第1話「愛をはぐくむ場所」
二人が初めて会ったのは高校一年生のときだった。 惠は憶えていないのだが、バスケットの合同練習会でリョウが惠を初めて見て一目惚れしてしまった。
「すごく可愛い子がいるな~」
でも紆余曲折あって、結局付き合い始めたのが高校二年生になってから。 実際に付き合ってみたら、惠への印象が百八十度変わってしまったという。 「私の性格、知らない方がよかった?」 「うん」 「勝手に可愛いとか思っておいて、なに勝手に失望してるのよ、おい」 「ははははは~」 「こら、笑ってごまかさないでよ」
でも何事も歯に衣着せないリョウのことが、今の惠はたまらなく好きだ。 いつも彼の隣にいたくていたくて仕方がない。 そのくせつい天邪鬼になってしまう。 「一緒に帰ろうっ!」 「やだ」 「え……なんで?」 「やだ」 「じゃあ良いのかなあ? オレ先に帰っちゃうよ~?」 「だ~め~。待って、いっしょに帰る。置いてかないで」 「ふぅ~ん、ツンデレだねぇ」 「ちょっと黙って」
たわいない会話でいつも笑わせてくれる。しかも惠が何かあると必ず気づいてくれるし、惠が困りはてると朝方まで電話かLINEで話を聞いてくれる。いつしか惠にはなくてはならない存在になっていた。
「待ってよ、速い。ね~」 「ん~?」 「速い!」 「仕方ないだろう?オレの方が足が長いんだから」 「そんなこと自慢する?」 「惠だってこの前スタイル自慢してたじゃん」 「いつした?」 「惠の部屋で姿見眺めながら『私ってスタイルいいよね~』って言ってたの、忘れたか?」 「そんなこと思い出さなくていいのに」
リョウはさりげなく惠の手をつないできた。
「なあ惠、ラブホ行ってから何日経ったかな?」 「シ~!声が大きいって。え~と、ちょうど一週間ね」 「惠はなんともないか?」 「なんともないかって、何が?」 「何がって……え~と、アレしたくならないのか?」 「ん?……そりゃあしたいけど、でもホテル代きついもん」 「オレんちに来るか?」 「リョウの家はお母さんが時々コーヒー持ってくるからヒヤヒヤする」 「じゃあ、学校はどうだ?」 「学校で? してみたいけど無理よ。きっと見つかるわ」 「早朝なら見つからないよ」 「たしかに放課後はクラブ活動で誰か残ってるけど、早朝なら狙い目かもね」 「みんなが登校してくるのが八時ごろだから、早く行けば大丈夫だよ」 「何時ごろ?」 「七時にしよう」 「いつの七時?」 「明日」 「ぅわ~っ、せっかち!」 「善は急げって言うからね」 「前戯は急げ?」 「ばか、前戯はゆっくりするもんだって専門サイトに書いてるぞ」 「リョウはそんなの見てるんだ~」 「惠は見ないのか?」 「見てないけど、読んでる」 「なんだそりゃ、なに読んでるんだ?」 「官能小説」 「官能小説ってエッチ小説のことか?」 「まあ似たようなものね」 「惠、アレを忘れるなよ」 「コンドームのこと?」 「そんな恥ずかしい言葉をよくスッと言えるな」 「だって愛し合うカップルの必需品じゃん」 「ん、まあ、そうだけど」 「なにを照れてるの? 一個でいいよね?」 「さすがに短時間で二回は無理だろう」 「うふ、リョウならできるかも」 「やってみような~?」 「調子に乗るな~!」 「へへへ」 「じゃあ、明日七時ね」 「うん、七時な」
リョウの大胆な提案を、まさか惠がすんなりと受け容れてくれるとは。 後で聞いてみると、惠も同じことを考えていたらしく、リョウは意気投合したことを素直に喜んだ。
◇◇◇
そして次の日、惠は午前六時五十分に学校に到着した。 校門を通り抜けると右側に花壇があり、長かった梅雨が明けきらめく初夏を待っていたかのように淡紫のラベンダーが咲き誇っている。 惠はラベンダーの清楚な美しさと、心和ませるやさしい香りが大好きだ。
「ラベンダーさん、おはよう!」
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