第16話
軽い脳しんとうに見舞われた俺は、頭を冷やすためよろよろと布団から這い出した。 「レオぉ、だいじょうぶぅ?ごめんねぇ~、静、蹴飛ばしちゃったねぇ」 布団から這い出しベッドの隅でまるで伸し餅のようにのびていた俺に、静はやさしい言葉をかけてくれた。 まだ頭がぼんやりしていたが、ふと時間が気になって俺は掛時計を見上げた。 「にゃごぉ~~~っ!!(大変だ!!)」 時間はすでに午前0時を5分過ぎていた。 わずかとは言えレオと約束した時間が過ぎてしまったではないか。 俺は焦った。 「どうしたのぉ?レオぉ~」 「にゃがぁ~!!ふんがぁ~~~っ!!(うわ~~~!俺、人間に戻れなくなるじゃないか!?こりゃ大変だ~~~!!)」 「何をそんなに慌てているのぉ~?レオ、どうかしたのぉ~?」 俺、いや猫のレオがベッドの上をあわただしくグルグルと廻り、静から見ると実に滑稽であったろう。 その姿はまるで火が点いて慌てふためくかちかち山のタヌキにも似て。 わずかな時間とは言え静と結合までできてさらに親密さを深めるチャンスではあったが、今は人間に戻れるかどうかの瀬戸際だけに、俺はとにかく急ぎ自宅へ戻ることにした。 おそらく俊介になりすました猫のレオが俺の帰りを首を長くして待っているはずだから。 静に後ろ髪を引かれながらも窓からベランダへと出ようとしたとき、静は何を勘違いしたのか微笑みながら俺につぶやいた。 「あ、レオぉ、わかったよぉ~。レオったら女の子が恋しくなっちゃったんでしょぉ?」 「にゃごぉ~?(え~?違うってば~。全くもう、静はとんだ思い違いをするんだから・・・)」 「きっとそうよぉ!だってあんなに大きくしちゃってさぁ・・・いやぁ~ん!静ぅ、想い出しただけで恥ずかしくなっちゃう・・・でもレオ、いい子見つけてきてねぇ・・・気をつけてねぇ・・・」 「にゃあ~(何という見当外れな・・・でもいいや、とにかく急がなくては!)」 猫の俺は暗い夜道を一目散に駆けて行った。 人間姿のレオが待っている俺の家へと。
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