第9話「目には目を」

「そして好きになった男が俊介と言うのだな?」
「はい……」
「めぐみ」
「はい」
「おまえは私に育ててもらった恩義を忘れたのか?」
「いいえ、決してそのようなことはございません。旦那様に育てていただいたご恩は決して忘れるものではありません」
「そうか、殊勝な心掛けだ。では聞くぞ。なぜ私の大事な一人息子に近づいた? めぐみ、おまえは私の息子をたぶらかして、あわよくば妻の座に治まって、私の財産を狙おうとしているのではないのか?」
「そ、そんな酷いことを! 旦那様、それはあんまりです! な、なんと言うことをおっしゃるのですか! 私は悲しいです……」

 めぐみは後手に拘束された不自由な姿のまま泣き崩れてしまった。

「そんな野心はないというのだな?」
「はい、ありません! そんな目で私を見ておられたのですか……。うううっ……悲しい……」
「ならば、ここで私に誓え」
「誓う? 何を?」
「『私は出来心から俊介様と肉体関係を持ってしまいました。でももう二度と俊介様と同様の過ちを犯さないことを旦那様にお誓い申上げます。その証として、ご主人様がお与えになる罰を今ここでお受けします』と言うのだ……」
「……」
「言えないのか?」
「……」
「どうなんだ? めぐみ」

 めぐみは青ざめていた。
 今、ここで何らかの罰を受けることは仕方がないが、俊介と引き裂かれることは身を引き裂かれるよりも辛かった。
 めぐみは泰三に誓約をなかなか口述しようとしない。
 横から磯野までが催促する。

「めぐみ! 旦那様に誓うのだ。誓えないというなら誓うまで拷問に掛けるが、いいのか?」

 めぐみは重く閉ざしていた口をようやく開いた。

「分かりました。誓います。おっしゃるとおり今ここで誓います」
「おお、そうかそうか。では述べなさい」

 泰三にポッと安堵の色が浮かんだ。

「私は出来心から俊介様と肉体関係を持ってしまいました。でももう二度と俊介様と同様の過ちを犯さないことをご主人様にお誓い…………嫌です!そんなこと誓えません!」

 突然めぐみが態度を翻したことで、泰三の表情がにわかに険しくなった。

「なに? 誓えないだと? ぐぐぐ、こ、この恩知らずめが! むむむ、もう許さんぞっ! おい、磯野! めぐみをそこにある猫脚椅子に縛るのだ! 脚をいっぱいに広げさせてな!」
「はい、承知しました」
「い、いやですっ! ゆ、許してください!」

 現在すでに後手に縛られているめぐみはわずかな抵抗すらできないまま、猫脚椅子に縛りつけられてしまった。
 両脚は大きく広げられ、左右の猫脚に固く緊縛されている。
 両腕は背もたれの裏側でがっちりと縛られているため、身動きすらもままならない。

「めぐみよ、先ほどのビデオではよくも私に見せつけてくれたな」
「……」
「目には目をという言葉は知っておるか?」
「……」
「『目には目を,歯には歯を』という掟はハンムラビ法典の一説だ」

(泰三は一体何を企んでいるのだろう……)
 
 めぐみは身体を震わせる。

「私は決して甘い男ではない。片目を潰されたら両目を潰し返すのが私の生き方……」

 一つのの例えで述べているのであろうが、何と恐ろしいことを口走る男だろうか。
 めぐみは改めて泰三の陰険さを思い知らされ、身体の震えが止まらなかった。

「おまえが俊介にされたことと同じことを、おまえにしても私は満足できない」
「……」
「おまえがこれから体験することは初体験のはずだ。ぐふふ、楽しみにしているがいい。おい、磯野、カミソリを持って来い!」
「はい、すでにここに用意を整えております。いっしょにシェービングクリームも用意してございます」
「よし、貸せ」

 おそらく事前に打合せをしていたのだろう、磯野は手際よくカミソリとシェービングクリームを泰三に手渡した。
 泰三はわざとめぐみの面前にカミソリを近づけ恐怖心を煽る。

「めぐみよ、本心はおまえのその美しい肌にこのカミソリで傷をつけたいほどに、私は怒っておる……」
「……」

 めぐみは泰三の戦慄の言葉に震えが止まらない。

「ふふふ、怖いか? しかし安心しろ。私は美しい女性の肌を切り刻むような愚かな人間ではない。これでも女性には優しいつもりだ。ましてや私はおまえが大好きだ。だけど私を裏切ったので罰を与えなければならない」
「……」
「今からおまえの大事な場所の毛を一本残らず剃り落してしまう」
「ええっ!? そんな! そんなことやめてください!」
「大事な場所に毛がなければ、おまえは俊介の前では二度と裸にはなれないだろう。それとも私に剃られたことを堂々と俊介に包み隠さず話すことができるかな?『お父様にはいつもすごく嫌らしいことをされています』と正直に告げる勇気があるかな? はっはっは~、どうだ? めぐみ」
「そんなこと……そんなこと言えません! 絶対に言えません!」



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