ファンタジー官能小説『セクスカリバー』 Shyrock 作 |
<登場人物の現在の体力・魔力>
~オデッセイ大陸に向かう仲間たち~
シャム 勇者 HP 860/860 MP 0/0
イヴ 神官 HP 700/700 MP 730/730
アリサ 猫耳 HP 720/720 MP 0/0
キュー ワルキューレ HP790/790 MP430/430
エリカ ウンディーネ女王 HP 600/600 MP 800/800
マリア 聖女 HP 590/590 MP 820/820
チルチル 街少女 HP 540/540 MP 0/0
ウチャギーナ 魔導師 HP 630/630 MP 760/760
リョマ 竜騎士 HP 960/960 MP 0/0
<p>⚔</p>
~ロマンチーノ城に向かう仲間たち~
シャルル 漁師・レジスタンス運動指導者 HP 910/910 MP 0/0
ユマ 姫剣士 760/760 MP 0/0
エンポリオ アーチャー HP 680/680 MP 0/0
⚔⚔⚔
正午前、シャムたちはポリュラスの港に着いた。
波止場では荷役の男たちが忙しそうに積荷を下ろしている。
波止場から少し離れたところに人だかりができている。漁から帰ってきた漁師たちが魚をさばきショーを見せている。
オデッセイ大陸の拠点と言うこともあり街は活気にあふれていた。
シャム「さあ、着いたぞ~! 飯だ~飯だ~!」
イヴ「相変わらずね。初めての大地に足を踏み入れるというのに、もうちょっと気の利いたこと言えないのかしら」
キュー「いいじゃないの。ここしばらく冒険つづきだったから皆でゆっくりと食事もとってないし」
その時、不意にイヴの腹から「グ~」という音が鳴った。
キュー「あら」
イヴ「ん……聞こえた?」
キュー「イヴさんもおなかが空いているじゃないの」
イヴ「聞こえた?」
キュー「あはは、しっかりと聞いたよ」
チルチル「私もおなかが空いたでピョン♫」
シャム「よ~し、ひさしぶりに皆にたらふく食べさせてやるぞ~」
チルチル「わ~い! たらふく~たらふく~♫」
アリサ「アリサも美味しいものが食べたいなああああ」
イヴ「この街ならいろいろなお店があると思うわ、楽しみだね」
マリア「まずはサチェルさんが占ってくれたレストランに行ってみませんか?」
イヴ「それいいね。街に東側にあるレストランに行けば何か手掛かりがつかめると言っていたね。ねえシャム、どうかしら?」
シャム「どこでも行くぞ~。早く食べられる店ならどこでもいいぞ~」
リョマ「シャムさんはせっかちですね」
シャム「敬称はやめてくれ。シャムでいいからな」
リョマ「了解しました、シャムさん……ではなくシャム」
シャム「ついでエリカとマリアにも言っておくけど、いい加減に敬称はやめろよ」
エリカ「はい、分かりました、シャム」
マリア「承知しました、シャム」
波止場に降り立ったシャムたちは、サチェルが占いで告げたレストランに行くことになった。
ただヒントが店の頭文字が『D』というだけでは心許ない。
きちんとした店名が分からないと探すのも大変だ。
アリサが荷役作業をしている男のところにスタスタと歩み寄った。
アリサの後をイヴが追いかける。
アリサ「ねえ、おじさん、街の東側に頭にレストランって知ってるうううう?」
荷役の男「わっ! 大きなネコが現れた!」
アリサ「ネコじゃないもん。ネコミミだよおおおお~」
荷役の男「おお、そうか、ネコミミだったのか。ああ、びっくりした。てっきり大きなネコだと。街の東に『D』が付くレストランか……う~ん、たぶん『ディアマンテ』のことじゃないかな、今から行くのか?」
アリサ「ディアマンコおおおお?」
イヴ「アリサちゃん! 違うよ! ディアマンテだよ。もう、おかしな間違いしないでよ~。私まで恥ずかしいじゃないの~」
荷役の男「俺は、そっちの方がいいんだけどね。何ならソレする? 仕事がもうすぐ終わるからちょっと待っててよ」
アリサ「変なこと言わないでよ。絶対にいやだよおおおお」
荷役の男「ネコミミちゃんから誘ったんだから付き合えよ。いいじゃないか」
イヴ「この子嫌って言ってるじゃないの。しつこく誘うのやめてくれない?」
荷役の男「あんたもベッピンじゃないか。何なら3人でいたしてもいいぞ」
何やら妙な雲行きになって来たので、見るに見かねたリョマがさりげなく輪の中に入っていった。
リョマ「ワイワイと楽しそうにやってますね」
荷役の男は突然筋肉隆々の大男が目の前に現れたものだから言葉を失っている。
極限まで鍛え上げられた筋肉が醸し出す堂々とした佇まいは、まるで百の獣を従える王者のような風格を漂わせている。
荷役の男がようやく絞り出した声はあまりにも小さく心なしか震えていた。
荷役の男「……な、なんだ……あんたは……?」
リョマ「私はこの女性たちの仲間です。レストランの名前を教えてくださって感謝します」
荷役の男「ああ……そうですか、仲間ですか……レストラン『ディアマンテ』は美味いと評判の店なのできっと口に合うと思いますよ」
リョマ「それは楽しみですね」
アリサ「『ディアマンテ』ってどんな意味なのかなああああ?」
リョマ「『ディアマンテ』はイタリア語でダイアモンドのことなんです」
アリサ「そうなのね。ダイアモンドというぐらいだからきっと豪華なレストランなんだろうな~。ワクワクしてきた~」
イヴ「アリサちゃん、お金の無駄遣いはできないよ、連日の宿屋代も馬鹿にならないんだから」
アリサ「ケチ。魔物をどんどん倒したらお金を稼げるじゃないのおおおお」
荷役の男「俺はもういいかな? じゃあ『ディアマンテ』で美味い物を食べてきてくれよ」
イヴ「おじさん、ありがとう!」
アリサ「教えてくれてありがとおおおお」
シャムたちは歩き始めた。
昼頃ということもあって魚市場はその役目を終えて閑散としている。
朝早くから、漁師達が採って来た多種多様な魚、貝、シュリンプ等の海の幸を求めて、ポリュラスの人々で賑わっていたのだろう。
荷役の男から聞いた『ディアマンテ』を目指してシャムたちは波止場から街中へと歩を進める。
潮風が髪の隙間を抜けて行く。
遠く地平線の上に小さく船の影が見える。
漁師たちが今も汗水流して漁をしているんだろうとシャムは想像してみたが、漁の経験がなくモノクロームのイメージがふわふわと空の彼方に消えて行った。
(シャルルたちはまだロマンチーノ城への旅の途中かな?)
港町ポリュラスは交易都市としての色合いが濃い。
ロマンチーノ大陸とオデッセイ大陸とを結ぶ交通・交易の要であり重要な役割を果たしている。
そのため目抜き通りは荷馬車が悠々すれ違えるほどの幅員があり、すでに数多くシャムたちの傍を走り抜けていた。
また目抜き通りには多くの店が軒を連ね活気にあふれている。
雑貨屋、武器屋、防具屋、薬屋、魚屋、肉屋、八百屋、パン屋、酒場、食堂、レストラン、カフェ、宿屋、ランジェリーショップ等が所狭しと建ち並び、めぼしいところではカジノと大人のおもちゃ屋がシャムたちの目を引いた。
チルチル「色々な店があって見ているだけでワクワクしてくるでピョン♫」
リョマ「本当に賑やかですね。これで平和ならば言うことがないのだけどね」
シャム「アダルトショップってロマンチーノにはなかったんだよな~、ちょっとだけ覗いてみないか?」
イヴ「何を呑気なことを言ってるの。先に済まさなければならないことがあるでしょう?」
アリサ「ちょっとだけでいいかアリサも覗いてみたいなあ。ねえ、イヴさん、いいでしょおおおお?」
イヴ「ダメ」
キュー「聞いた話だけどカジノで勝つと珍しいアイテムがもらえることがあるんだって」
エリカ「売っていない武器や防具が手に入るなら行ってみる価値がありそうですね。でも今は情報集めが先だと思いますよ」
たとえ雑談であっても仲間たちと語らいながら歩くと、不思議なことに歩く時間が短く感じられる。
かなり歩いたようなので、道行く人に『ディアマンテ』の場所を聞いてみた。
親切な女性がウチャギーナに詳しい場所を教えてくれた。すぐ近くまで来ているらしい。
ウチャギーナ「あそこに花屋が見えるよね? あの花屋の隣らしいの」
イヴ「あら? アリサちゃん、そんなゴージャスじゃないよ……」
アリサ「私は店の名前からして豪華じゃないかな、と言っただけで、豪華かどうかは知らないよおおおお」
エリカ「店の構えが質素でもいいじゃないですか。レストランは味が大切ですから」
キュー「そうそう中身で勝負だよ」
祈祷師サチェルに告げられたレストラン『ディアマンテ』へついにやって来た。
建物は古いがかえってそれが味わい深く、上品な印象を醸し出している。
石灰で塗り固められた白壁は雪に負けぬほどの白い。
軒先の看板には『DIAMANTE』と記されている。
シャムが扉を押す。年季の入った扉が鈍い音を立てて開いた。
「いらっしゃいませ」
穏やかな女性店員の挨拶が客の来店を知らせる。
店内はかなり混み合っているが、シャムは空席を見つけ仲間たちを呼ぶ。
突然見掛けない若者たちが入店してきたので、語らっていた客たちはチラリと彼らに視線を移した。
女性たちがいずれ劣らぬ美女揃いでもあり目に止まったとしても不思議はないだろう。
シャムが押さえた席は4人掛け。全員は座れない。
中央に12人掛けの長テーブルがあるが、先客の4人が座っている。
シャム「このテーブルは4人掛けなので分かれて座ろうか?」
キュー「仕方ないね」
そのとき、長テーブルを利用している4人のうちの1人がシャムたちに声を掛けてきた。
見ると彼の鼻は驚くほど赤い。きっと酒を欠かせないのだろう。名前をステファノといった。
ステファノ「あんたたち、この席を使ったら?」
キュー「譲ってくれるのですか? ありがとう、おじさん!」
ステファノ「いいってことよ、べっぴんさん。俺たちは十分飲んだので、そろそろ帰ろうと思っていたんだ」
シャム「おじさん、すまないな~」
ステファノ「ところであんたたちは旅人かな?」
シャム「まあ、そんなところです」
ステファノ「いいなあ。美女を沢山連れて」
シャム「いやいや、偶然です」
ステファノ「沢山の美女と偶然出会えるなんてあんた幸せ者だな~。俺も昔旅をしてたけど1人の美女すら出会えなかったよ。わはははは~」
ステファノの隣に座っているちょび髭の男性が会話に飛び込んできた。名前をエンリコという。
エンリコ「そりゃ当然だよ。赤鼻のおまえとこのイケメンのお兄さんと比べること自体が無茶というものだ」
ステファノ「何を言う! 俺だって若い頃はイケてたんだぞ!」
ステファンは鼻だけではなく顔全体を真っ赤にして怒っている。
エンリコ「そんなこと信じられないな! 今なら何とでも言えるさ!」
ステファノ「なんだとこの野郎!」
エリカ「まあまあ、お二人とも喧嘩はやめませんか」
ステファノ「おおっ、これはまた色っぽい美人が現れたぞ! 今夜はなんてついているんだろう」
エリカ「実は私たちはこの街に着いたばかりで、この街のことをよく知らないのです。もしよろしければ色々と教えてもらえないでしょうか?」
ステファノ「いいとも、いいとも。何でも聞いてくれ。なあ、皆」
エンリコ「うん、知っていることなら何でも答えるよ」
結局、長テーブルで飲んでいた4人の男性に加え、シャムたち9人も同席することになった。
シャムたちの後ろでは、女性店員が首を長くしてシャムたちの注文を待っている。
イヴ「あら、ごめんね。みんな、何食べるの~?」
チルチル「私はオムライスが食べたいでピョン♫」
アリサ「にゃあ~、アリサはタンドリチキンが食べたいなああああ」
リョマ「ここだと魚が新鮮だと思うので、私はヒラメのソテーをもらおうか」
ウチャギーナ「私も海の幸にしようかな? エビとイカのフリットをお願いね」
マリア「最近野菜不足なので、サラダを9人前もらえますか?」
チルチル「わっ! マリアさん、サラダを9人前食べるの!?」
マリア「おほほほ、まさか。みんなの分を頼んだのですよ、野菜もしっかりと摂ってほしいので」
エリカ「マリアさんはいつもながらに心配りがすごいですね」
帰りかけていた4人の男たちも酒の追加注文を始めた。
イヴ「おじさんたち、ごめんね、寛いでいるところにお邪魔しちゃって」
ステファノ「いいんだよ。あんたたちのような若い人たちと飲めるだけでも嬉しいんだから」
エリカ「皆さんはお仕事は何をされているのですか?」
ステファノ「俺たちは魚市場で働いているんだ。結構早く仕事が終わるのでこうして飯を食って後は寝るだけさ」
エンリコ「仕事が終わった後の1杯が最高なんだよな」
エリカ「皆さん、このお仕事に着いてもう長いのですか?」
ステファノ「俺とエンリコはもう20年になるかな。ルーカとアルフはまだ2年目さ」
ルーカとアルフはこっくりとうなずいている。
早速エリカが話を切り出した。
エリカ「ぶしつけなことをお聞きしますが、この街は平穏ですか? 魔物は出没しませんか?」
ステファノ「魔物は見かけないよ。この街ではいつも騎士団が警邏(けいら)してくれているから治安は良いと思うよ」
エンリコ「他の街では魔物がよく出ているらしいけど幸いここは大丈夫だね」
ルーカ「「ここから馬車で2時間ほど西に行ったところに『ピエトラ・ブル』という街があるのですが、何でも魔物が大暴れして街が悲惨なことになっていると聞きます」
マリア「まあ、それは大変ですね。こちらの騎士団は救助に向かわないのですか?」
ステファノ「それは無理だな。この街はポリュラス国王が治め、ピエトラ・ブル公国はピエトラ公爵が治めている。昔から両国は仲が悪いから救助に行くなんてあり得ないよ」
イヴ「何と薄情な……非常時だけでもお互いに助け合えばいいのに」
リョマ「国と国との関係はその当事者しか分かりませんからね。冷たいようですが仕方がありませんね」
イヴ「それはそうなんだけど……」
隣町であっても統治者が異なるだけで、人々が災禍に見舞われても互いに助け合わない。
国が違うからと言ってしまえばそれまでだが、苦難のときは国境を越えて手を差し伸べても構わないのではないか。
イヴたちは何か割り切れない気持ちになった。
キュー「そんな悪い魔物は懲らしめないといけないわ」
チルチル「やっつけちゃうでピョン♫」
ステファノ「ほへ~、これは何とも頼もしい女の子たちだな~。そういえばピエトラ・ブルにも恐ろしく強い東洋の女武闘家がいて魔物に対抗しているという噂だよ」
キュー「にゅう、どんな女の子なんだろう。魔物と戦っているなら応援してあげたいなあ」
ウチャギーナ「ところでピエトラ・ブルって変わった名前の街ね」
エンリコ「『青い石』という意味らしいよ」
ウチャギーナ「青い石? 宝石なの?」
エンリコ「聞くところによると青い石とは『ラピスラズリ』のことらしい」
ステファノ「何でも昔『ラピスラズリ』がよく採れて街が栄えたと聞いているよ」
隣のピエトラ・ブルに魔物が出現し、ポリュラスには全く出ない。
騎士団が強力というだけが理由だろうか。他に何か理由があるのではないだろうか。
アリサ「ね~、おじさん? 魔物がポリュラスには出ないのに、どうしてピエトラ・ブルばかり襲うの? 変だと思わないのおおおお?」
ステファノ「それはさっきも言ったけど、ポリュラスには強力な騎士団がいるから恐れているんじゃないか?」
シャム「いや、他に何か理由があるように思うな……」
そんなやり取りをしているうちに、料理が運ばれてきた。
2人の女性店員が洗練された動きで、注文した料理を次々にテーブルに並べていく。
アリサ「にゃあ! 料理がきたよ、美味しそおおおお!」
ウチャギーナ「アリサちゃん、相変らず食欲旺盛ねえ」
シャム「ウチャギーナちゃんは性欲旺盛かなあ?」
ウチャギーナ「むむむっ! そんなこと言うとこのフォークで突き刺すわよ!」
リョマ「これこれ」
リョマに注意され素直に聞き分けるウチャギーナ。
イヴ「みんな、賑やかね。久しぶりのご馳走なのは分かるけど、もっとお上品に食べようよ」
シャム「は~い」
リョマ「ははははは~、本当に皆さんは楽しい人たちですね」
ウチャギーナ「いつもこんな感じなの」
リョマ「ところで、そのすごい東洋の女武闘家さんはどんな技を使うのですか?」
エンリコ「見たことはないんだけど、何でもゆったりした踊りみたいな格好から、素手ですごい技を繰り出すらしい」
リョマ「なんと、素手ですか」
イヴ「以前仲間に踊り子のヒトミという子がいたんだけど、彼女は武器を使わず素手で戦っていたわ。そんな感じなのかな?」
チルチル「武器を持たないと不利に思うでピョン♫」
リョマ「いや、そうとも限りませんよ。武器や防具には重量がある。重量があるとどうしても動きが鈍くなります。その点、素手だと動きが速くなります。動きが速いのも大きな武器なのです」
ウチャギーナ「さすが、リョマ、理論的ね。動きが速いといえばアリサちゃんにも同じことがいえるね? アリサちゃんも武器は鉄の爪ぐらいのもので、防具も最小限にしているから動きがすごく速いものね。ねえ、アリサちゃん?」
アリサは聞こえているのかそれとも聞こえていないのか、反応ひとつなしに黙々とフォークを口に運んでいる。
ウチャギーナ「ねえったら~?」
アリサ「にゃっ? お代わりは何にするかってええええ?」
ウチャギーナ「違う~~~! こりゃだめだわ……」
ステファノが急に真顔で尋ねてきた。
エンリコ「あんたたち、只の旅人じゃないね。話を聞いていて分かったよ」
マリア「いいえ、ふつうの旅人ですよ。時々たわむれで勇ましい話をしています」
エンリコ「そうなの? あまりそうは感じなかったけど。まあ、いいか。あまりあれこれと詮索するのは良くないからね」
マリア「ところでこの店はどうして『ディアマンテ』というのですか? ディアマンテはダイアモンドのことだと聞きましたが」
エンリコ「このポリュラスは今は交易都市として有名だけど、一昔前は裏山でダイアモンドが採れて栄えていたんだ。その時にダイアモンドの売買で儲けたある男がこの店を開いたってわけさ。今の店主は2代目だけどね」
マリア「まあ、よくご存じですね。で、今はもうダイアモンドは採れないのですか?」
エンリコ「掘り尽くされてしまって今では廃坑になってるよ」
マリア「それは残念ですね」
エンリコ「今でも採れるなら毎日でも採掘に行くんだけどね」
ステファノ「そうそう、これはあくまで噂だけどね、何でも廃坑になってから入ったやつがいて、魔物に襲われて石にされてしまったとか……」
マリア「えっ……石に!?」
ステファノ「いやいや、あくまで噂だよ。俺が見た訳ではないから。というか、おっかないからあんなところには近づかないよ」
興味深げに話を聞いていたシャムのまなざしが鋭く光った。
シャム「どうして廃坑に入ったのかな?」
ステファノ「実は入った男は泥棒だったんだ。男はある家に盗みに入り、金品を盗んだ直後に、その家の主人に見つかってしまった。主人は泥棒を捕まえようと棍棒を持って追っていった。泥棒は懸命に逃げたけど主人も諦めずに追いかけた。泥棒は何を思ったか山道を登っていき廃坑に逃げ込んでしまった。主人が廃坑にたどり着いてみると、あろうことか泥棒は石像に変えられてしまってた……。信じられないだろう? でも本当なんだ」
シャム「ふうむ。で、その主人はまだこの街に住んでるの?」
ステファノ「いや……事件から数か月後、腹に石が溜まる病気にかかって亡くなったと聞く」
シャム「腹に石が溜まる病気?」
イヴ「石像にされた泥棒と石がおなかに溜まって亡くなった主人……何やら奇妙な符合を感じるわ」
シャム「偶然だろう?」
イヴ「そうかしら……私はそうは思わないわ」
リョマ「これはきっと何かありますね」
シャム「で、それ以降、廃坑に入った人はいないの?」
ステファノ「気持ち悪がって廃坑には誰も近づかなくなったんだ」
顎に手を当てて考えた後、シャムは口を開いた。
シャム「行ってみる価値がありそうだな」
ステファノ「もしかしたら廃坑に行くつもり? 物好きにも程があるよ」
シャム「おじさん、道案内をしてくれないか?」
ステファノ「どひゃあ~~~! もしかしたら俺に言ってるの……? いや、遠慮するよ。石にはされたくないから」
シャム「無理か?」
ステファノ「無理」
シャム「じゃあこうしようか? 廃坑の入口まで案内してくれたら50G払う。おじさんはおいらたちを入口まで案内してくれたら帰ってくれて構わないよ」
ステファノ「50Gくれるのか……? 本当に入口まででいいのか? う~ん……悪い話じゃないな。よし、それじゃ案内してやるよ。でも、あんたたちは本気で廃坑の中に入るつもりか? 石にされても知らないぞ」
シャム「だいじょうぶだ」
ステファノ「大した自信だな」
エンリコ「じゃあ俺も付き合うよ」
ステファノ「ほう、付き合ってくれるのか?」
エンリコ「その代わり半分の25Gをよこせ」
ステファノ「ちぇっ、せこいやつだな」
シャム「ははははは~」
マリア「おほほほほ」
シャム「じゃあ決まりだ。それじゃあ、食事が終わったら行くからな」
ステファノ「分かったよ」
キューが魔法の鞄に触れながら感慨深げにささやいた。
キュー「にゅう、ついに鏡の盾が役立つ時が来たみたいね」
イヴ「さあ、それはどうかしら」
チルチル「ねえねえ、さっきから話してる廃坑って何でピョン♫?」
リョマ「鉱山や炭坑が採れなくなって採掘をやめることですよ」
チルチル「へえ、何か不気味な感じがするでピョン♪」
エリカ「普通なら恐れる必要はないのですが、石化された人型があるなら心して掛からないといけないですね」
⚔⚔⚔
食事を終えたシャムたちは、早速、廃坑へと向かうことにした。
レストランで出会ったステファノとエンリコは同行することになったが、他の2人は顔をこわばらせ帰っていった。
ステファノ「それにしてもあんたたちは物好きだなあ。石にされた人間をわざわざ見に行くなんて。まあ何か訳ありのようだけど」
イヴ「もちろんあるわ。理由は今は言えないけどね」
ステファノ「うん、聞かない方が良さそうだな」
そうつぶやきステファノが赤い鼻を擦りながら微笑んだ。
エンリコ「魔法に詳しそうなあんたに1つ聞いていいかな。熟練の魔法使いなら石化した人間を元に戻せるんじゃないのか?」
エリカ「戻すことはできません。たいがいの怪我なら魔法で治せますが、死んだ人間を生き返らせることと、石化した人間を元に戻すことはいかなる魔法を使っても叶いいうものか。そういうあんたは相当な魔法の名手のようだな」
マリア「いいえ、多少は心得はありますがまだまだ未熟者です」
廃坑は街の北側にあり、緩やかな斜面を30分ほど登ると入口が見えてきた。
ダイアモンドラッシュの頃は、多くの鉱山労働者で賑わっていたのだろうが、今はその面影もなく深い静寂が辺りを支配していた。
入口には立入禁止の看板と粗末なバリケードはあるが容易に進入できそうだ。
シャムが案内してくれたステファノたちに礼を述べた言った。
シャム「案内してくれてありがとう。恩に着るよ。これ約束の50Gだ」
シャムから50Gを受け取りつつ、何やらもじもじしているステファノ。
ステファノ「案内しただけなのに、本当にこんなにもらっていいのか?」
シャム「だって約束じゃないか」
ステファノ「悪いな、じゃあもらっておくよ。あのぉ……」
シャム「まだ何かあるのか?」
ステファノ「もし邪魔でなければ、俺たちも廃坑に連れてってくれないか?」
イヴ「だけどさっきはいっしょに来るのも嫌がってたじゃないの」
エンリコ「そうなんだけど、石にされた男の噂が真実か嘘か、できればこの目で確かめたかったんだよ。でも無理ならいいよ」
イヴ「別にいいよね、シャム?」
シャム「構わないけど魔物が出るかも知れないぞ」
ステファノ「魔物か……もし出たら俺もいっしょに戦うよ」
エンリコ「俺だって若い頃は剣術習ってたんだ。だから連れてってくれよ。この機会を逃したら一生この廃坑には入れないよ」
ステファノ「頼むよ! 俺たちを連れてってください!」
シャム「そこまでいうならいいだろう。イヴ、魔法の鞄に短剣が入っていたと思うので、2人に持たせてやってくれ」
イヴ「うん、分かったわ」
ステファノとエンリコは鉄の短剣を受け取った!
廃坑を入るとすぐに初めの部屋がある。
すべての坑道がこの初めの部屋から始まる。
坑道は途切れ途切れのレールで繋がっており、時折チェスト付きの手漕ぎトロッコが配備されている。
ただしそれは採掘華やかなりし頃のことであり、現在はレールは錆びつきチェスト付き手漕ぎトロッコは壊れてしまっている。
ちなみに手漕ぎトロッコはハンドルの上下運動を車輪の回転運動に変換させて動く仕組みになっている。
マリア「鉱山って洞窟みたいなものだと思っていましたが、まったく違いますね」
リョマ「洞窟は自然に生まれたものですが、鉱山は人が意図して造ったものですから、似て非なるものですね」
イヴ「盛んだった鉱山がその役目を終えると、静かすぎてどこか不気味な感じがするね……」
キュー「魔物の気配はしないけどね」
チルチル「中に行くと魔物が出てくるかもしれないでピョン♫」
アリサ「チルチルちゃん、驚かさないでよおおおお」
イヴ「シャム、坑道に入る前に……」
シャム「坑道に入る前にチンヒールを1発かましてほしいって?」
イヴ「冗談を言ってる暇があったら早く鏡の盾を装備して」
イヴは魔法の鞄から鏡の盾を取り出した。
いつメデゥサオールが出現しても対応できるよう備えておかなければならない。
イヴ「シャム、この鏡の盾と持ち替えて」
シャム「おいらが持つのか?」
イヴ「あなたが持たずに誰が持つというの?」
シャム「もし、おいらが石になったら、おいらには構わず直ぐに逃げろよ」
イヴ「そういわれても勇者を1人見殺しにはしないわ」
シャム「いっしょに石にされてしまうかも知れないんだぞ」
イヴ「シャム、珍しく弱腰ね? いつものシャムらしくないわ」
シャム「ゴホン! いや、念のため言っただけだ。さあ、行くぞ!」
シャムたちにステファノとエンリコの2名が加わり、総勢11人が廃坑内に足を踏み出した。
廃坑は不定形な形状の洞窟と違って、高さが約2メートル、幅が約3メートルあるため、二列で進行することができる。
鏡の盾を持つシャムと松明で廃坑内を照らすイヴが先頭を進み、2列目にキューとアリサ、3列目にエリカとチルチル、4列目にステファノとエンリコ、5列目をマリアとウチャギーナが続き、最後尾をリョマが固めた。
イヴ「あそこにチェスト付きのトロッコがあるよ。使えたらいいのにね」
移動用のチェスト付きのトロッコが見つかったが、やはり壊れていて使い物にならなかった。
廃坑には至る所に太い支柱がって坑道の堆積を支えている。
入口から要所要所に目印をつけているので、坑内で迷うことはないだろう。
少し進むとT字路に差し掛かった。
イヴ「どっちに行く? レールは左だけど」
シャム「レールのとおりに行ってみよう」
シャムたちはT字路を左に進むことにした。
坑道は真っ直ぐに伸びているように思われるが先が見えないほどの暗闇である。
松明の灯りだけが頼りだが数メートル先までしか見えない。
廃坑内は外界に比べると気温が低く、陽が差し込まないためかなり湿っぽい。
洞窟でよく見かけるコウモリの姿はないが、時折蜘蛛の巣に引っかかり不快感を覚える。
もしかしたらどこかに魔物が潜んでいるかも知れない。
シャムたちは慎重に一歩一歩を踏みしめて、廃坑の奥へと進んでいく。
エンリコ「不気味だなあ……やっぱり来なければよかったなあ……」
ステファノ「じゃあ1人で戻るか?」
エンリコ「冗談言うなよ。1人で戻れるものか」
ステファノ「じゃあぶつくさ言ってないで着いて来いよ」
もう20分ほど歩いただろうか。
イヴの真後ろを行くアリサが突然大声をあげた。
アリサ「にゃああああ!」
シャム「わっ! どうしたっ!?」
アリサ「正面に広場があるよおおおお」
シャム「どれぐらいの距離だ?」
アリサは少々薄暗くても遠くを見通す能力を持っている。
アリサ「20メートルぐらい向こうだよおおおお」
少し進むと広場があるようだ。
はたしてその広場は安全と言えるのだろうか。何か魔物が潜んでいるのではないだろうか。
なにしろ逃げ込んだ泥棒が石化させられたという危険極まりない噂のある坑道なのだから。
シャム「皆、下がって……」
イヴ「私は松明を持っているので着いて行くわ」
シャム「イヴ、おまえも下がれ」
イヴ「いいえ、着いて行くわ」
シャムとイヴは他の仲間たちを後方に待機させた。
最悪メデゥサオールの出現を覚悟しておかなければならない。
鏡の盾を右手に構え、左手で剣を握るシャム。
半歩遅れてイヴが左手で松明で辺りを照らし、右手で剣の備えも怠りない。
待機中のキューたちにも緊張が伝わる。
イヴは広く照らすために松明を上に掲げた。
高くてよく見えなかった天井が露になる。
イヴ「ん……? あれは何かしら?」
天井にはまるで夜空に輝く星々のように赤い点が無数に光っている。
しばらく見ていると、赤い点は一斉に動き出した。
イヴ「皆、気を付けて! どうやらこの広場は吸血コウモリのコロニーのようだわ!」
イヴの緊迫した叫びが終わらないうちに、赤い点は四方八方に飛び回りはじめた。
どうやら赤い点は吸血コウモリの目だったらしい。
シャム「くおっ! こいつめっ!」
シャムが目の前に飛来した吸血コウモリを切り裂いた。
しかし次々襲ってくるので切っても切ってもきりがない。
キュー「キャッ!」
短い悲鳴を上げるキュー。
気が付くとシャムたちは吸血コウモリの群れに包囲されてしまっている。
キューとリョマが奮闘しどんどん切り落としていくが吸血コウモリは際限なく飛来してくる。
アリサ「もうっ! まとわりつかないでよおおおお!」
目前の吸血コウモリを鋭い爪で引っ掻くアリサだがアリサの身体に絡みついてくる。
チルチル「もう、寄ってこないでピョン!」
ナイトメアのバトンを振り回し応戦するチルチルだが飛び回る吸血コウモリを叩くのは至難の技だ。
ウチャギーナが風の魔法を唱えようとしたが、エリカがあわてて阻止した。
エリカ「ウチャギーナさん、ここで風の魔法を唱えるのは危険ですわ。魔法の威力が強すぐるので落盤を起こしてしまうかもしれません!」
ウチャギーナ「でも杖を振り回しても大してやっつけられないよ~」
いくら倒しても限りがなく吸血コウモリの群れがシャムたちを取り囲む。
とにかくすごい数だ。
チルチル「あわわわ……」
気弱になったチルチルが地面にへたり込んでしまった。
弱り目に祟り目というべきか、へたり込んだチルチルに1匹の吸血コウモリが嚙みついた。
チルチル「いたい!」
腕を噛まれうずくまるチルチル。
マリアが透かさず自身のマントを脱ぐとチルチルに被せてやった。さらにヒールの魔法でチルチルを治療する。
シャム「それにしても、まさかこんなに大量の吸血コウモリが棲みついているなんて……」
シャムは縦横無尽に飛び回る吸血コウモリの群れを見ながら、どうして撃退すればいいのか途方に暮れていた。
エリカ「私に任せておいてください!」
ウチャギーナ「でもここで水の魔法を唱えても水源が遠いからまり威力がなと思うんだけど?」
エリカ「水の魔法は使いませんわ」
ウチャギーナ「……?」
エリカ「使う魔法は……」
キュー「エリカさん、何をするつもりかな!?」
水魔法の達人エリカが唱えたのは、驚いたことに火の魔法『ファイア・ボール』であった。
エリカ「セガコキヤ、ツヤイルワ! ファイアボール~~~!」
火の玉が吸血コウモリの群れを直撃し吸血コウモリが次々に燃えながら落下していく。
エリカは繰り返しファイア・ボールを唱え続ける。
その光景を呆然と見つめるシャムたち。
鼻孔を突くような焦げ臭い匂いが漂う中、最後の1匹が地面に落下した。
大部分の吸血コウモリをエリカが1人で撃退してしまったのだ。
シャム「びっくりした~! エリカが火の魔法を使うなんて知らなかったぞ。いつの間に覚えたんだ!?」
エリカ「実はモエモエさんが去る時に彼女から魔導書をお借りしたので、こっそり練習しておりました」
マリア「全然知りませんでしたわ。エリカさんすごいじゃないですか」
エリカ「でも火の魔法はまだ初級クラスの『ファイア・ボール』しかできないのです。中級の『ファイア・ストーム』を使うことができたらもっと早く撃退できたのでしょうけど」
ウチャギーナ「でもどうして吸血コウモリに火の魔法が効果的だと分かったの?」
エリカ「イヴさんからヒントをもらいました」
イヴ「私、何かあげたかしら……? ああっ、もしかしたら松明ね!?」
エリカ「そうなのです。吸血コウモリは松明を掲げているイヴさんには近寄りませんでした。それを見て吸血コウモリは火が嫌いなんだと知ったのです」
イヴ「さすがだわ、エリカさん! ところでエリカさんのMPがほとんど空じゃないの!」
エリカ「まあ、夢中になって魔法を唱えていたので、自身のMPのことは忘れてましたわ。おほほ」
イヴ「ほとんど空なので法力草より青キノコで完全回復した方が手っ取り早いわ」
エリカ「でもみんなの見ている前で青キノコを使うのは恥ずかしいですわ」
イヴ「皆さ~ん! 1分だけエリカさんに背中を向けて立っててね!」
エリカは蹲踞の姿勢になり青キノコで魔力の注入を始めた。
エリカ「グングンと魔力が回復していきますわ……ああん……」
静寂の中で艶っぽいエリカの声が響き渡るのであった。
火の魔法で撃退された多くの吸血コウモリが黒焦げになって地面に散乱している。
チルチル「エリカさん、火の魔法で助けてくれてありがとう! マリアさん、伏せている時マントをかけてくれてありがとうでピョン♫」
エリカ「初めての火の魔法が役に立ってよかったですわ」
マリア「あの時はマントを被せることしか思い浮かびませんでした。怪我が軽く済んで良かったですね」
アリサ「あれ……チルチルちゃん? 足元に何か落ちているよおおおお?」
ふと足元を見ると、そこには黒いコウモリを形どったカチューシャが落ちていた。
カチューシャとは髪の毛をおさえるC字型のヘアバンドのことである。
拾ったカチューシャをしげしげと眺めるチルチル。
チルチル「コウモリの形をしているでピョン♫!」
アリサ「着けるとステータスの数値が上がるのかなああああ?」
チルチル「アリサちゃんが着けた方が似合うでピョン♫」
アリサ「拾ったチルチルちゃんが着けるべきだよおおおお」
チルチル「そう? じゃあ着けてみるでピョン♫」
マリア「あっ、チルチルさん! 着けるのをちょっと待ってください!」
突然マリアがチルチルのカチューシャ装着を止めさせようとしたが、時すでに遅くチルチルは何の疑いもなく頭に装着してしまっていた。
シャムたちは『コウモリのカチューシャ』をゲットした! チルチルが『コウモリのカチューシャ』を装備した! だけどステータスは上昇しなかった……
チルチル「……?」
マリアはチルチルにおそるおそる尋ねてみた。
マリア「チルチルさん……カチューシャを外せますか……?」
チルチル「どうして? そんなの簡単にはず……」
チルチルは「外せるわ」と言おうとして途中で言葉が途切れてしまった。
その時、初めて自身の異変に気付いた。
カチューシャを外そうとしたがまったく外れない。
そればかりか無理に外そうとすると頭が割れるように痛むのだ。
顔色を失うチルチル。
チルチル「困った、どうしよう……カチューシャが外れない……」
『コウモリのカチューシャ』は呪われていた。
呪われているため一度着けると一生外せない。無理に外そうとすると頭が割れるように痛く、さらにコウモリのカチューシャを着けて歩くと、1歩歩くたびにHPが『1』減少していく。つまりHPが「540」のチルチルは540歩歩くと死に至ってしまうのだ。
泣き叫ぶチルチル。
マリア「急いで呪いを解かなければなりません!」
イヴ「私に解呪の力があればなあ……エリカさんかマリアさんはできないの?」
エリカ「残念ですが解呪はできません」
マリア「私にもその能力はありません。ここから最も近い祈祷師を探すべきかと思います」
リョマ「私の妹サチェルは祈祷師なのですが、ペルセ島のベガ村なのであまりにも遠すぎるので無理ですね」
ウチャギーナ「うちのおばあちゃんは解呪を扱ってたと思うんだけど、サチェルさんと同じペルセ島にいるので厳しいね……」
シャム「それならポリュラスに戻って祈祷師を探すしかないな」
キュー「ポリュラス大きな街だからきっと祈祷師の1人や2人はいるはずだわ。ねえ、ステファノさん、エンリコさん、祈祷師がどこにいるか知らない?」
ステファノ「悪いけどそっちの方は全然知らないんだよ。すまないな」
エンリコ「俺も占いとか祈祷には疎くて。役に立たなくてごめんな」
かくしてシャムたちはチルチルの呪いを解くため、一旦ポリュラスに戻り祈祷師を探すことになった。
ポリュラスに着くまでチルチルにヒール魔法をかけたり薬草を与えたりしてHPの減少を抑えながら進行することになった。
廃坑を戻る途中でシャムがチルチルに声をかけた。
シャム「チルチル、何ならおいらがおぶってやろうか? おんぶしたらHPが減らなくて済むだろう?」
チルチル「わ~い! シャムの背中におんぶしてもらうでピョン♫」
チルチルがシャムの背中に飛び乗った。
イヴ「いいな~、私も呪われてみようかな~」
マリア「不吉なことを言わないでくださいよ」
アリサ「アリサだったら背中じゃなくお腹の方に抱っこしてもらいたいなああああ」
キュー「それってまるで『駅弁』じゃないの」
チルチル「内側に抱っこやってほしいでピョン♫」
イヴ「チルチルちゃん、変なこと言うのやめておいた方がいいよ。シャムにパンツ脱がされるよ」
シャム「それ面白そう~、入れたままどのくらい歩けるか競争するとか?」
エリカ「ちょっと冗談が過ぎると思いますよ」
本来暗くなっても仕方のない状況だが、チルチルをはじめ仲間たちの意外にも明るい雰囲気のうちに廃坑の外まで辿りつくことができた。
廃坑を出て少し歩くと、清涼感のあるすっきりとした樹々の香りが漂ってきた。
いち早く香りに気付いたのはアリサであった。
アリサ「ユーカリの良い香りがするねええええ」
エリカ「本当に、いい香りがしますわ。えっ……ユーカリ? ああっ、そういえば!」
キュー「エリカさん、どうしたの?」
エリカ「あそこにあるユーカリの木は『旅の樹木』じゃないですか!」
ウチャギーナ「『旅の樹木』って何なの?」
エリカ「ウチャギーナちゃんは知らないかもしれませんが、『旅の樹木』は過去一度でも行ったことのある場所に存在する『旅の樹木』にワープすることができるありがたい樹木なのです。樹木はユーカリが多いと聞いています」
マリア「『旅の樹木』は別名『トリップドア』とも呼ばれています」
リョマ「ちなみに過去『旅の樹木』が存在した場所を覚えていますか? 私も知っておきたいです」
シャム「え~と……マロンクリーム神殿、ムーンサルト城郊外、トスカの森、港町ジャノバ港の丘、エルフの村、ネイロの洞窟……だったかな?」
ネイロの洞窟と耳にした途端、ウチャギーナは喜色をあらわにした。
ウチャギーナ「ああっ、忘れてた! ネイロの洞窟のすぐそばに驚くほどの大木があったの! 危ないから木に近づくな、とおばあちゃんに叱られたので近づかなったけど、あれが『旅の樹木』だったんだわ!」
シャム「ウチャギーナ、もう一度確認するけど、おばあちゃんは呪いを解くことができるんだな?」
ウチャギーナ「解呪しているところ見たことはないけど、たぶんできるはずだわ」
シャム「よし、ネイロばあちゃんが解いてくれることを信じて、ここから一気にネイロの洞窟に飛ぶぞ!」
チルチル「わ~い、ネイロおばあちゃんにまた会える! 嬉しいでピョン♫」
シャムにおんぶされたままはしゃぐチルチル。
シャム「チルチル、いつまでおいらの背中に乗ってるんだ。もう降りろ」
チルチル「は~いでピョン♫」
シャム「チルチルは呪われているのに、やたら明るいな~」
チルチル「だってこれだけシャムや皆に大事にされたら恐さなんてどこかに吹き飛んでしまうでピョン♫」
イヴ「チルチルちゃんったら……」
いくらチルチルが明るく振舞っても呪いが解けたわけではない。
歩くとHPが減少するので、しばしば薬草を使うかヒール魔法をかけなければならない。
幸いヒール魔法が使える仲間がいるので心強い。
イヴ、エリカ、マリアが交互に獅子奮迅の活躍をする。解呪するまでつづけなければならない。
また廃坑探索は中断となったが、急遽案内役として一時的に仲間に加わったステファノとエンリコもいきがかり上、同行したいらしい。
シャムたちは『旅の樹木』のボタンを押すと扉が開いてボックスが現れた。
ボックスは縦長の直方体になっていて謎のランプが内部を薄明るく照らしている。
ボックス内の見やすい位置に銘板が取り付けられていて行先が羅列されている。
『エルフの村入口、港町ジャノバ港が見える丘、マロンクリーム神殿入口附近、ムーンサルト城近郊、トスカの森、ネイロの洞窟入口附近、港町ポリュラス(??)、ポリュラス廃坑入口附近』
それらはシャムたちが過去に一度は行ったことがある場所ばかりであった。
すなわち『旅の樹木』を利用する人間の過去の行動履歴によって行先の表示が異なるということになる。全くもって不思議な話である。
ちなみに魔女ネイロの話によると、『旅の樹木』は神の結界があるため魔物たちは入ることができないらしい。そのため魔物に追われていても『旅の樹木』までたどり着けば魔物から逃れることができ、さらには怪我を負っていてもボックス内で全回復するという優れものなのだ。
シャム「ネイロの洞窟のボタンを押すぞ」
イヴ「ウチャギーナちゃん、久しぶりにおばあちゃんに会えるね」
ウチャギーナ「敵ボスを倒して帰るんだったらいいんだけど」
キュー「おばあちゃんだってそんなに簡単に倒せる敵ではないことを分かっているわ」
アリサ「あっ! リンゴを持ってこなかったああああ!」
ウチャギーナ「いいよ、今回は突発事故みたいなものだし、リンゴを準備する暇なんてなかったから」
イヴ「そうだね、可愛い孫がいっしょなのできっと頼みを聞いてくれるよ」
マリア「ネイロさんにお会いするのは初めてなので楽しみですわ」
リョマ「私も初めてお目にかかります。どんな方だろうなあ。チルチルさん、気分は悪くないですか?」
チルチル「私が何も考えずカチューシャを着けてこんなことになってしまって……皆に迷惑をかけるね、ごめんなさい……」
シャム「気にするな。戦利品を得たら装備したくなって当然だからな。それより頭痛くないか?」
チルチル「だいじょうぶ、皆に守られてるから全然平気だピョン♫」
わずかな会話の間に、シャムたちは目的地に到着した。
にわかには信じがたいが、恐ろしく短時間でポルセ島ネイロの洞窟にやってきたのだ。
ステファノ「本当にここはペルセ島なのか?」
エンリコ「驚いたなあ。すごい経験をさせてもらったよ」
2人はキツネにつままれたような表情でポカーンとしている。
⚔⚔⚔
ネイロ「で、リンゴは持って来たのかい?」
シャム「いや、急だったので持ってこなかった」
ネイロ「それなら望みは叶えてやれないのう」
シャム「そんなこと言わないでチルチルの呪いを解いてやってくれよ。次くるとき絶対に持ってくるから」
ウチャギーナ「おばあちゃん、そんな冷たいことを言わないで私たちを助けてよ」
ネイロ「ふふふ、冗談に決まってるじゃろう? ちょっとからかっただけじゃ」
イヴ「もうネイロさんったら、人が悪いわ」
ネイロ「おまえたちなら、リンゴなどなくてもいくらでも希望を叶えてやるから安心せい」
一息つくとネイロはどこで呪いにかかったかを尋ね、イヴが手短に経緯を語った。
ネイロ「なるほど、吸血コウモリを倒した後に落ちておったカチューシャを拾って頭に着けたのじゃな? そのカチューシャは間違いなく呪われておる」
チルチル「やっぱり……」
チルチルはがっくりと肩を落とした。
ネイロ「そんなに落胆することはない。その呪われたカチューシャをすぐに外してやる。今から解呪の呪文を唱えるからチルチルはその椅子に座り他の者は一歩下がっておれ」
ネイロの言葉に従い一歩後ろに下がるシャムたち。
輪になったシャムたちの視線が一斉にネイロとチルチルに注がれる。
ネイロは杖を高くかざすと烈しい口調で呪文を唱えた。
ネイロ「見えなき魔の鎖よ、汝の呪縛を解き放て! フィニート インカンターテム!」
呪文を唱え終わると同時にチルチルの髪を留めていたカチューシャが音もなく床に落ちた。
チルチル「あっ……外れたでピョン……」
まもなく周囲から温かい拍手が巻き起こった。
シャム「よかったな! チルチル!」
マリア「これで安心です。ネイロさんの解呪はすばらしいです」
アリサ「チルチルちゃん、よかったねええええ!」
ウチャギーナ「おばあちゃん、ありがとう」
ネイロ「ありがとうじゃないよ、ウチャギーナ、おまえも早く腕を上げて解呪魔法を身に着けないといけないよ」
ウチャギーナ「あらら、叱られちゃった。は~い、おばあちゃん、がんばります~!」
ネイロ「ウチャギーナよりも……イヴさん、あんたもっとしっかりしないといけないよ。元々、呪いは悪魔の術なので、呪いを解くのは神に仕える司祭や神官がその役目を担っているんだよ。あんたの実力ならこの本を読めば数日で習得できるよ」
ネイロはイヴに『解呪術の本』を手渡した。
イヴは『解呪術の本』をゲットした!
ウチャギーナ「あのぉ、私にはその本をくれないの?」
ネイロ「おまえは神官ではなく相反する立場の魔導師だからね。魔導師が解呪を覚えられるのは高いレベルになってからだよ。もっと修練することだね」
ウチャギーナ「分かった! がんばるよ、おばあちゃん!」
ネイロ「ところで前回来た時とかなり顔ぶれが変わったようじゃが」
ネイロはそれぞれの顔を興味深げに眺めている。
ウチャギーナ「マリアさんとリョマさんは初めてなので紹介するわ」
ウチャギーナはリョマと恋仲であることを伏せておくことにした。
あえて今言う必要はないだろうと考えたから。
ネイロ「後ろにいる弱そうな男2人は召使いかい?」
エンリコ「これは聞き捨てならないな。俺たちも仲間なんだぞ!」
ステファノ「俺がステファノで、こいつがエンリコっていうんだ。ばあちゃん、よろしくな」
ウチャギーナ「本当は臨時で廃坑の道案内人になってもらっただけなの」
ネイロ「やはりそうか。見るからに軟弱そうだからのう」
エンリコ「まったく口の悪いばあちゃんだよ」
ネイロ「あたしゃ口は悪いが嘘はつかないよ。あんたたち2人からメドゥサオールやセルペンテを倒そうという気概など微塵も感じなかったからのう」
ステファノ「な、なんだって!? シャムさんたちは魔物のボスを倒すために旅をしていたのか……!?」
ステファノとエンリコは唖然としている。
シャム「旅の目的をちゃんと説明しないで2人に廃坑に付き合わさせてすまなかった。謝る」
ステファノ「いやいや、とんでもない。そんなすごい皆さんの役に少しでも立てたら嬉しいよ。とはいってもまだ廃坑の途中だけどな、ははははは~」
エンリコ「風の噂で勇者一行が魔物のボスを退治する冒険をしているとは聞いていたけど、まさかその手伝いができるとは光栄だよ」
ネイロはシャムたちにハーブティーをふるまった。
シャム「このお茶は飲むと魔力が増えるとかそんな優れものか?」
ネイロ「いいや、ふつうのお茶じゃ。心が安らぐ」
シャム「あ、そう」
ネイロ「そうがっかりするな。心が安らぐとよい知恵が浮かぶ。困った時はお茶を飲むことじゃ」
マリア「行き詰るとついあれこれ考え過ぎて失敗するものですが、ちょっと一休みすることがプラスに働くと言うことですね。ありがとうございます。肝に銘じておきます」
ネイロ「あんたは素直な良い娘じゃのう。うちのウチャギーナに爪の垢を少し分けてやってくれ」
ウチャギーナ「まあ、おばあちゃんったら、酷い!」
そのやりとりに一同は笑いに包まれた。
イヴ「ネイロおばあちゃん、色々とありがとう! 解呪うまくできるようがんばります!」
ネイロ「困ったことがあったらいつでも来るんじゃぞ」
ウチャギーナ「おばあちゃん、行って来ます!」
⚔⚔⚔
ネイロの洞窟を出ると陽はすでに西に傾きかけていた。
洞窟近くの『旅の樹木』の前に立ち、この後の行程を思案するシャムたち。
『旅の樹木』を使ってすぐに廃墟まで飛ぶのが早道だが、日没が間近であることや白魔法軍団がかなり魔力を消耗していることも踏まえ、今夜は宿屋で一泊し明日への英気を養うのが得策だと考えた。
行程は次のとおり。
【ネイロの洞窟 →<旅の樹木>→ 港町ポリュラスの某所到着 → 道具屋(青キノコ等購入)→ 宿屋(宿泊)→<旅の樹木>→ 翌日、廃坑へ】
この行程で一点だけよく分からない点がある。
『旅の樹木』を使ってポリュラスに行くと、ポリュラスのどこに到着するのかが分からないのだ。
それは楽しみでもあるが不安でもある。
シャムたちは『旅の樹木』直方体のボックスに入った。
『港町ポリュラス(??)』のボタンを押すとポリュラスのどこに到着するのだろうか。
先が読めない不安と興味とが相半ばする。
シャム「じゃあ、押すぞ」
一同が黙ってうなずく。
シャムの人差し指がボタンを押した。
現在空間を移動中なのだろうが、まったくその実感がないのだ。
人が知覚する運動の感覚には、前後、上下及び左右に移動する感覚と、鉛直軸、視線軸及び水平軸回りの回転の感覚があるが、そのいずれも該当しないのだ。
しかし明らかに移動している。その証拠に次に扉が開くとまったく見知らぬ場所に降り立つのだから。
ほんの数秒が過ぎただけで、すぐにその証拠が現れた。
扉が開いた。
屋外と予測していたのに、シャムたちの目の前に広がった場所は建物の中であった。
アリサ「ここはどこなのおおおお?」
シャム「部屋の中のようだな? 誰もいないみたいだけど……」
恐る恐るボックスから降りるシャムたち。
部屋の中には薄明かりが灯っていているが人影がない。
机と椅子があり何やら収納箱のような物がある。
その時だった。
扉が開き若い女が部屋に入ってきた。
若い女「あら、皆様、ようこそ! 旅の樹木からのご来店誠にありがとうございます!」
シャム「なんだ、ここは?」
イヴ「えっ……?」
キュー「ようこそって……ここは何?」
マリア「まあ、どこかのお店の中に到着したのでしょうか?」
リョマ「一応、警戒の手は緩めません」
リョマはいつでも剣を抜く体勢を整えている。
エリカ「でも敵意はまったく感じませんね」
チルチル「おねえさん、ここはどこでピョン♫?」
若い女はド派手なショッキングピンクのメイド服に身を包みレースカチューシャを髪に着けている。
若い女「ここは大人のおもちゃ屋『ディルドマルシェ』の応接間です」
イヴ「えっ!? 私たちはどうして大人のおもちゃ屋さんに来てしまったの? 旅の樹木から旅の樹木に移動するはずがどうして……?」
ハトが豆鉄砲を食ったような顔で困惑するイヴ。
若い女「いいえ、皆様が到着した場所は旅の樹木ですよ。後ろをよ~くご覧ください」
振り返ってみるとシャムたちの背後には大きなユーカリの木がそびえていた。
確かにそれはシャムたちが利用した旅の樹木であった。
かつてこの場所には長い年月を経たユーカリが植わっており、そのユーカリを保存したまま店を開店したという。
若い女はこの店のオーナーで名前をサラといった。
シャム「つまり店の中に旅の樹木があるということか?」
サラ「そのとおりです。旅の樹木を利用される皆様がついでに店に寄って行ってくださるので大助かりなんです」
エリカ「なかなか商売がおじょうずですね」
アリサ「大人のおもちゃってどんなのがあるのかなあ? アリサちょっと見てみたいなああああ」
サラ「どうぞどうぞ! ゆっくりとご覧になって行ってくださいね~」
キュー「アリサちゃん、私たちは買い物に来たんじゃないよ。早く出ようよ」
ウチャギーナ「キューちゃんが言うとおりだけど、興味はあるな~」
サラ「売り場を通っていただくと外に出られます」
シャム「うまい商売だなあ。とりあえず商品を見ながら外に出るとするか」
短い廊下を通り抜けると明々とランプが灯る売り場が現れた。
サラ「どうぞゆっくりとご覧ください」
すぐに店を出るつもりのシャムたちであったが、つい陳列の棚に目が行ってしまう。
最初に足を止めたのはやはりシャムであった。
怪しげな物が並んでいるが、ほとんど使用目的が分からない。
シャムは男根の形をしたアイテムを手にしている。
シャム「このディルド、よくできているな~。おいらものモノにそっくりだ。使い心地はいいのか?」
サラ「まあ、良いモノをお持ちのようで」
シャム「試してみるか?」
サラ「ご冗談が過ぎますよ。ちなみにこの商品はお薦めですよ。スルスルと挿入しやすいし、挿入した時の存在感が抜群なんです。ぜひ彼女様に買ってあげてください。といっても……お連れの女性が沢山いらっしゃるのでどなたが彼女様か分かりませんが」
シャム「全部彼女だ」
サラ「まあ、羨ましいこと!」
シャム「冗談に決まってるだろう。彼女なんてそんな気の利いた者はいないよ。全員仲間だ」
シャムがサラと談笑していると、イヴたちとイケメン店員がなにやら楽しそうに話している声が聞こえてきた。
イヴ「こっちのディルドって向こうで話しているディルドと比べて値段が2倍ほど高いけど、どう違うのかしら?」
シャムの方のディルドは100Gだが、エリカが手にしているディルドは200Gもするのだ。
100Gの方がベージュで200Gの方が緑色と色合いは違うがそれ以外何ら変わらないように思える。
男性店員「向こうでご覧になっているディルドは女性の快楽を追求するためのモノですが、こちらのディルドは気持ちよさと体力回復の効果がある優れものなのです」
エリカ「へ~、回復効果があるのですか? 何が原料になっているのかしら?」
男性店員「はい、こちらのディルドは緑のキノコを砕きペースト状にして乾燥させたものなのです。通常の緑キノコは100回復するだけですが、こちらは全回復します」
イヴ「それは便利だね~」
男性店員「それだけじゃないんです。大きな声では言えないのですが……」
エリカたちは思わず聞き耳を立てる。
男性店員「実はとある媚薬が練り込まれているのです」
エリカ「まあ、それはすごいですね。回復するだけじゃなくてイッちゃうかもしれませんね」
アリサ「アリサ、すぐに試したいなああああ」
イヴ「楽しみだけど、今はちょっと無理ね」
マリア「聞いているだけで身体が熱くなってきました……ところでこちらの青いディルドはどんな効果があるのでしょうか? お値段は300Gとかなり高めですが」
男性店員「さすが! 目の付けどころが違いますね。こちらは気持ちよさと魔力回復の効果が期待できます。魔法をお使いの方なら最適のアイテムといえるでしょう」
イヴ「買うしかない!」
エリカ「でも値段が高いから沢山買うのは無理ですね。他のアイテムも買わないといけないし」
アリサ「じゃあ、お試して少しだけ買うことにして、お金が貯まったらまた買いに来ようよおおおお!」
イヴ「アリサちゃん、たまにはいいこというね」
アリサ「たまは余計だよおおおお」
リョマとウチャギーナが別のコーナーで何やら物色している。
ウチャギーナ「スッポンの丸薬? マムシの粉薬 ねえリョマ、これって何に使うのかな?」
リョマ「たぶん精力剤じゃないかな」
ウチャギーナ「それならリョマには必要ないね。だって何も飲まなくても十分強いんだもの」
リョマ「しっ、声が大きい。ところでシャムには要らないの? 彼の場合、チンヒールという職務があるだろう?」
ウチャギーナ「うふ、職務って、何か可笑しいよ」
リョマ「特殊能力といえばいいのかな?」
ウチャギーナ「そうね、魔法でもないし、超能力でもないからね。シャムに精力剤は不要だわ」
リョマ「彼はそんなに精力が強いのか?」
リョマは同性として相当興味があるようだ。
あるいは今後もウチャギーナがチンヒールの恩恵を被ることへの嫉妬心かもしれない。
ウチャギーナ「半端ないよ。休むことなく5人の女の子といたしてもまったく萎えないんだもの」
リョマ「底なしか」
ウチャギーナ「女の子とセックスするために生まれてきたといっても良いぐらい」
リョマ「うらやましいな~」
ウチャギーナはリョマの尻をギュッとつねった。
顔をしかめるリョマ。だけど声は必死にこらえている。
サラがシャムに男性用アイテムを売り込もうとしている。
女性用に比べると断然色数は少ないが、媚薬、ラブドール、ビロードホール、おっぱい枕等が並べられている。
シャム「ビロードホールってなに?」
サラ「男性の1人遊び用です。……お客様には無用かもしれませんね」
シャム「今のところは要らないけど、いつか欲しくなったら買いに来るよ」
サラ「はい、お待ちしております。あっ、お連れの皆様のお買い物が済んだようですよ」
シャム「良い物は見つかったか?」
イヴ「うん、役立ちそうなものがいくつかあったわ。使うのが楽しみ~」
シャム「ははははは、おいらがいなくても1人チンヒールができるアイテムが見つかったとか?」
イヴ「まさか、シャムのモノに勝る肉剣は簡単には見つからないわ」
シャムたちは大人のおもちゃ屋に立ち寄ったが、快楽専用のアイテムは一切買わず、魔力回復用の青ディルドが3本、体力回復用の緑ディルドが3本と実戦向きアイテムだけ購入することになった。
大人のおもちゃ屋を出てすぐに分かったが、店舗は例の『ディアマンテ』より一本北に入った裏通りに位置していた。
アリサ「やっぱり買っておけばよかったなあ。お一人様用ディルドおおおお……」
チルチル「大きな声では言えないけどね、実はね、自分の小遣いでふつうのディルドをこっそり買ったでピョン♫」
アリサ「なんと! チルチルちゃんいいな~。ねえ、お願いだから時々貸してええええ」
チルチル「やだよ、いくらアリサちゃんの頼みでもディルドの使い回しはダメでピョン♫」
エリカ「リョマさんが買わなかったのは何となく分かりますが、シャムさんが買わなかったのはちょっと意外でしたね。シャムさんってエッチなアイテムが好きそうなので」
イヴ「シャムの周りには美女がワンサカいるし、彼がその気になればいつでもどこでも誰とでもチンヒールができるんだから小道具なんて必要ないよ」
エリカ「まったくそのとおりですね。おまけに精力絶倫ですしね」
前を行くシャムが振り返った。
シャム「なんかおいらのこと言ってたか?」
イヴ「な~んも言ってないよ~。空耳じゃない?」
エリカ「おほほほほ」
シャムたちはステファノが薦める宿屋へと向かった。
海に近い海岸通りを東に進むと宿屋はすぐに見つけることができた。
幸い部屋に空きがあったので3室おさえることができた。
予算の都合上一番安い部屋だが贅沢は言ってられない。雨露が凌げるだけでも上等だ。
宿屋で荷物を預けたあと、道具屋で薬類の補充を済ませ、近くの食堂で腹ごしらえをするつもりだ。
ステファノとエンリコはシャムたちと別れ今夜は家に戻り、明日夜明け過ぎに宿屋で合流の予定だ。
イヴとアリサは準備を整えフロント附近に行ったみたがシャムたちはまだ現れていなかった。
しばらくすると宿屋の扉が開き、見るからに華美で豪華な衣装を身にまとった男女がやってきた。
見たところともに20代で絵に描いたような美男美女だ。
女性は栗色の髪で漏斗のように大きく広がった袖口の床丈の水色のワンピースドレスを身に着けている。
男性は背が高くスリムで美しい金髪をしており、チュニックに装飾のされたブリオーと呼ばれる服を重ね着し、縁取りの美しいマントを羽織っている。
男「部屋は空いているか?」
フロントクラーク「はい、1室だけ空室がございます」
男「どんな部屋だ?」
フロントクラーク「3階のスウィートルームです。少しお値段が高く500Gなのですが……」
男「構わん。すぐに案内してくれ」
フロントクラーク「かしこまりました。すぐにベル係を呼びます」
男性はテーブルに500Gを置くと待機しているベル係に案内され女性とともに階段を上がっていった。
その光景の一部始終を眺めていたイヴとアリサは二人の後姿を目で追いかけている。
イヴ「見た……?」
アリサ「うん、見たああああ」
イヴ「「あの男女はいったい何者だろうね?」
アリサ「大金持ちの御曹司とご令嬢かなああああ?」
イヴ「分からないけどかなりの美男子だったね」
アリサ「イヴさん好みいいいい?」
イヴ「好みではないけど。それはそうと3階にスイートルームがあるんだね」
アリサ「食べたいなああああ」
イヴ「それはスイートポテトだよ。じゃなくて宿屋で一番豪華な部屋のことをそう呼ぶのよ」
アリサ「一度でいいからそんな部屋に泊まってみたいなああああ」
イヴ「うふふ、誰と泊まりたい?」
アリサ「そんなの決まってるじゃないの。シャムとイヴさんとアリサで泊まってみたいなああああ」
イヴ「3人で? 2人じゃないの?」
アリサ「シャムを真ん中に挟んであんなことやこんなことをするのおおおお」
イヴ「アリサちゃん、変わった願望を持ってるのねええええ」
2人がそんな妄想を語っていると他の仲間たちが現れた。
キュー「イヴさん、アリサちゃん、お待ちどうさま~。それじゃ行こうか」
ウチャギーナ「道具屋さんに寄って薬草を買って、そのあとご飯だね。おなかが空いたよ」
シャム「おいらはカジノに行って店では売っていないアイテムをゲットしたいな~」
マリア「面白そうだけど、行かなければならない場所がいくつかありますからね。一段落してからゆっくりと行きましょう」
エリカ「そういえば、ベガ村のよろず屋さんの息子さんがこのポリュラスで居酒屋を営んでいるので寄ってほしいと言ってましたね。機会があったら行ってみましょう」
リョマ「先ずは廃坑の探索ですが、次に行きたいのが隣町のピエトラ・ブルですね。女武闘家が魔物たちと戦っているらしいのでできれば応援をしたいと思うのです」
シャム「よし、廃坑のことが片付いたらピエトラ・ブルに行こう!」