が、謝るように応対している声が聞こえる。

 ハイッ・・・イエ、まだ見つかりません・・・
 イヤ、そんなことは・・・
 ご安心下さい、必ず・・・
 ・・ハイッ、では早速手配いたします・・・

 電話が切れると、応対していた声が言った。

 オイッ!!・・・
 お前は玄関に行って、逃げ出さないように見張ってろ・・・
 オレは仲間を呼んで、徹底的に探すから・・・
 上の方は、オカンムリだぜ・・・

 倉庫の中にいた男が出て行く気配がする。
 エリ子はそっと伸び上がって、その後ろ姿を見た。
 ボクサーのようにがっしりとした大男だ。

 やがて、事務室を2人が出て行く足音が遠ざかる。

 エリ子も、そっと廊下に出て、素早く辺りを見回した。
 男達の話だと、今、黒船 館は港についているらしい。
 航海中なら、出口を見張る必要はない筈だ。
 今なら 逃げられるかも・・・今しかない。

 また、廊下の向こうから足音が聞こえる。
 エリ子は近くにあった非常階段の扉を開けて、転がるように駆け下りた。
 音のしないように、サンダルを脱いで、手に持っている。
 床の冷たさが素足に滲みるが、気にしている暇はない。

 表玄関はダメヨ・・・もう見張られている筈・・・
 でも、でも裏口なら・・・食料や燃料を運び入れる、搬入口なら・・・
 お願い!・・・開いてますように・・・誰もいませんように・・・

 黒船館の複雑な通路を、必死に進むエリ子。
 時々聞こえる足音に、手近な角を廻り、隅に隠れたりしながら、それでも少しずつ出口を目指している。

 もう少し・・・もう少しよ・・・
 あの角の先が、確か裏口だった・・・

 最後のコーナから、そっと顔を出して、出口を伺うエリ子。

 開いてる!・・・誰もいない!!・・・今だ!!!・・・

 慌てて、走ってはダメ・・必死に足音を忍ばせ、搬入口に近づいたエリ子。
 そのまま、するりと外へ出ると、掛けられたタラップを急いで降りた。

 ここは船の、一番後ろの方だ。
 桟橋に降り立ったエリ子は、タラップの陰から玄関・・・客用のタラップの方を伺った。

 朝のこの時間は、あまりお客様も多くない。
 きちんと黒服を着た給仕達が、ときおり訪れる客を出迎えるために立っているのが見える。

 少し離れて、さっきのボクサーのような体格の男がいる。
 目立たぬようにしながら、周囲を見張っているようだ。

 次にエリ子は、正面の様子を観察した。
 目の前に大きな倉庫が建っている。
 その脇が空き地になっている。
 空き地の向こうは、どうやら表通りらしい。

 あそこまで行ければ・・・倉庫の陰まで、見つからずに行ければ・・・
 ちょっとでいいから、向こうを向いてて・・・
 倉庫の陰まで走る間だけ・・・

 辺りを見回していた男が、ふと伸びをした。
 そしてポケットに手をやると、煙草を取り出した。
 ライターで火を点けようとしている。

 今よ!・・・エリ子は、さっと走り出した。
 目の前の倉庫が、少しも近づいて来ないように感じられる。
 早く・・・早く・・・もう少し・・・

 オイッ!!!・・・イタゾ、あそこダ!!!・・・

 ハッとして振り返ったエリ子の目に、もう何人かの男達がばらばらと走って来るのが見えた。
 エリ子も必死に走り、倉庫の脇の空き地に飛び込んだ。

 向こう側の大通りまで、逃げ切れば・・・逃げ切らなければ・・・

 空き地は舗装されてなく、とても走れない。
 もう少し・・もう少し・・・

 息を切らしながら、必死に足を動かす。
 振り返ると、いま最初の男が、倉庫の角を廻って姿を見せたところだ。

 アアァッ!!・・イタイッ!!・・足が、足が痛い!!

 何かに躓いて、挫いたのだろうか。踝から鋭い痛みが駆け昇る。
 しかし足を弛めることはできないのだ。

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