第3話「単身赴任者用マンション」
「あっ……」
挿入された瞬間、惠が感じたことは『違う』ということだった。
祥太とは明らかに違うのだ。
硬さと重さが。
祥太の肉柱が『棒』なら、俊介のそれは『塊り』だった。
熱く、硬く、重く、そして太いかたまり……
そんな肉柱が惠の一番奥、すなわちポルチオスポットに何度もヒットしたからたまらない。
しかも、祥太と決定的に違うのがエラ部分の張り出しである。
俊介のカリ高はとにかくすごい。
カリ高とは肉柱の竿の部分と、先端部分である亀頭のカリ首の段差が高いことをいう。
ヒットするたびに身体の中心部にしびれるような快感が走る。
その直後、カリが中を引っかいて遠ざかっていく……
強烈な感覚がもっともっとヒットしてほしいという欲望へとつながっていく。
惠が酔いしれているとすぐにヒット、そしてかき回し、ヒット、かき回し、ヒット、かき回し……
その反復は、惠の中に波打つような快楽を打ち込んでいく。
惠は俊介にしがみつき、涙を流して悶えていた。
「ご主人とどっちがいい?」
俊介の非情な問いかけにも、即座に答える惠。
「俊介さんです! 俊介さんのが……いいっ! あぁ、もっとして……もっと!」
俊介がスキンを着けていないことも忘れ、惠は悦楽の波に呑まれていた。
ここまでくると人間は冷静さを取り戻すのは困難となってしまう。
惠はいくたびか絶頂を迎え、幾度となく果てた。
のちに分かったことだが、恥ずかしいことに失禁までしてしまっていた。
俊介は射精の瞬間はさりげなく外へ抜きティッシュの中に放出した。
惠はそのまま俊介に抱かれ、まどろみを楽しむのであった。
もし祥太が出張でなければこんなことにはならなかったろう。
しかしこの日を境に、惠と俊介の婚外恋愛が始まってしまったのである。
俊介の風変りな嗜好にも……やがて惠は応じる女性になっていくのだが、その件は後述することとする。
💓💓💓
俊介との初めての情事から一ヶ月が経過した。
この一ヶ月の間、二人きりで会うこともなく、ラインや電話でのやり取りもなく、社内においてもふつうに仕事をこなし、ふつうに接した。
ちなみに祥太との夫婦生活も二回程度あった。
俊介から享受された燃えたぎるような快感はなかったが、今までどおりの安心できる夫との性行為であった。
ただし惠の中では少しだけ感度がよくなったような気がした。
そして心の奥底に「もう一度、俊介に抱かれたい」という思いがあったことは否めなかった。
そんな惠と俊介の関係に変化が現れたのは月末のことであった。
毎月末に役所に提出すべき書類があって、その書類には部長の確認と、検印が必要となっていた。
ところが俊介が27日の水曜日から風邪で休んでしまい、28日の木曜日になっても出社して来ない。
提出期限が29日金曜日に迫っている。
そこで惠がお見舞いを兼ねて俊介の家に書類を持っていくことになった。
俊介は会社が単身赴任者用として借り上げている賃貸マンションに一人暮らしをしている。
高校生と中学生の息子が受験を控えているため、俊介は一人で転勤してきた次第だ。
(俊介さんはちゃんと食事を摂っているだろうか……)
惠は風邪の時の食べ物をと思い、途中スーパーマーケットに寄り、サンドイッチ、牛乳、そしてスポーツドリンクを購入した。
スマホの地図アプリを使いながらマンションにたどり着くと、駐車場に俊介のセダンを発見し何故だかホッと安堵のため息をついた。
エレベーターで5階まで行き、俊介の部屋のインターホンを押す。
「鍵は開いてるから、入ってきてください」
少しかすれた声で返事があった。
「中大路です。おじゃまします」
惠はドアを開け、部屋に入った。
案外部屋の中はきれいに片付いている。単身赴任ということもあって元々調度品が少ないため余計にそう感じたのかもしれない。
奥の部屋のベッドで寝ている俊介の姿が見えた。
「いかがですか?」
「ごめんね、君やみんなに迷惑かけちゃって……」
「いいえ、無理をなさらないでください……これ、すみませんが」
惠が書類を渡すと、俊介は一通り目を通し印鑑を押した。
そして再び横になった。
「よかったら、これ召し上がってください」
惠はサンドイッチ等食物をベッドの横のテーブルに置いた。
テーブルの上にはゼロ戦の本があり、惠は(男性っていくつになってもこんなのが好きなんだなあ……)と、なぜだか15才も年上の俊介のことが可愛く思えた。
「ちょうどおなかが空いたからサンドイッチをいただこうかな……今朝から食べてないんだ」
俊介がまた起き上がろうとするので、惠は慌てて「あ、ダメです、横になっててください」と、サンドイッチの包装を解き、俊介の口元に持っていった。
「悪いね、ありがとう」
惠の手からサンドイッチを食べる俊介。
素直に甘える俊介のことが惠はとても愛おしく思えた。
「うん、美味しいよ……でもまだ喉が痛くてね……やっぱりこういう時は流動食の方がいいのかなあ……」
「すみません、気が回らなくて」
「いや、そんなつもりじゃないんだ、本当に美味しいよ」
俊介は確かに飲み込みにくそうにしている。
惠は牛乳パックにストローを差して、飲ませてやった。
「大丈夫ですか? 何か私にできることがあれば、おっしゃってください」
すると俊介は微熱で潤んだ眼差しでつぶやいた。
「じゃあ、ひとつだけ……いいかな」
「はい……」
「そのサンドイッチ、君が噛み砕いて食べさせてくれない?」
「え……? 離乳食みたいに?」
「そう、それなら飲み込みやすいかもしれない」
惠が子供のとき、一番下の弟の歯が生え始めた頃、噛み砕いて与えていたことを思い出していた。
「分かりました……」