第4話:逃亡の果てに ~続・針山の一夜~

その3


 すっかり針を抜かれ、止血を兼ねた痛み止めの軟膏を塗られる頃になって、やっとエリ子は手当てを受けているのに気が付いた。
 形の良い乳房は、拘束ベルトで締め上げられた痣も消え、瑞々しさを取り戻している。

 手当てが終わり着衣を許されたエリ子は、大急ぎで案内係の事務室へ向かった。
 事務室の扉を開ける。
 誰もいない。

 机に向かい、期待と不安に震える指でパソコンの電源を入れ、自分のパスワードを打ち込んだ。

 開発部長からの返信は・・・無い!!
 しかし、SanKakuからの返信ヘッダを見つけたエリ子は、祈るようにそのメールを開いた。


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拝 啓

 この前は楽しかったよ、君のエスコートで回る黒船館は・・・。
 ああ、手紙をくれたんだねえ、ありがとう。
 うれしいよ、君のようなかわいい子から手紙を貰えるなんて。

 さて? 君が私に失礼なことをした?
 迷惑をかけた? なんのことだろう?

 わからない。九兵衛様にも?
 今日中に、手紙を下さいって?
 もう間もなく夜が明ける。無事に、間に合うように、このメールが届けばいいのだが。

 すまない、すまない、私も家族の目を盗むのに忙しいのだよ。
 とにかく、私にはなんのことかわからない。
 済まないねえ。キャプテンJ様か、マキ様にでも聞いてみておくれ。
 そうだ、イネの十四郎様ならお分かりになるかもしれない。
 直接九兵衛様に聞いてみてはどうかなあ。

 また今度、黒船館に行ったときはよろしく。
 極上の獲物が入ったそうだね。
 晒しの間で、君と一緒にダーツ大会をやろうじゃないか。
 もちろん、君も的になるのだよ。

 君には、九兵衛様が開発されたという「特製の針」を投げてあげるからね。
 今から楽しみにしておくよ。

 それでは

敬具
SanKakuより

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 ああぁっ・・これではなにも分からない・・・
 呆然と、画面を見つめるエリ子。

 何か・・何でもいいから、何か考えなくては・・・
 早く・・早く・・・

 ふいに、廊下に足音が響く。

 あれは?・・・
 もう、わたしを探しに来たんだ!・・・

 そう直感したエリ子は急いで立ち上がり、事務室の隣の倉庫へ逃げ込んだ。
 滅多に使われない倉庫の、黴臭いにおいがプ~ンと鼻をつく。

 電気を点けることはできない・・・薄暗い倉庫の中で、音を立てないようにしながら積まれている段ボールの箱を少しずつ動かして、エリ子は僅かな隙間を作るとそこに蹲った。

 足音は一旦遠ざかり、また近づいてきた。
 カチャッとノブが廻る音がして、足音が事務室に入る。
 2人らしい・・・

 おかしい、ここにもいない。
 早く連れて行かないと、こっちがドヤされるぜ。

 ふん・・どうせ隠れても、すぐに見つかるさ。
 もっと酷い目に遭うがいいやね。

 おっと、念のため倉庫も覗いておけよ・・・

 一層身を固くするエリ子。
 ドキドキと、胸を突き破りそうな鼓動が、相手に聞こえそうだ。

 お願い・・・見つけないで・・・

 扉が開き、倉庫の中が明るくなる。
 ガタガタと段ボールを調べる音が近づいてくる。
 少しずつ・・確実に近づいてくる・・・

 あぁぁっっ・・・もうダメ・・・神様ぁっっ!!!

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