ファンタジー官能小説『セクスカリバー』

Shyrock 作



<第34章「蛇淫のしたたり」目次>

第34章「蛇淫のしたたり」 第1話
第34章「蛇淫のしたたり」 第2話
第34章「蛇淫のしたたり」 第3話
第34章「蛇淫のしたたり」 第4話
第34章「蛇淫のしたたり」 第5話
第34章「蛇淫のしたたり」 第6話
第34章「蛇淫のしたたり」 第7話
第34章「蛇淫のしたたり」 第8話
第34章「蛇淫のしたたり」 第9話
第34章「蛇淫のしたたり」 第10話
第34章「蛇淫のしたたり」 第11話

セクスカリバー世界地図




<登場人物の現在の体力・魔力>

~オデッセイ大陸を冒険する仲間たち~

シャム 勇者 HP 910/910 MP 0/0
イヴ 神官 HP 730/730 MP 780/780
アリサ 猫耳 HP 750/750 MP 0/0
キュー ワルキューレ HP830/830 MP460/460
エリカ ウンディーネ女王 HP 630/630 MP 850/850
マリア 聖女 HP 620/620 MP 870/870
チルチル 街少女 HP 570/570 MP 0/0
ウチャギーナ 魔導師 HP 660/660 MP 810/810
リョマ 竜騎士 HP 1010/1010 MP 0/0

~暫定的な仲間たち~
ステファノ 街の男 HP 600/600 MP 0/0
エンリコ 街の男 580/580 MP 0/0

⚔⚔⚔

~ロマンチーノ城に向かった仲間たち~

シャルル 漁師・レジスタンス運動指導者 HP 960/960 MP 0/0
ユマ 姫剣士 800/800 MP 0/0
エンポリオ アーチャー HP 720/720 MP 0/0



⚔⚔⚔



第34章「蛇淫のしたたり」 第1話

エンリコ「皆さん、おはよう! よろしくな~!」
ステファノ「宿屋はどうだった? よく眠れたか?」

 夜明け過ぎ、ステファノとエンリコは宿屋の玄関広間に現れた。

マリア「おはようございます。今日もお供ごくろうさまです」
シャム「おじさんたち、怖気づいて来ないと思っていたよ、よろしくな~」
ステファノ「これはご挨拶だなあ」
イヴ「シャムはいつもこんな口のきき方をするので気にしないでね」
キュー「きっと来ると思っていたわ。中古品なんだけどあなたたちの防具も用意したので着けてみて」
エンリコ「これはありがたい! なんだか強くなった気がするな!」
ステファノ「単純なやつだな。あれ? 本当だ、防具を付けただけ力が溢れて来たぞ」
エンリコ「おまえの方が単純じゃないか」
ステファノ「ははははは~」

 臨時の仲間2人が加わり総勢11人が再び廃坑の探索を開始した。
 吸血コウモリが現れた広場までは昨日と同じ経路をたどり難なく進むことができた。
 広場に到着すると吸血コウモリの焼けた残骸が散乱しており焦げ臭い匂いが鼻を突く。

シャム「うっ、焦げ臭いなあ」
マリア「空気が外に逃げないので匂いが残ったままになっているのですね」
アリサ「ここから道が3つに分かれているよ。どの道を行くのおおおお?」
リョマ「真っ直ぐ……右……左……。どの道を進むべきか迷うところですね」

 こういう場合はリーダーの判断で決まる。
 シャムに尋ねると、彼はちょっと考えてからこう答えた。

シャム「よし、真っ直ぐ行こう」

 イヴが松明を灯し辺りを照らし坑道の地面や壁を目視していく。
 先頭を行くイヴとシャムには周囲がよく見えるが3番手以降は薄っすらと足元が見える程度だ。
 3番手を行くキューがなにげに壁に触れた時、ぬめっとした不快な感触に襲われた。

キュー「何この感じ!? もしかしてこれって……きゃぁ~~~!」
シャム「キュー、どうした!?」
キュー「みんな気をつけて、この辺りに蛇がいるわ!」
チルチル「わぁっ! こっちにもいるでピョン!」

 シャムたちは武器を構えると同時に、蛇たちが飛びかかってきた。
 大きさはまちまちで、斑点のある蛇、黒い縞のある蛇、緑色の蛇、さまざまの種類の蛇がまるで示し合わせたかのように向かってくるではないか。
 切っても切っても次から次へと現れては牙を剥く蛇たち。

ステファノ「うわっ! まとわりつくな! この野郎!」
エンリコ「これって毒蛇じゃないのか!?」
ウチャギーナ「頭の形からすると毒蛇じゃないわ! でも数が多すぎて倒しても倒してもキリがないわ!」

 ウチャギーナは杖を振り回して応戦している。

ステファノ「魔法を使える人がいるのにどうして魔法を使わないんだ!?」
エリカ「洞窟や廃坑でうっかり強力な魔法を使うと落盤が起きる危険性があるのです」
エンリコ「エリカさんの魔法はそんなに凄いのか!」
エリカ「いいえ、それほどでもありませんわ」
マリア「エリカさん、奥ゆかしく謙遜している場合じゃありませんわ。大きな魔法がダメなら小さな魔法を使えばいいじゃないですか?」
エリカ「あら、そんな手がありましたね」

 エリカはにっこりとマリアに微笑を返す。

ウチャギーナ「じゃあいっしょに魔法を唱えて、蛇を追っ払おうよ!」
エリカ「分かりました。ウチャギーナさん、では行きます!」
ウチャギーナ「は~い!」

 水と風、2つの魔法がハーモニーを奏でると、蛇の大群はもがき苦しみ瞬く間に葬り去られてしまった。
 
ステファノ「一番小さな魔法でもこのド迫力。凄すぎて震えが来た……」
エンリコ「2人が偉大な魔導師だということがよく分かったよ」

 蛇の屍の向こうには岩の壁があるだけ。先には進めないようだ。

シャム「この先は行き止まりだ。戻るぞ」
マリア「蛇に噛まれた人はいませんか? 治療をしますよ」

 返事がない。返事がないのは怪我人はいなかった証だ。

 広場まで戻るとシャムは右側に視線を向けた。

シャム「今度は右側に行くぞ。イヴ、松明をおいらにくれるか」

 イヴが持っている松明を受け取ると鏡の盾の上部に括りつけた。
 右手で盾と松明付きの盾を持ち、左手で剣を握るとゆっくりと歩きだした。
 
シャム「おいらが先に入るので、おいらが『よし』と言うまで皆は入ってくるな!」
イヴ「1人で行く気? 私も行くわ」
シャム「石化怪物が現れなければ声をかけるから待機していろ」
イヴ「分かったわ」
キュー「にゅう」
アリサ「にゃああああ!」
チルチル「ドキドキでピョン♫」

 次の刹那、シャムは単身暗闇の中に飛び込んでいった。
 坑道の横幅は今までよりもわずかに狭くなっているようだ。

 シャムは暗闇の中で気持ちを集中させる。
 敵の気配は感じられない。
 少し進むと小さな広場に到着した。
 魔物はおろか石化した男の姿も見当たらなかった。

シャム「何もないぞ。お~い、みんな、こっちに来ていいぞ~!」

 シャムの安全宣言を聞き、一同は右側の広場に入っていく。
 後方のリョマが松明を高く掲げ右側の広場を照らす。
 何事もなかったことの安堵感と失意が錯綜する。



第34章「蛇淫のしたたり」 第2話

ステファノ「何も見つからないね。石に変えられた泥棒の話は誰かの作り話だったのかなあ……」
イヴ「決め付けてしまうのは少し早いと思うわ。まだ全部を見たわけではないのだから」

 右側のエリアをつぶさに調べてみたが、石化した人間や証拠になりそうな物が見つからない。
 諦めてその場を立ち去ろうとしたとき、突然ウチャギーナが声をあげた。

ウチャギーナ「ん……あれ……?」
リョマ「どうした?」
ウチャギーナ「何かしら、これ……?」

 ウチャギーナが指さす方向を見つめるリョマたち。
 リョマたちの視線の先には青く輝く小さな欠片が落ちていた。

リョマ「きれいな石だね」
キュー「これって宝石じゃないの?」

 エンリコも輪に入ってきた。
 
エンリコ「なんとっ! これは宝石のラピスラズリだよ!」
イヴ「でも変だわ。ポリュラス鉱山で採掘していたのはダイヤモンドなのに、どうしてラピスラズリの欠片があるの?」
キュー「確かラピスラズリが採れるのはピエトラ・ブル鉱山だと言ってたよね? エンリコさん」
エンリコ「うん、言ったよ。でも妙だなあ。ここで採掘していたのは間違いなくダイヤモンドだったんだけどなあ……」
イヴ「つまり何者かがこの廃坑にラピスラズリを持ちこんだということになるね?」
キュー「そういうことになるね。う~ん……」
シャム「ここで悩んでても埒が明かないからまだ行っていない左側のエリアに行ってみようか?」
ウチャギーナ「ラピスラズリの欠片ならお金に代るかもしれないから鞄に入れておくね」

 シャムたちは『ラピスラズリの欠片』を手に入れた! 魔法の鞄に保管した!

 シャムたちは一旦広場に戻ると、まだ行っていない3つ目の坑道に足を踏み入れた。
 今度こそ石化した人間が見つかるかもしれない。いや、危険な敵が現れるかもしれない。
 シャムたちはより一層気を引き締めて坑道を突き進む。
 引き続きシャムが先頭で鏡の盾と松明を手にしている。

 先の2本の坑道よりもかなり深い。
 緊張のせいか誰も無駄口をきかない。
 
シャム「おい、誰か、何かしゃべれよ」
チルチル「さっき蛇を見て童話の『蛇の話』を思い出したでピョン♫」
シャム「うん、話して」
チルチル「うん、お話しするでピョン♫ 昔、小さな子供がいて、お母さんは毎日午後になると鉢にパン入りミルクをあげていました。子供はその鉢をもって中庭にいき座りました。ところが食べ始めると、1匹の蛇が壁の割れ目から這い出て、鉢に小さな頭を突っ込み、子供と一緒に食べました。子供はこれを喜んで、そこに鉢を置いて座り蛇がやって来ないと、叫びました。
『蛇さん、蛇さん、早くおいで
こっちへおいで、おチビちゃん
パンをあげるよ
ミルクを飲んで元気になあれ!』
すると蛇が大急ぎでやってきて、おいしそうに食べました。そして蛇はお礼の気持ちを示しました。というのは、子供に光る石、真珠、金のおもちゃなどきれいな物をいろいろ持ってきたからです。ところが蛇はミルクだけ飲んで、パンは残しました。それを見た子供は小さなスプーンをとって蛇の頭をやさしく叩きながら、『パンも食べるんだよ、おチビちゃん』と言いました。台所にいたお母さんに、子供が誰かと話しているのが聞こえ、子供がスプーンで蛇をたたいているのを見ると、薪をもって駆けていき、仲よしのおチビちゃんを殺してしまいました。
その時から、子供が変になり始めました。蛇といっしょに食べていた頃は大きく丈夫に育っていましたが、その後バラ色の頬が失せ、瘦せ衰えていきました。まもなく弔いの鳥が夜に鳴きだし、こまどりが葬式の花輪用の小さな枝や葉を集めだしました。それからまもなく、子供はひつぎ台の上に横たわりました。とさ♫」
 
 チルチルが語り終えたとき、暗闇の中から女の低くささやく声が聞こえてきた。

声の主「可哀そうなおチビちゃん……人間は酷いことをするね。蛇の執念を甘く見るとどんな目に遭うか……」
チルチル「えっ! その声は誰でピョン!」
声の主「教えてあげないとね」

 松明を高く掲げるシャム。
 彼らの前に現れたのは、上半身が美しい裸で下半身が蛇という世にも恐ろしい姿の女であった。

シャム「おまえがメドゥサオールか!?」
ラミア「残念だったわね、メドゥサオール様ではないわ。私は鬼女ラミア。あなたたちがこの洞窟に来ると聞いて待っていたの。若くて生きのよい血に飢えていたのよ。たっぷりといただくわ。さあ、私のしもべ蛇兵ヴァルーシアンたちよ、出ておいで!」」

 ラミアが合図を送ると鎧をまとった兵士たちがぞろぞろと現れシャムたちを取り囲んだ。
 兵士たちはヴァルーシアンと呼ばれており、顔が蛇で身体は人間というラミアとは正反対の魔物であった。

シャム「みんな、気をつけろ……」
ラミア「残念だけどここがあなたたちの墓場になるの。廃坑なので滅多に人が来ないからすぐに亡骸を見つけてもらえないわね」
シャム「ふん、そんな簡単にやられてたまるか。痛い目に遭うのはおまえたちだ!」
ラミア「大口を叩けるのは今のうちだけ。すぐに静かにしてあげるわ。それ! やっつけておしまい!」

 蛇兵ヴァルーシアンが一斉に襲いかかってきた。



第34章「蛇淫のしたたり」 第3話

 四方から取り囲まれ厳しい状況に陥った。
 廃坑内では比較的広い場所だが、機動を活かせる場所とは到底言い難い。
 また落盤の惧れがあるため強力な魔法を使えないのもシャムたちを苦境に追い込んでいる。
 敵に取り囲まれた場合、体力ある者が輪の外に非力な者が輪の内に、というのが鉄則だが、切羽づまった状況で陣形を選んでいる余裕などなく、個々に敵と相対するより道はないだろう。

 そんな不利な中にあってもシャムたちは大いに奮戦した。
 シャム、キュー、イヴ、リョマ、アリサは剣や爪で応戦し、エリカとウチャギーナは魔法を放つ暇がないため杖で立ち向かい、チルチルはナイトメアのバトンを振るい、ステファノとエンリコも使い慣れない短剣を手に戦った。
 唯一マリアだけは何とか戦いの輪から逃れ怪我人の治療に専念した。
 しかし数に勝るヴァルーシアンたちは、切っても切っても怯む様子がなく、異様な殺意をもってシャムたちに突撃するという面倒この上ない存在といえた。

キュー「この連中、本当にうっとうしいよ!」
シャム「いくらやっつけてもキリがないな!」
イヴ「でも敵が松明を照らして明るくしてくれてるからありがたいわ!」
アリサ「暗ければ相手もこちらの動きが読めないものねええええ!」

 飛びかかってきたヴァルーシアンに向かってシャムが剣を振った。
 敵の一体を一撃で屍に変える。
 その屍をシャムは力任せに蹴り、右手から走ってきた集団の足元に転がした。
 後続がそれにつまづいている間に、シャムは左手の敵の喉元を一突きした。

リョマ「一匹づつ倒すのが少々面倒になってきましたね! 大勢の敵にはこんな手もありかと……必殺竜光斬~~~~~!」
シャム「りゅうこうざん……なんじゃそりゃ?」

 リョマは対峙する敵との間に大量の剣閃を走らせた。
 早い話が一種の分身の術のようなものだ。 
 瞬く間に6体の敵がリョマの剣の餌食になってしまった。

ラミア「むむっ! おまえは何者だ!?」
シャム「さすがだね~、竜騎士リョマ!」
キュー「便利な剣技ね。後で教えてもらおっと!」
ラミア「甘いわね、ワルキューレさん。あなたに『後』はないわ」
キュー「私がワルキューレだって知っているの?」
ラミア「以前、倒した女があなたと同じように髪を三つ編みに編んでいて同じ衣装を身に着けていた。私の尻尾で絞め殺してやったわ」
キュー「何てことを……絶対に許さない!」
シャム「キュー、その蛇女の挑発に乗るなよ。おい、ラミア、おまえの相手はおいらだ! さあかかってこい!」

 シャムは一歩前に進み出た。
 一人飛び出したシャムにヴァルーシアンたちが一斉に襲い掛かってくる。
 それを手に持った剣で、次々とシャムは切り捨てていく。

「邪魔をするな! おい、ラミア、正々堂々とおいらと戦い!」

 シャムに触発されたのか、疾風怒濤のごとく鋭い剣さばきで次々と敵を倒して行くキュー。

 数に勝るヴァルーシアンはシャムたちの弱点を探している。
 彼らが狙いを定めていたのはチルチルであった。
 ヴァルーシアン2体が同時にチルチルに襲いかかる。

チルチル「きゃ~~~!」

 1体の脳天にナイトメアバンドを見舞って何とか難を逃れたチルチルだったが、別の1体の剣が迫りくる。

リョマ「チルチルさん、危ない!」

 すんでのところリョマの剣がヴァルーシアンの首筋をとらえチルチルは事なきを得た。
 ところが隙が生じたリョマの背後に魔の手が伸びた。
 それはラミアの長く強靭な尻尾であった。
 ラミアは石化の能力を持ち合わせていない。
 その代わり、蛇のような長細い下半身で相手に巻きつき締め付けることができる。
 その力は金属の鎧ごと内部の人間の骨をも砕くと言われている。
 
リョマ「うううっ……うぐっ……!」

 苦悶に顔を歪ませるリョマ。
 剣を振り下ろそうとしたが、その刹那ラミアに甘い息を吹きかけられ動きを鈍らせてしまう。
 甘い息には一瞬だけだが筋肉を弛緩する効果が含まれているようで、握っていた剣を床に落としてしまった。
 力を込めてほどこうと試みるが巻き付きはびくもしない。

ラミア「ふふふ、おまえがいくら怪力でも私の尻尾から逃れられないわ。苦しみながら死ぬのよ」
リョマ「うぐぐっ……」

シャム「リョマはおいらが助ける!」

 突進するシャムを短剣でかわし不敵に微笑むラミア。
 キューとイヴが攻撃を仕掛けたが同様に軽くいなされてしまった。

ラミア「無駄だわ。あなたたちもすぐに地獄に送ってあげるから待っててね」

 その時、ウチャギーナが呪文を唱えようとしていた。

ラミア「あなたはどんな魔法を使うのかしら? でも私に魔法を使うと竜騎士さんにも被害が及ぶことを忘れないでね。それでもよければどうぞ使ってみせて。ふふふ」
ウチャギーナ「うっ、リョマを巻き込むわけにはいかない……」
リョマ「ウ……ウチャギーナ……私に構わず魔法を放て……ラミアを倒すのだ……」
エリカ「ウチャギーナさん、ここは慎重に対応するべきだと思いますよ。魔法を放つことでリョマさんの怪我も心配ですし、あなたの魔法の威力は凄まじいのでもし失敗すると壁が崩れ落盤が起きるかもしれません」
ラミア「あら、なかなか冷静なお姉さまが仲間にいらっしゃるのね、ふふふ」

 話している最中もラミアは休むことなくリョマを締めつづける。
 リョマの体力の低下を懸念したマリアが彼に向かってヒールを唱える。
 ただしヒールで体力は回復するが、もしもリョマが窒息死してしまえばヒールは何の意味も持たない。
 むしろヒールのおこぼれにあやかったラミアを喜ばせることになってしまった。

ラミア「まあ、心地よいヒールの香りだこと。私も元気をいただいたわ。礼を言うわ、聖女マリアさん」
マリア「……」



第34章「蛇淫のしたたり」 第4話

 直接攻撃を仕掛けても簡単に跳ね返されてしまう。
 魔法攻撃は捕われているリョマにも被害が及ぶ。
 さらにリョマの体力を保持するためヒールを使うと敵の体力をも回復させてしまう。
 いずれの策を講じてみてもうまく事が運ばない。
 しかも敵はラミアだけではなく多数のヴァルーシアンがいる。
 雑魚敵とはいっても兵力の差で明らかに劣勢だ。

 その雑魚敵ヴァルーシアン1体にすらステファノとエンリコは手を焼いている。
 ステファノはなんとか上体を逸らしヴァルーシアンの槍をかわす。
 その隙に乗じてエンリコの短剣がようやくヴァルーシアンの首を捉えた。

ステファノ「ふう、やばかった。エンリコ助かったよ」
エンリコ「2人で1人ずつなら何とか倒せそうだな」
ステファノ「蛇男だから1匹だろう?」
エンリコ「そんなことどっちだっていいだろう」
ステファノ「おおっと、また次の野郎がかかって来やがった!」

 ラミアの強烈な締め上げでリョマの全身の骨が軋み、逃げ出すどころか身動きすることもできない。
 あまりの激痛に声も出せず、肺の中の空気も絞り出されて意識が混濁していく。

 その時、再びリョマを救出しようとしてシャムがラミアに突進する。

ラミア「何度、向かってきてもあなたの今の腕では私を倒せないわ!」

 シャムの剣を躱そうとしてラミアにわずかな油断が生まれた。
 リョマはその隙を逃さなかった。
 渾身の力を込めて腰の短剣を握ると、リョマに巻き付く尻尾に突き立てた。

「ギャァ~~~~~ッ!」

 耳をつんざく悲鳴をあげるラミアの身体から締め付ける力が一気に弱まりリョマを放してしまった。
 満を持して機会を狙っていたウチャギーナが矢継ぎ早に風の魔法『ウィンドカッター』を唱えた。

ウチャギーナ「アイオリアの神よ~、風の神よ~、我に大気の力を与え給え~! 風魔法ウィンドカッター~~~!!」

 ウィンドカッターは見事にラミアに命中する。

ラミア「グヮァ~~~~~ッ!!」

 叫び声とともにみるみるうちに上半身の人の部分が蛇の頭に変化していったラミアは一匹の小さな蛇に姿を変え、うねうねと身体を捻りながらその場から逃げ出した。
 ボスが逃走すると配下の兵も腰砕けとなりその場を逃げ出すのが相場である。
 案の定、ヴァルーシアンの残党は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 キューやアリサが追い討ちをかけるがシャムの「もういい」の合図で戦いは終わりを告げた。

 ラミアの逃走した跡には、『ラミアの短剣』『ラミアの指輪』と『ラミアのうろこ』が落ちていた。
 シャムたちはすべてをゲットした!
『ラミアの短剣』はリョマが装備した!
『ラミアの指輪』はシャムが装備した! 守備力が10上がった!
『ラミアのうろこ』は10,000Gで売ることができるらしい!

シャム「リョマ、だいじょうぶか?」
リョマ「いやあ、無様なところを見せてしまいました。正直窒息するかと思いましたが、マリアさんのヒールのお陰で体力を維持することふができました。それと最後のシャムさんの捨て身の剣技とウチャギーナさんの風の魔法に助けられました」
シャム「おいらだったらあれだけ締め付けられたら死んでいたぞ。リョマの身体って頑丈にできているなあ」
リョマ「はははは、頑丈だけが取り柄なので」
エリカ「それにしてもウチャギーナさんの魔法の正確さはすごいですね。コースが外れていたらおそらく壁が壊れて大変なことになっていたと思います」
マリア「それはそうと結局、石化した泥棒さんは見つかりませんでしたね」
イヴ「おそらく証拠を隠滅するために運び去ったのだと思うわ」
キュー「ステファノさんとエンリコさん、おつかれさま。大きな怪我がなくてよかったわ」
ステファノ「石化した人が見つからなくて残念だったな。俺たちまで戦闘に巻き込まれると思ってなかったから正直びっくりしたよ」
エンリコ「だけど、必死にやれば勝つこともあるんだと、いい経験になったよ」
アリサ「おじさんたち、毎日、港の仕事で身体を鍛えているから、きっとがんばれたんだと思うよおおおお」
ステファノ「ネコミミちゃん、嬉しいことを言ってくれるね。戻って酒を驕っちゃおうかな?」
アリサ「アリサ、お酒より美味しいご飯が食べたいなああああ」
シャム「とりあえず一度ポリュラスに戻って腹ごしらえをしてからピエトラブルに向かうとするか」
チルチル「薬の補充もしないといけないでピョン♫」

 シャムたちは廃坑を出ると旅の樹木を利用してポリュラス市内へと一気に飛んだ。



第34章「蛇淫のしたたり」 第5話

 シャムたちは海岸通の食堂で昼食を済ませたあと、ステファノとエンリコに別れを告げた。

ステファノ「冒険楽しませてもらったよ。生きて帰れたからこんなことが言えるんだけどな」
エンリコ「俺たちに用があったらいつでも港に来てくれ。俺たちに用はないとは思うけどな」
イヴ「そんなことはないわ。剣技は頼りにならないけど、あなたたちの情報は大したものよ。また助けてね」
ステファノ「イヴさんに頼まれて断る男なんていないよ。情報なら俺たちに聞いてくれ」
エンリコ「そんじゃがんばってな。また会おう」
シャム「ステファノとエンリコ、世話になったな。元気で!」

 ステファノの話によると、隣町ピエトラ・ブルでは多くの魔物が我が物顔で暴れまわり、街の人々は身を潜め小さくなって生活をしているらしい。
 国が力を失ってしまったため、私設の自警団が何とか魔物を食い止めているというのだ。
 しかし自警団もいつまで持つか……
 一刻も早く彼らや街の人々を救援しなければならない。

 少し歩くと宿屋が近づいてきた。
 途中で薬類も補充したので宿屋で少し休んだらピエトラ・ブルに出発だ。

アリサ「あれ? 人がいっぱいいるよおおおお」

 どういうわけか宿屋の前に人だかりができている。

アリサ「ねぇ、一体何があったのおおおお?」

 アリサは見物人を呼び止めると何気に聞いてみた。

見物人「何でも宿泊客か殺されたらしいよ」

 殺されたのはどうやら宿泊客の女性らしい。
 血相を変えて聞いたままをシャムたちに報告をするアリサ。

シャム「宿泊客が殺されたって? とにかく中に入ろう!」

 シャムたちは人混みをかき分けて宿屋に入ろうとした。
 見張りの騎士が険しい顔を浮かべながら囲いの中に人が入らないよう制止している。
 ポリュラスでは警察機能は国の騎士が担っている。
 シャムが宿屋の客であることを騎士に告げると、宿泊している部屋まで同行してくれるという。

シャム「勝手に入るからいっしょに来なくていいよ」
騎士A「一応規則なので部屋までお供します」
シャム「どの部屋で事件があったの? おいらたちの隣だったら気味が悪いので教えてくれないかな?」
騎士A「言えません」
シャム「そこを何とか頼むよ。チップを渡すから教えてよ~」
騎士A「チップは受け取れません」
イヴ「騎士さん、教えてくださらない? 部屋が隣だと、私、恐くて眠れないの……ねえ、お願い……うふ~ん♪」

 イヴが妖しい微笑みを浮かべ騎士にウィンクをした。
 ウィンクをされた騎士はイヴの美貌とお色気にすっかり戸惑っているようだ。

騎士A「……わ、分かりました。仕方がありません。事件があった部屋は301号室です」
イヴ「まあ、隣だわ……私たち302号室なの……フロントに頼んで部屋を変えてもらおうかしら……とにかく3階まで行くわ」

 ちなみにイヴたちが宿泊している部屋は、201、202、203号室の3室であった。

騎士A「ど、どうぞ、ご案内します」

 3階に着くと数人の騎士が厳しい表情で現場とその周辺を検証しているようであった。
 同行してきた騎士が「302号室は向こう隣なので」とシャムたちに告げたが、騎士の制止を振り切ってシャムとイヴが301号室に踏み込んだ。
 2人の眼下に横たわっていたのは無残な女性の全裸死体であった。

シャム「うっ……!」
イヴ「これはっ……!?」

 シャムとイヴは一瞬言葉を失った。
 イヴは眉を顰め死体から顔を背けてしまった。
 しかしシャムは腰をかがめ観察している。
 被害女性は見たところ20代といったところだろう。
 外傷ははなく異臭はまだ放っていない。
 ただ奇妙なことに、水分を失ったかのように身体が干からびてしまっていることだ。
 
騎士B「君たち、何をしてるんだ! 今すぐ出て行きなさい!」

 騎士から注意を受けても気にもしないで観察に耽るシャム。
 そこに飛び込んできたのがリョマとアリサであった。

リョマ「……!」
アリサ「ひぇっっっっ!」
騎士B「ここは君たちが来る場所ではない! すぐにここから出て行きなさい!」
アリサ「あっ、この女の子はっ……! イヴさん、昨日この女の子を見たよねええええ?」
イヴ「そう、思い出したわ! 昨日私たちがフロントでシャムたちを待っていた時、チェックインしてきたカップルがいたわ。その時の女の子だわ!」
騎士B「君たちは昨日この女性を見かけたのですね? もう少し詳しく教えてくれませんか?」

 捜査担当の騎士の口調がにわかに丁寧になった。
 アリサとイヴは騎士とともに廊下に出て、目撃した時の状況をつぶさに語った。
 被害者の女性が栗色の髪だったこと。水色のワンピースドレスを着ていたこと。被害者の女性には連れの若い男性がいたこと。その男性の身なりや印象。2人がチェックイン後に腕を組んで階段を上がっていったこと……

騎士B「貴重な証言をありがとうございます。ところで皆さんはどのような用件でこの街に来られたのですか?」
イヴ「……冒険といったところかしら」
騎士B「ほう、冒険ですか? この後、どちらに行かれるのですか?」
イヴ「今から隣のピエトラ・ブルに行こうと思ってるの」
騎士B「えっ……ピエトラ・ブルに行かれるのですか? 現在あの街はかなり荒れているので行かないほうがいいですよ」
シャム「だから行くんだよ」
騎士B「えっ……ピエトラ・ブルの状況を分かってて行くのですか?」
シャム「あんたたちが助けてやらないから、おいらたちが行くんだよ」
騎士B「助けてあげたいのは山々ですが隣町といっても一応他国なもので……あのう……」
シャム「なんだ?」
騎士B「あなた方はもしや……」
シャム「……?」
騎士B「ちまたで噂の『勇者とその仲間たち』の皆さんではありませんか?」
シャム「なんだ、そりゃ……そんなの知らないよ。おいらたちは名もなき冒険者だよ。ははははは~」
騎士B「そうでしたか……」



第34章「蛇淫のしたたり」 第6話

 騎士団の聞き込みから解放されたシャムたちは部屋に戻り出発の準備をしていた。
 昨日被害者の女性と連れの男性を見たというイヴとアリサの証言は、宿屋のフロントの証言と一致したこともあり、捜査は連れの男性探しに的が絞られたようだ。

アリサ「どうして『おいらが勇者だ』と正直に言わなかったのおおおお?」
シャム「おいらたちがポリュラスに来ていることが噂になると何かと面倒だろう?」
チルチル「勇者様、サインして~! とか女の子がいっぱい集まってくるかもしれないからね♫」
イヴ「それはないと思うな」
キュー「魔物たちにこちらの動向が分かるとよくないからね。目立たないのが安全ってことよ」
アリサ「アリサは目立つのが嫌いじゃないけどなああああ」
キュー「アリサちゃんは普通にしてても存在そのものが目立ってるからね」
アリサ「にゃあ~、アリサ目立ってる? ありがとう、褒めてくれてええええ」
キュー「全然褒めてないんだけど」

イヴ「女性が殺されて、いっしょに部屋にいた男性がその後行方をくらました……どうみたってあの連れの男性が怪しいね」
リョマ「決め付けてはいけないけどおそらく同伴の男が犯人でしょう。でも騎士隊は男の顔を知らないので犯人探しは難航すると思います。なにしろ男の顔を見た者はイヴさんとアリサさん、それと宿屋のフロント係だけですからね」
アリサ「じゃあアリサが犯人を捕まえてやるうううう」
ウチャギーナ「リョマ、変なことを言って2人を焚きつけないでよ。私たちには別の大きな目的があるんだから」
イヴ「確かにウチャギーナちゃんが言ってるとおりなんだけど、あの連れの男性はほんの一瞬見ただけだけど何かぞっとするものを感じたわ……それが何かは分からないんだけど……」
エリカ「いわゆる第六感というものですね。私はイヴさんの勘の鋭さを信じます」
リョマ「犯人探しは我々の本分ではありませんが、あんな酷い殺され方をした女性の無念はぜひとも晴らしてやりたいものです」

 その時、シャムが事件の核心に切り込んできた。

シャム「遺体を見たか?」
イヴ「あまりに酷かったので正視できなかったの」
シャム「奇妙だ。死んで一夜で身体の水分が全部抜けてしまうことなんて考えられないんだ」
イヴ「人間は死後少しづく水分が抜けていくと司祭から聞いたことがあるけど一夜では抜けないはずだわ」
シャム「刃物でやられて出血多量したなら血だらけになるからすぐに分かる」
リョマ「分かりますね」
シャム「吸血鬼に噛まれて失血死も考えてみたけど女の身体に外傷は全くなかった」
リョマ「はい、なかったです」
シャム「外傷もなく身体の水分が一夜で抜き去るなんて、どんな技を使えばできるのだ?」
エリカ「そんなこと誰もできないと思います」
シャム「人間は無理でも魔物ならできるかもしれないぞ」
マリア「シャムさんは犯人が魔物だというのですか?」
シャム「考えられる」
アリサ「じゃあ前日アリサが見た男性は魔物だったというの?……ぞぉおおおお」
イヴ「まだ、あの男性が犯人だと決め付けることはできないわ」
キュー「騎士団が犯人を見つけてくれたらいいけどね」
シャム「あまり期待できないかもかもしれないな」
ウチャギーナ「人間同士の諍いなら私たちの出る幕はないけど、もし魔物が犯人だとしたら放っておけないね」
シャム「そうだな。ピエトラ・ブルのことが優先だけど、この殺人事件も気に留めておいた方がいいだろう」

 今夜は宿屋に宿泊し明朝ピエトラ・ブルに向かうのだが、シャムたちはいまいち街に繰り出す気にならなかった。

シャム「事件のあった部屋にもう一度行ってみないか?」
リョマ「いいですとも、お供しますよ」
イヴ「301号室に行くの?」
シャム「嫌ならいいんだぞ」
イヴ「行くわ」
アリサ「私も行くうううう」

 他の者は部屋で待機することになった。
 騎士団に協力するためと宿屋に伝えると、現場検証も終わっていることもあり、宿屋は快く鍵を貸してくれた。

 殺人事件があった301号室に再びやって来たシャムたち。
 もし他人がこのことを知ったら、よほど物好きな輩だと思うだろう。
 遺体はすでに騎士団の手で運び出され室内はきれいに片付いていた。

イヴ「これだけきれいに片付いていると何も見つからないかもしれないわ」
シャム「いや、案外何か残されているかもしれないぞ」
アリサ「アリサの嗅覚で探してやるうううう」
リョマ「アリサさん、すごく気合が入っていますね」

 室内を隈なく調べてみたが、これといった痕跡は見つからなかった。
 あきらめかけた時、ベッドの下を覗きこんでいたアリサがステッキの石突きを発見した。



第34章「蛇淫のしたたり」 第7話

アリサ「ここに何かあるうううう?」

 アリサはベッドの下から石突きを手にとると皆に見せた。
 石突きはステッキを保護するため先端に取り付けてある部品だ。
 通常は水牛や象牙で造られているがアリサが見つけた石突きは銀細工でできていた。
 
リョマ「これはステッキの石突きですね。使っているうちに石突が外れたみたいですね」
アリサ「ステッキ? 杖じゃないのおおおお?」
リョマ「形は似ているけど杖とステッキはまったく違います。杖はお年寄り、身体の不自由な人、それと魔導師が使いますが、ステッキは王族、貴族、富豪が好んで使います」
アリサ「何のためにステッキを持つのおおおお?」
リョマ「ステッキは王族や貴族は権威の象徴、富豪は富の象徴とされています。もちろんおしゃれのためでもありますが」
イヴ「富豪がステッキを持つ目的は『片手を塞いでいても何不自由なく暮らすことができる』ということを主張するための権威の象徴だと聞いているわ」
アリサ「アリサはそんな見栄っ張りって苦手だなあ。もしかしたらシャムもお城に戻ったらステッキを使ってるのおおおお?」
シャム「おいらがそんな野暮な物を使うと思うか?」
アリサ「シャムの股間には立派なステッキがあるから他の棒はいらないよおおおお」
イヴ「冗談はさておいて、このステッキの部品が犯人の持ち物と決め付けるのは早計だと思うの」
リョマ「もしかしたらあの男女が泊まる前から落ちていたかもしれないですね」

 もしステッキの部品が以前から落ちていたのであれば犯人の証拠にはならない。
 しかし昨夜の宿泊した男の物だとすれば重要な証拠となる。
 シャムたちが思案に耽っていると宿屋のベル担当がやってきた。

ベル担当「いかがですか? 何か見つかりましたか? すみませんがそろそろお引き取り願えませんか?」
イヴ「分かりました。その前に1つだけ教えてくれませんか? 宿屋では宿泊客が入れ替わるたびに掃除をしていますか?」

 思いがけない質問にベル担当はわずかに戸惑いを見せたが、少し考えた後ずばりと答えた。

ベル担当「もちろん清掃はその都度行っています」
シャム「もう1点教えて。この部屋の男性客はチェックイン時ステッキを持っていた?」
ベル担当「私がお客様をご案内しましたが持っておられたように記憶しています」
シャム「そうなんだ! 分かったよ、ありがとう!」
ベル担当「では失礼してもよろしいですか?」
イヴ「うん、ありがとうね」

 ベル担当とともに301号室を退出するシャムたち。

シャム「ステッキは昨夜の男の持ち物で決まりだな」
イヴ「毎日掃除をしているなら以前の客の物とは考えにくいものね」
リョマ「だけど肝心の男の名前が分かりませんね。宿屋は教えてくれなかったし、騎士隊に聞いてもたぶん教えてくれないでしょう」
アリサ「それなら私たちで調べようよおおおお」
イヴ「そんな簡単に分かれば苦労しな……いや、ちょっと待って。簡単に分かるかもしれないわ」
リョマ「もしかしたらステッキを頼りに調べようと思っているのですか?」
イヴ「そう! それよ!」
シャム「あっ! 銀の石突きは特注なのでそれを造った店に聞こうと言うんだな~?」
イヴ「ピンポ~ン♪ 市販品なら無理だと思うけど、高級な特注品ならお店に記録が残っているかもしれないよ」
アリサ「杖を売っている武器屋に行けばいいのおおおお?」
リョマ「いいえ、魔導師の杖なら武器屋で売っていますが、ステッキは専門店に行かないとないと思います」
シャム「ステッキ専門店ってそんなに多くないと思うので、ポリュラス市内にしらみつぶしに調べれば分かりそうだ!」
イヴ「でも……」
リョマ「しかし……」
アリサ「だけど……」
シャム「殺された女性の犯人探しも大事だけど、ピエトラ・ブルの人々を魔物から助けることを優先すべきだと言いたいのだな? おいらも同感だ!」
イヴ「犯人探しは一応騎士隊が行なっているので、彼らにステッキのことを伝えればよいと思うの。で、私たちがピエトラ・ブルから帰ってきてまだ事件が解決していなければ騎士隊を支援すればよいと思うの」
リョマ「私はその考えに賛成です!」
アリサ「じゃあ、皆に伝えなくてはああああ!」

⚔⚔⚔

 2階の部屋で待機している仲間たちに一連の経緯を伝え、明朝騎士隊に立ち寄った後ピエトラ・ブルに向かうことが決まった。
 ピエトラ・ブルまでは険しい山道もないようなので2時間もあれば到着するだろう。
 問題はピエトラ・ブルの現状がまったく把握できていないことだ。
 その夜シャムたちはポリュラス市内でピエトラ・ブルの情報を収集しようと試みたが、荒廃したピエトラ・ブルを恐れて人々が寄りつかないため情報が完全に遮断されていた。
 微かだがステファノの話によると、街中を魔物が徘徊し人々は身を潜めて生活しているという。
 ピエトラ公国の政府軍は無力化し、私設の自警団が懸命に魔物の進撃を食い止めているというが、水や食料が減っていくなかで、はたしていつまで持ちこたえられるであろうか。



第34章「蛇淫のしたたり」 第8話

 翌朝、宿屋で出発の準備をしていると窓辺に1羽の伝書鳩が舞い降りた。

エリカ「まあ、伝書鳩ですわ」

 手紙はバリキンソンとその手下の護送のためロマンチーノ城に向かっていたシャルルたちからであった。

『ロマンチーノ城にバリキンソンを送り届けたので俺たち3人はそちらに戻る。シャムたちの現在地を連絡してくれ。俺たち3人は元気だから安心しろ。 シャルル』

 シャルルたちが無事に任務を果たしたと分かりエリカの表情に思わず笑みがこぼれた。

エリカ「シャルルさんたちが無事にバリキンソンたちを送り届けたそうです。相変わらずぶっきらぼうな人ですわ」
シャム「シャルルらしくていいよ。ロマンチーノでのんびりしてくればいいのに。エリカ、すまないがシャルルたちに返事を書いてくれるか」
エリカ「分かりました。この宿屋に滞在していることと、まもなく自警団支援のためピエトラ・ブルへ向かうことを書いておきますね」
シャム「うん、シャルルたちがいつ頃到着するか分からないけど、ピエトラ・ブルは危険なので宿屋で待つように伝えておいてくれるかな?」
エリカ「はい、承知しました」

 そんなやりとりをしていると宿屋の外から、ガラガラと木の車輪が転がる音が近づいて来た。
 その音を聞いて、爪を磨いていたアリサが顔を上げた。

アリサ「何の音かなああああ?」

 車輪の音が宿屋の外で止まった。
 イヴとチルチルも戸口へ目を向ける。
 そこにステファノとエンリコが駆け込んできた。

ステファノ、エンリコ「おはようございます!」
アリサ「廃坑の探検はもう終わったのにまだ何か用なのおおおお?」
ステファノ「今日ピエトラ・ブルに出発すると聞いたので水と食料を持ってきたんだ!」
イヴ「もしかしたらピエロラ・ブルで戦っている人たちのために?」
ステファノ「そうそう、ピエトラ・ブルの自警団の皆さんを応援してやりたくて。魚市場の仲間に話したらこれを持って行けといって用意してくれたんだ。運搬用に荷車まで用意してくれたんだ」
イヴ「魚市場の皆さんって優しいのね。ウルっと来たよ。じゃあ絶対に届けなくては。私たちも薬草を多めに持って行こうと準備していたところなの。荷車があるとすごく助かるわ! ステファノさん、エンリコさん、ありがとう! 大好きだよ~!」

 イヴは2人の頬っぺたにキスをした。
 2人の顔はみるみるうちに茹ダコのように赤くなった。
 シャムや他の者たちからも歓声が上がった。

 シャムたちは『荷車』をゲットした!
 シャムたちは食料と水を大量にゲットした!

ステファノ「それともう1つ渡したいものがあるんだ」
シャム「何かな?」

 ステファノがシャムに手渡したものはピエトラ公国の地図であった。

ステファノ「大雑把な地図だけど少しは役立つかなと思ったもので」
シャム「おお! これは助かる! 正直言ってピエトラ・ブルをよく知らないので、街中歩き回るつもりをしてたんだ。これがあれば効率よく進めるよ」
エンリコ「喜んでもらえると俺たちも嬉しいよ。街のことをざっと説明しとくとね、2時間ほど歩くと森があって、川が見えてくる。橋を渡ると少し歩けば城がある。城の北西に村があって、城の北には街がある。でも今どうなっているのやら……。自警団がいる場所はさっぱり分からなんだよ。あまり参考にならないかもしれないけど……」
シャム「いいや、すごく参考になるよ! 手前の城から、村、街を調べたらきっと自警団と会えるはずだよ。その前に敵といっぱい出会うと思うけど、とにかう倒すだけだ」
ステファノ「あんたたちならきっと自警団と合流して街を救えると思うよ」
マリア「ステファノさん、エンリコさん、本当に感謝します。あなたたの温かい心がきっとピエトラ・ブルの人々を救うことでしょう」
エンリコ「いやあ、そう言われると照れるなあ」

 シャムたちは『ピエトラ・ブルの地図』をゲットした!

ステファノ「俺たちは足手まといになると思うのでいっしょに行かないけど、皆さんの勝利を祈っているよ」
キュー「うん、みやげ話を楽しみにしててね!」

⚔⚔⚔

 ゴトゴトと荷車の音が響き渡る。
 鳥がさえずるのどかな森を横目にシャムたちはピエトラ公国へと向かっていた。
 隊列は、シャム、アリサ、イヴのうしろを、荷車を引くリョマが歩き、さらにマリア、チルチル、エリカ、キューがつづく。

 水を飲むため小休止しようとしたそのとき、10体ほどのグールの一団が現れた。
 グールは外見上ゾンビと似ているが、死人を食べないゾンビよりも死人を食べるグールの方が何やらおぞましい。
 またグールは人の目をあざむくために色々な姿に変身できるが、そのままの姿で現れてくれたのはシャムたちにとって幸運といえた。
 ちなみにグールは男性バージョンで、女性バージョンはグーラという。
 グーラは男性を誘惑するために絶世の美女になりすまして近づくこともあるという。

シャム「出たか、化け物め」
リョマ「変身してなくて幸いでしたね、シャムさん」
シャム「どういう意味だ?」
リョマ「そのままの意味です」

 シャムとリョマのソードがきらりと光った。



第34章「蛇淫のしたたり」 第9話

 グールがおぞましく叫びながらシャムに掴み掛かろうと迫ってきたが、シャムはヒラリと躱してグールの首をソードで跳ねた。
 腐敗した首はたやすく断ち切れた。
 首を跳ねられたグールは難なく倒れるが、地面に落ちた頭部の口がパクパクと動いている光景が何とも不気味だ。

シャム「執念深いな、まだ首が動いているぞ」

 中にはわずかだが内臓が飛び出ているグールもいる。

チルチル「気持ち悪い……だけど私だって負けないピョン♫」
リョマ「チルチルさんはこういう敵は苦手でしょう? 私に任せておいてください。とりゃ~~~!」

 リョマがチルチルを制してあっさりと2体目を葬り去る。

キュー「グールはゾンビよりも手強いけど、その分経験値とゴールドが沢山稼げるからお得なのよね。えいっ!」

 キューはグールの攻撃を躱したすき掛けに切る。
 そんなキューの背後から奇襲を仕掛けてきた別のグールが居た。
 かなり背の高いグールだ。
 ソードを構えてレザーアーマーをまとってる。

マリア「キューさん、後ろですっ!」

 マリアは咄嗟にヒールを唱えた。
 アンデッド系には治癒魔法が有効なのだ。
 ヒールを浴びたグールが苦しみながら霧状になり消えていく。

 ウチャギーナが風の魔法を放った。
 グールはゾンビよりも魔法に対する抵抗力があるようで、わずかなダメージを与えられたが致命傷にはならなかった。
 イヴとエリカがマリアと同様にヒールを唱える。
 七転八倒しのたうち回る2体のグール。
 少々時間を要したがすべてのグールを闇の世界へと葬送することができた。

⚔⚔⚔

 グールの一団を倒したシャムたちが森の小径に戻り歩き出すと、突然リョマが声をあげて座り込んでしまった。

エリカ「どうしましたか?」

 マリアがたずねるとリョマの足に毒蛇が噛みついている。

リョマ「うっ……」

 急ぎマリアは毒蛇を引きはがしたが、すでにリョマは毒に冒されていた。

マリア「アリサさん、すぐに解毒剤を出してください」

 その間も多くの毒蛇がシャムたちを襲い来る。
 シャムとキューがソードをふるい毒蛇を撃破するがあまりにも多く追い付かない。
 ウチャギーナが風の魔法を唱え毒蛇数匹を吹き飛ばした。かなり効果があるようだ。
 
 一方、アリサが魔法の鞄からようやく解毒剤を取り出したが、いち早くイヴが解毒魔法『ポイゾーナ』を唱えた。
 毒に冒されたリョマの身体がみるみるうちに浄化されていく。

マリア「まあ、イヴさん、いつの間にポイゾーナを覚えたのですか?」
イヴ「実はね、皆が眠ってからこっそり練習していたの」
マリア「全然知りませんでした。イヴさんはやっぱり努力家ですわ」
リョマ「イヴさん、ありがとう。解毒魔法を使える人がチームにいるととても心強いです」
アリサ「まったくだわ! 毒蛇が現れてもへっちゃらだわああああ」
イヴ「アリサちゃん、あまり調子に乗らないようにね」

 アリサがクロー攻撃で、毒蛇を次々倒していく。
 シャムがソードを構えると、毒蛇の大群が一斉に襲い掛かってきた。
 毒蛇はシャムがリーダーであることを知っているのか、それとも偶然か。
 シャムはソードを駆使し毒蛇をばったばったと倒していく。
 チルチルもバトンを振り回し毒蛇を叩きのめしていく。

キュー「チルチルちゃん、強くなったね!」
チルチル「嬉しいなあ、キューちゃんにそう言ってもらえたらでピョン♫」

 毒蛇たちの数がグンと減りわずかに残った数匹がスルスルと草むらの中に逃げていった。

シャム「グールといい、毒蛇といい、襲ってくる間隔がかなり狭いなあ」
リョマ「もしかしたら我々がピエトラ・ブル市内に入るのを阻止したいのかもしれませんね。街に着くまで油断ができませんね」

 ポリュラスからずっと荷車を引いているリョマに、シャムが代ろうと言い出した。

リョマ「いいえ、変わりません。勇者に荷車を引かせるわけにはいきません」
シャム「そんなの関係ないぞ。リョマは治療したけど毒蛇にやられた後じゃないか。おいらが引く」
キュー「荷車は私が引くわ。リョマさんは休憩してて。シャムは勇者だから悠然としてなきゃダメよ」
シャム「分かったよ、キュー。だけどおいらを特別扱いするのはよせ。立場上おいらはリーダーだけど皆平等だからな」
キュー「はーい、シャムの気持ちは十分に分かったから、ねえ、みんな」
シャムを除く全員「は~い!」

⚔⚔⚔

 森を歩き始めてからどれくらいの時間が経っただろう。
 その後、さいわいに敵の襲撃は一度もなかった。
 息を切らし、ふと顔を上げると先に見えてきたのは大きな川と橋。
 水を求めてつい足早になるシャムたち。
 なにしろ喉がカラカラなのだから。
 まだ水筒に水は残っているがやっぱり冷たい水で喉を潤したい。

 河原で適当な岩を探して一休み。
 チーズと黒パンを食べる。
 粗末な食事だが胃袋が満たされ力が漲ってくる気がする。

エリカ「この地図からだと、もう少し歩くともう1本川があって城が見えてくると思います」
ウチャギーナ「自警団の人たちはどこにいるのかしら。城にいたらいいのにね」
リョマ「あくまで私見ですが、国が無力化してしまっているとのことなので、おそらく城は魔物に支配されてしまっていると思います」
シャム「おいらも同感だ。残念だけどピエトラ公国はすでに滅び城は魔物に占領されていると思うんだ。それに経済の基盤となっている街も魔物に占領され、抵抗を続けている一部の人たちが村に追いやられギリギリ持ち堪えているんじゃないだろうか。まあ、おいらの勘だけど」



第34章「蛇淫のしたたり」 第10話

エリカ「私は少し異なる意見を持っています。街や村は魔物たちに滅ぼされ、堅牢な城に生き残った人たちが逃げ込んだのではないだろうか……と思うのです」
イヴ「でもステファノさんは国が力を失ったと言っていたわ。つまりピエトラ公国が滅んだという意味じゃないかしら。私は城は魔物に奪われていると思うわ。それとステファノさんはこうも言ってたわ。街の人々は身を潜め小さくなって生活をしていると……だから自警団は街のどこかにいるんだわ」

 喧々諤々さまざまな仮説と意見が飛び交った。

キュー「困ったね。意見が分かれて収拾がつかないね」
マリア「こういう場合はリーダーに決めてもらいましょう」
ウチャギーナ「それがよいと思う」
アリサ「シャムが決めればいいよおおおお」
チルチル「そう、私たちはシャムが決めたことに従うでピョン♫」
シャム「分かった。じゃあこうしよう。先ず城のそばまで行って様子を見る。城には必ず警護兵がいるはずだ。警護兵が人間なら占領されていない。警護兵が魔物なら占領されている」
リョマ「なるほど」
シャム「魔物に占領されているようであれば城にはそれ以上近づかず最も近い村に向かう。それで人間に出会うか魔物に出会うかを確かめる」
イヴ「なるほどね、それで?」
シャム「村で魔物に出会ったら戦わずに退却し、街に向かう。そして街で自警団を探す。それでどうだろう?」
エリカ「全く無理のない作戦だと思います」
マリア「よい方法だと思います」
シャム「よし、決まった! 喉も潤せたしそれじゃ出発するか!」

⚔⚔⚔

 小さな泉と雑木林を過ぎるとはるか向こうに城が見えてきた。
 城の規模はかなり小さなものだが造りはかなり重厚さが漂っている。
 橋を渡って南側に城門があるようだ。
 城に接近する手前で立ち止まったシャムは一計を案じることにした。

シャム「誰か門番のところまで斥候に行ってくれ。できれば女の子の方がいいな」
リョマ「私のような厳つい者が行くと確実に警戒されますからね」
キュー「じゃあ、私とイヴさんが行こうか?」

 キューとイヴが一歩進み出た。

シャム「ワルキューレ戦士と神官の服は見るからに勇猛な感じだな……もうちょっと弱そうに見える方がいい。アリサとチルチルに行ってもらおうか」
アリサ「アリサ、こう見えて強いよおおおお」
シャム「今は実際の強さはいいんだ。一見おとなしく見える方がいい」
チルチル「私は一応街娘だからね、どう見ても弱く見えるでピョン♫」
アリサ「それで何をすればいいの? 門番を誘惑するとかああああ?」
シャム「何もしなくていいんだ。さりげなく前を通るだけでいい。『こんにちは』ぐらい言っても別に構わないけど。門番の顔を見てくるだけでいいんだ」
アリサ「人間か、魔物かを確かめるんだねええええ」
シャム「そうそう、そういうこと」
チルチル「もし門番が追いかけてきたらどうすればいいのでピョン♫」
シャム「危ないと思ったらすぐに逃げること。もし追いかけて来たら相手に灰をぶっかけてとにっかう走れ。いざとなったらおいらが助けに行くから安心しろ」
アリサ「分かった。アリサ行ってくるうううう」
イヴ「あっ、アリサちゃん、チルチルちゃん、怪しまれないように武器はここに置いて行って」

 ハガネの爪とナイトメアバトン等の武器をその場に置き、アリサとチルチルは遠回りをして城の西側に向かった。
 東側から城壁に沿って進み門番のいる正門へと向かうつもりらしい。

アリサ「ドキドキするねええええ」
チルチル「門番さんは声をかけてくるでピョン?♫」
アリサ「人間だったら声をかけてくるかもしれないけど、魔物だったら『ガオ~ッ』とか言って迫って来るかもしれないよ」
チルチル「恐いね。槍が届かない距離を保った方がいいでピョン♫」
アリサ「その方が安全だねええええ」

 アリサたちは2人の門番の顔が見える位置まで接近した。
 門番がアリサたちの存在に気付かないのか、ずっと正面を見据えたままだ。
 こちらを向かせたいという思いがアリサの心に沸き上がった。

アリサ「おじさん、こんにちは~。私たちは今ピエトラ・ブルについたばかりで街に行きたいんだけど行き方を教えてもらないかなああああ?」

 ようやく門番の1人がアリサたちの方を向いた。

門番「アアアアァァァ……」

 門番と目が合った。

アリサ「……!?」
チルチル「えっ!!??」

 門番の目は白濁していて焦点が合っていない。
 顔の表皮が削げ落ち血だらけと実に奇怪な姿を呈している。
 これはどう見てもゾンビである。

チルチル「ぎゃぁ~~~~~! さっきのグール!?」
アリサ「違うっ、こいつらはきっとゾンビだよおおおお!」

 アリサとチルチルは準備していた灰を門番に向かってぶっかけた。
 灰にまみれた門番は咳き込みもがいている。
 アリサがチルチルに声をかけその場から逃走した。

 シャムたちのいるところまで駆け抜けた2人は息を切らしている。

キュー「門番は人間だった? それとも魔物だった?」
アリサ「どちらも違うもんんんん」
キュー「にゅう?」
チルチル「ゾンビでピョン♫」
シャム「ゾンビ? つまり城は魔物に占領させているということか」
リョマ「自警団は街か村にしぼられましたね」



第34章「蛇淫のしたたり」 第11話

 城から北西の方向に村が存在する。
 シャムたちが進んでいくと辺り一面丘に囲まれた美しい景色が広がっている。

リョマ「平和ならのんびりとこの美しい景色を楽しめるのですが、魔物だらけではそんな気になれないですね」
イヴ「まったくだわ。景色を堪能する気分になれないものね」
エリカ「この辺りはほとんどが畑ですね。でもひとっこひとりいないって寂し過ぎますね」
マリア「レタス畑ですね。魔物が蔓延っているためきっと農作業に出られないのでしょう。このままだと野菜がダメになってしまいますわ。悲しいですね」
ウチャギーナ「早く平和を取り戻さないといけないね」

 少し歩くと畑の向こうに柵に囲まれた砦のようなものが見えてきた。

キュー「あれ? 砦があるわ。この地図を見るとあそこに村があるはずなのんだけど」
シャム「いや、あれは村だ。周囲に柵を作って村を要塞化しているんだと思う」
キュー「つまりあそこに自警団の人たちがいるということね?」
シャム「たぶんな」

 村の形態は2種類ある。広い耕地の中に民家が散らばっているのが散村。逆に民家が集中しているのが集村である。
 ピエトラ村は後者の集村にあたるため、その利点を生かして周囲に柵を設置したのだと思われる。
 防御力を高めることで少しでも魔物からの侵入を防ごうという策なのだ。
 村人の中にかなりの知恵者がいるようだ。
 ただ周囲に柵が張り巡らされているため容易に村に入ることができない。
 シャムたちがたどり着いた東側に入口は設置されていない。

シャム「リョマだったら村のどちら側に入口を作る?」
リョマ「私なら城や街から最も遠い西側に入口を設けます」
チルチル「どうして西側に入口を作るのでピョン?♫」
リョマ「敵は城と街からの二方向からやってくると想定されます。西側に入口を設けておけば敵が入口に到着するまで時間がかかるので余裕をもって迎撃することができます」
チルチル「さすがリョマでピョン♫」
シャム「よし、皆、村の西側に向かおう!」

 シャムたちは村の北側を経由して西側へと向かうことにした。
 村の西側から見える眺望はプラタナスの木立ちがまばらでかなり遠方まで見通すことができる。
 村の北側に回り込むと、木立の間からこちらに向かって走ってくる若い男女の姿が目に飛び込んできた。
 彼らの後方には剣を掲げた蛇兵ヴァルーシアンたちが迫っている。

若い女「足が動かない……もう無理だわ……」
若い男「もうすぐ村だ! がんばるんだ!」

 女は地面にうずくまってしまった。
 彼女の元に駆け寄る男。

シャム「皆、行くぞ!」

 シャムたちは猛然と駆けだした。
 荷車を引いていたリョマは荷車を停止させ皆の後を追いかける。

 蛇兵は若い男女の後方まで迫っている。
 男は女を守るため自分を盾にして彼女に覆いかぶさった。
 蛇兵は容赦なく男の背中に剣を突き立てた。

若い男「ぐわぁ~~~~~!!」
若い女「ルーカ!!」
(アリーチェ)
 
 わずかに救援が遅れたが、シャムたちは蛇兵を急襲した。
 意表を突かれて体勢を崩す蛇兵たち。
 シャム、リョマ、アリサ、キュー、イヴ、チルチルに倣ってエリカ、マリア、ウチャギーナの3人も直接攻撃を仕掛ける。
 シャムたちの猛攻を受けた蛇兵たちは次々に倒されわずかに残った蛇兵も遁走する始末。

アリサ「逃がさないわああああ!」
シャム「追わなくていい。それより怪我人を助けなくては」

 マリアはすぐに若い男にヒール魔法をかけてみたが、傷が心臓にまで達していてすでに事切れていた。

若い女「ルーカ! しっかりして!」
マリア「残念ですがすでに亡くなっておられます……」
若い女「わぁぁぁぁ~~~ん!」

⚔⚔⚔

マリア「ルーカさんの命を救えなくて大変残念です……」
若い女「いいえ、皆さんの勇気に大変感謝します。私はアリーチェと言います。彼は婚約者でルーカと言います。街に魔物がはびこり次第に治安が悪くなりました。二人は街から脱出し村に行こうと計画し今日実行しました。村の近くまではうまく逃げられたのですが魔物に見つかってしまい……本当に口惜しい……うううっ……」

 アリーチェは泣き崩れた。
 彼女を励ますマリアたち。

マリア「ルーカさんは命をかけてあなたを守りました。だからあなたはルーカさんの分まで生きなければなりません」
アリーチェ「はい……」
マリア「ところで村まで逃げようとしたのは、村に自警団があるからですね?」
アリーチェ「はい、村には自警団と村の人たちがいます。それに街から逃げてきた人もいます。公国は滅亡しましたが城から脱出した兵士も合流していると聞いています」
マリア「そうですか。多くの人たちが村に集まっているのですね。では、私たちといっしょに村にまいりましょう」
アリーチェ「ありがとうございます。私も自警団に加わり微力ではありますがこの国のために戦いたいと思います。それがルーカへの鎮魂になると思うのです」



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聖女・マリア


神官・イヴ











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