第4話「意外なる性癖」
たった一度だけだが肉体関係をもった間柄でもあり、惠はためらうことなく、サンドイッチを口に含み数回噛んで俊介の口に移した。
「はい、あ~ん……」
「うん……食べやすい……美味しいよ」
俊介は満悦の表情を浮かべている。
惠はほっこりと心が温かくなるような気がした。
「もう少し噛み砕いてもらえる?」
そう頼まれた惠は、先ほどよりも数多く噛み砕いた。
サンドイッチが惠の口の中でまるで離乳食のように溶ける。
「はい、あ~ん」
今度はジュルジュルと溶けたサンドイッチが、俊介の口に落下していく。
その時、なぜだか惠は胸がキューっと締めつけられるような気がした。
(これって……なんとなく……エッチ……)
そんな気持ちになったからかもしれない。
モグモグと噛み砕き、それを唾液と混ぜてグチュグチュと噛み砕き、そしてジュルジュルと俊介の口に移していく。
モグモグ、グチュグチュ、ジュルジュル……この繰り返しに、なぜか惠は性的な昂りを覚えるのであった。
最後の一切れに至っては、ほとんど唾液だけだった。
惠は白く泡立ち糸を引いて落ちる自身の唾液を見つめていると、いつしか乳房が張っていくのを感じた。
だけど悟られないように懸命に隠す惠。
食事を終わらせ帰ろうとする惠に、俊介は収納ケースを指し示し驚くべきことをささやいた。
「その引き出しにスペアキーが入ってるから、鍵をかけて帰ってくれないか」
言われたとおり惠は鍵をかけると、俊介のマンションを後にしたのだった。
💓💓💓
帰宅直前スマホを開いてみると、祥太からラインが届いていた。
『友人と食事をして帰るから、今夜はいらない』という内容であった。
惠は少し気が抜けた。
しかし先程からの昂りがまだ収まっていない。
リビングのソファに腰を掛けブラウスの上から胸に触れてみた。
心臓が早鐘となって胸を突き続けている。
惠はボタンを外し、ブラジャーの中に手を忍ばせた。
「あ……っ……」
指先がコリコリしている乳首に触れ、思わず声が出てしまった。
ふとカーテンが開いていることに気付いた惠はあわててカーテンを閉じリビングの照明を消した。
自宅はマンションの8階なので、誰にも覗かれることはないと思うが、それでも気になるものである。
真っ暗なリビングで、惠は全裸になり指を使って自らを慰めた。
ソファにのけぞり足を開き無我夢中で指を動かした。
絶頂に達するとき、思い浮かんだのは祥太の顔ではなかった。
💓💓💓
翌週月曜日、俊介はいつもどおり出社してきた。
早速惠のスマホにラインが送られてきた。
『この前のお礼がしたい 今夜家に来て欲しい』
という内容であった。
惠は少し迷ったあげく、まず夫の祥太に『残業で深夜になるかもしれない』とショートメールを送ることにした。
過去にも残業で深夜になることがあったので、祥太に怪しまれることはない。
そのときはすでに、俊介に抱かれる覚悟ができていた。
もっと正確にいうならば、そこには『抱かれたい』と思っている自分がいた。
午後6時30分、惠は俊介よりも先に、俊介のマンションに到着していた。
スペアキーは今日の日のための布石だったのかな? と、少ししてやられた気がする。
やたらと喉が渇くので、途中で買ってきたスポーツドリンクを何度も傾ける惠。
午後7時過ぎ、俊介が帰ってきた。
「おつかれさまです」
惠は俊介の上着を脱がせてハンガーにかけた。
すると俊介はうしろからやさしく惠の肩に手を当て、
「この間はありがとう、すごく嬉しかったよ」
と、ささやいた。
もしかしたら心臓が耳の中にあるのでは……と思うほど、惠の鼓動が大きく高鳴った。
俊介はうしろから髪を撫でて、そっと抱きしめた。
惠はその手に顔を寄せ頬ずりをして甘えた。
もう言葉は必要なかった。
俊介は惠にキスをし、惠もまたそれに応えて舌を絡ませた。
「ねぇ、また……この前みたいにして……」
と、俊介が口を開けた。
惠は一瞬戸惑ったが、すぐに理解し、俊介の口内に唾液を落とした。
俊介は目を閉じるとその唾液を味わうような仕草を見せ、それを見ていた惠は自身が抑えきれないほど熱くなっていた。
俊介の求めに応じ惠は服を脱いだ。下着も……全て……
部屋の灯りは消されたが、ベッドのそばにあるテーブルランプが二人のシルエットを映し出した。
惠は俊介の視線を痛いほど感じた。
ベッドに入ると、俊介は惠のうなじに唇を這わせた。
ゾクゾクする快感が背骨に伝わってくる。
やがて唇は腋の下に移動した。
惠はうなじの後は胸だろうと予測していたが、虚を突くように腋の下に……
腋の下を舐められるのは初めてだった。
前回と同様に今回もシャワーをしていないのに……と惠は思った。
(腋の下は汗をかいて体臭があるかもしれないのに……)
だけど俊介は一向に気にする様子もなく、匂いすら楽しむように、鼻を鳴らし、舌を動かせる。
「あ……そんなところ……舐めるのは……」
「気持ち悪い?」
「いいえ……き、気持ち……いい……です」
ほのかなくすぐったさの中に、不思議な快感が……惠は新たな快感を発見したような気がした。
「僕はね……女性の匂いが好きなんだよ……君の身体はすごくすてきな匂いがする」
「恥ずかしい……」
「ここに君の腋毛があったとしても、僕はうれしいよ」
そんなことをつぶやきながら、腋の下を舐め続ける俊介。