第4話:逃亡の果てに ~続・針山の一夜~

その1


エリ子のメール

黒船館特別館員・SanKaku様
黒船館開発部長・彦坂九兵衛様

私、案内係の佐藤エリ子です。今日、私はマキ様に厳しく叱られました。
SanKaku様と九兵衛様に、失礼なことをしてしまったからです。
本当に申し訳あ りませんでした。深く反省し、お詫び申し上げます。
お許し下さい。

で、エリ子のお詫びを聞き届けて下さるのなら、お願いがあります。
エリ子の失 敗、エリ子がどのような点で、ご迷惑を掛けたのか、教えて頂きたいのです。きっと不愉快な思いを、させてしまったのでしょうが、エリ子は経験が少ないので、よく判らないのです。
これから一所懸命努力しますから、教えて下さい。

お願いです!
もし、今晩中に教えて頂けないと、エリ子、もっともっと厳しく叱られてしまうのです。ずっと酷い目に遭わされるのです。お願い、お願いですから、必ずお返 事を下さい。

本当に宜しく、お願い致します。

佐藤エリ子

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 もうすぐ夜が明ける。
 エリ子は、まんじりともせずに自分の部屋の小さな窓から、白んで行く空を見つめていた。

 上半身は裸のまま、後ろ手に掛けられた手錠もそのまま・・・昨夜、悪夢のようなお仕置きをされた、そのままの姿だ。
 胸が痛い・・・それぞれ50本以上も刺された針が、そのままにされている乳房が、燃えるような痛みを訴えている。
 とてもベットに横になったり、ましてや眠れる状態ではなかった。

 それでなくても宿題が、朝までに回答を用意できないと、昨夜に増して酷い目に遭わされることになる宿題が残っている。

 朝までに・・・朝までに・・・回答が用意できるだろうか・・・
 その不安だけでも、眠れる筈はなかった。

 昨夜・・・体罰室から解放されたとき、必死になって案内係の仲間に頼みこみ、ようやっと口述筆記でメールを送って貰ったのだ。
 開発部長の九兵衛と、昨日の客であるSanKaku宛に。
 しかし、それで不安が消えるものではない。

 あのメールに、返事が来るだろうか・・・返事には、失敗の内容が判る、少なくともヒントが書かれているだろうか・・・
 もし、今のままで何も判らないまま、もう一度呼び出されたら・・・
 何も答えられないと・・あたしは、あたしは・・・・

 夜の間、何度案内係の事務室まで行って、備え付けのパソコンでメールを見ようと思ったのだろう。
 しかし、後ろ手に拘束されたままで、とてもキーボードを操 作できる筈がない。

 もう一度、誰かに頼んでメールをチェックしなくては・・・・
 しかし、まだ返信が来ていなければ、何度も頼むことになってしまう・・・
 それよりも、もし返事が来なかったら、どうすれば・・・

 何度も腰を上げかけては、結局ベットにジッとしたままで、夜明けを迎えようとしている。
 エリ子の目に、一滴の涙が光った。


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 ガチャッ!!

 いきなり乱暴に、エリ子の部屋のドアが開けられた。
 黒船館のスタッフが2人、 何も言わずに入ってきた。

 アッ!!、アアァァッッ!!・・・
 も、もう、お呼びなのですかっ!!?

 エリ子の、悲鳴のような問いに、スタッフは何の反応も見せずに、両腕をがっしりと捕まえた。

 イヤッ!、イヤッッ!!
 お、お願いですっ!!!

 ま、ま、まだ朝までには、じ、時間がありますっっ!!!
 オネガイッ!、オネガイデスッッ!!
 もう少し、待ってクダサイッッ!!!

 不自由な体を捩り、必死に叫び続けるエリ子・・・・
 しかし、スタッフは能面のような表情を崩すことなく、両脇からエリ子を捉えて歩き出した。

 エリ子は何とか逃れようと、両足を突っ張る。
 しかし2人のスタッフの力に叶う筈もなく、そのままズルズルと引きずられて行く。体罰の恐怖に顔を歪め、涙を噴きこぼしながら、悲痛な叫びが迸る・・・

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