第26話“森戸神社”
ありさたちは長い参道を歩き拝殿へと向かっていった。 拝殿に近づいた時、ふとありさが球に尋ねた。 ありさ「にゃん、球?どうやって拝むのが正しいのお?」 球「にゃ?う~んと、確かお母さんが『二礼三拍一礼』とか言ってたわ。2回お辞儀をして3回手を叩く。で、最後にもう1回礼をして終わり・・・だと思うよ。ねえ、浩一?」 浩一「へ~?球は良く知ってるね。オレそんな詳しく知らなかったよ」 俊介「いや、今は柏手は2回が一般的になっているみたいだよ」 球「あ、そう言えば、出雲大社に行った時、面白い話を聞いたよ。あそこは縁結びの神様なんだけど、独特の拝み方があってね、『しじゅうご縁がありますように・・・』と賽銭(さいせん)は45円なんだって。二礼四拝手一礼の拝み方で、柏手は『しあわせを願って4つ叩く』のが普通だって聞いたよ」 ありさ「へ~♪じゃあ、私、4回叩こう~っと」 俊介「ん?ありさ、お前、縁を願うってまだ他にも縁が欲しいのか?」 ありさ「違うよお。俊介となが~くなが~く縁があるようにお願いをするんだよお~」 浩一「はっはっは~、俊介、心配なのか?」 俊介「いや、そんなことはないんだけどさぁ」 球「にゅう、じゃあ、わたしも出雲式で拝もうかな?」 浩一「ん?球も恋愛成就か?み~んな、そればっかりだな~」 俊介「お前は違うのか?何を拝むんだ?」 浩一「オレはもちろん球との恋愛成就もだけど、他に交通安全とか無病息災とか・・・」 俊介「だはっ、おじんくさ~」 浩一「バカ言え。それって大事なことなんだぞ」 俊介「そりゃあそうだけど、そんな事声を出して言うなよ。ご利益が逃げちゃうぞ」 浩一「あ、それもそうか。あははは~」 ありさ「じゃあ、わたしはね・・・」 球「うん、なにをお願いするの?」 ありさ「快感アップ~~~!」 俊介「はっ!?」 球「にゃっ?」 浩一「わっはっはっはっは~!快感アップだって?わっはっはっは~~~!」 ありさ「もう浩一!どうして笑うのよおおお~!失礼しちゃうわ!ぷんにゃんぷんにゃん!」 浩一「だってさぁ。そんなの普通はお祈りしないよ~」 ありさ「にゃう?そうなの?球??」 球「ん、まあ、そうね。あまり祈願したって聞いたことないわ」 ありさたちは賽銭を投入し大きく柏手を打った。 しばし沈黙のひとときが訪れる。 浩一「さあ、次はどこに行く?」 俊介「そうだな。じゃあ、せっかく景色の良い所に来たし、この辺りをちょっと散歩しようか?」 球「にゃっ、行こう行こう~」 ありさ「わ~い♪」 ありさたちは森戸神社から近い「千貫松」や「飛柏槇」等を散策したあと、再びクルマに乗り込み湘南をドライブすることにした。 第27話“チーズフォンデュ” 逗子、鎌倉、藤沢を通って、茅ヶ崎、平塚そして大磯へと足を伸ばした。 人気スポットとは言ってもさすがにこの時期は人影も少なく、磯釣りを楽しむ姿を疎らに目にする程度であった。 帰路に着き、ありさたちは夕食の食材を求めてスーパーに寄ることになった。 今夜はチーズフォンデュである。 陽が西に傾いた頃別荘に戻ったありさたちは早速料理の準備に取りかかった。 今夜は俊介と浩一も調理に参加している。 ふたりともチーズフォンデュとロストポテトを作るのは初めてだ。 浩一がフォンデュ用のグリュイエールチーズとエメンタールチーズを摩り下ろし始めた。 球が鍋の内側全体ににんにくを擦りつけている。 鍋にワインを入れて、中火で温めるのがコツだ。 沸とうする直前に火を止めて、浩一が切ったチーズを入れて、弱火でチーズが完全に溶けるまでゆっくりと混ぜながら加熱する。 向こうでは俊介がフランスパンを切っている。 ありさは水洗いしたじゃがいもとバターをフライパンで炒めている。 ありさは球の調理風景を見ながら微笑んだ。 ありさ「わ~い、鍋がぷくぷく言い始めてるぅ~」 球「にゃっ、美味しそうでしょう?」 球はコーンスターチをキルシュで溶き鍋に入れた。 球「みんな~、もうじきでき上がるよ~ん♪」 浩一「おお、良い匂いがして来たね~」 俊介「ひゅ~、腹の虫が鳴って来た~。早く食べたいな~」 ありさはオーブンでチーズを焼いている。 ロスティポテトの方ももう直ぐでき上がりそうだ。 (チーン!) ありさ「ポテトもでき上がったよお~」 チーズフォンデュとロストポテトができ上がり4人は食卓を囲んだ。 浩一「オレ、実はフォンデュって初めてなんだよ~。どんな味なのか楽しみだな~」 俊介「これって確かスイスの料理だろう?」 球「にゅう~、そうだよ、アルプスの少女ハイジが住んでるスイス~♪」 ありさ「アルプスの少女ハイジのお話、だ~い好き~」 俊介「このフォークって変な形だね?」 球「にゃっ、これはね、フォンデュフォークって言うのよ。使い方はこう」 球は俊介たちに説明しながら、フォンデュフォークでフランスパンを刺して、クルクルとチーズを絡めて口に運んだ。 浩一「うん!これはいける!」 ありさ「にゃう~ん♪美味ちいよお~」 俊介「これは温まるね~」 球「にゃっ、良かった~。みんな、喜んでくれて~」 フォンデュにはビールよりもワインが合う。 この後運転する予定もなかったので4人揃ってグラスを傾けた。 会話も大いに盛り上がり、いつの間にかワインボトルが3本空になっていた。 浩一「くほ~、もう腹がいっぱいだ~。もう入らないよ~」 第28話“作戦決行” 俊介「ふぁあ~、飲み過ぎた~。うぃっ!」 ありさ「にゃんにゃん~、さあて、ぼちぼちお年玉コーナーに移ろうかなあ?」 浩一「え?お年玉って?」 俊介「何?ありさがオレ達にお年玉をくれるの?」 球「にゃっ、そうだよ~。ありさとわたしがふたりに素敵なお年玉を用意したの~。お楽しみに~♪」 浩一「な、なんだ!?もしかして、2人してテーブルの上で裸踊りをしてくれるとか!?」 俊介「おお!それいい、それいい!2人のストリップ見たいよ~!」 酒の勢いも手伝って俊介たちのテンションはかなり上がってる。 球は顔の前で人差し指を立て左右に振った。 球「ノンノン~♪それが違うんだな~。ありさ、じゃあ、始めようか?」 ありさ「にゃんにゃん~、あぁん、ドキドキするなあ~」 浩一「何だろうな~。そんなドキドキすることって?」 俊介「う~ん、早く知りたいな~」 球「にゅう、まだナイショだもんね~♪」 浩一「そんなに勿体ぶらないで何をするのか教えてよ」 ありさ「まだダメだよ~ん」 球「ありさ、じゃあ準備しようか?」 ありさ「にゃん!」 球「え~、それでは今から電気を消して真っ暗にしますが、殿方はしばらくお待ちのほどを~♪」 俊介「え~?電気を消すの?」 浩一「一体、何をおっぱじめるつもりかな?ういっ・・・」 俊介「さあ?オレにもさっぱり分からないや。まあ、楽しみに待とうよ」 浩一「ういっ・・・そうしよう」 まもなく明かりが消え部屋が真っ暗になってしまった。 昼間あれだけ天気だったのに夜になって曇り始め、月明かりも全くない。 ダイニングの隣にリビングルームがあって部屋の両端には2つのソファがある。 女性陣からの希望もあって、ほろ酔い加減の男性ふたりは左側には俊介が横になり、そして右側には浩一が仰向けに寝転んだ。 酒に弱い俊介は3杯のワインで、すでに顔が真っ赤になっている。 比較的強い方の浩一でさえも、今日は飲み過ぎたのか呂律がちょっと回りにくくなっている。 ありさと球は軽くシャワーを浴びたあと、先日買ったばかりの真新しい下着を身につけた。 ありさはガーゼのような肌触りのオンゴサマーの上下を、球はダルメシアン柄のTバック上下を身につけた。 下着を着け終わった2人は顔を見合わせニッコリと微笑んだ。 2人は緊張しているせいか、どことなく落ちつきがない。 球「ありさ、何をそわそわしているのよ。落ちついて」 ありさ「そういう球もまだ背中が濡れているよ。しっかりと拭かなくちゃあ」 ありさはそう言いながらバスタオルで球の背中を拭ってやった。 球「ありがとう、ありさ。ぼちぼち行かないとあの2人少し酔ってたし寝ちゃうかも知れないね」 ありさ「もうグーグーいびきをかいてたりしてえ」 第29話“暗闇の中で” 球「う~ん、その可能性はあるね~。でもその場合は起こしちゃおうよ~」 ありさ「にゃんにゃん、そうだねえ。先に寝ちゃダメ!ってね~」 球「では、ありさ殿、まいりましょうか~」 ありさ「はいにゃ、お球さま、まいりましょう~」 球「おきゅうって・・・お灸みたいじゃん」 ふたりは最近お気に入りの大河ドラマの影響もあって、時代劇がかった会話を交わしながら、真っ暗なリビングルームに入っていった。 球「浩一?起きている?」 ありさ「俊介~、もう寝たのお?」 暗くて手探りなものだから男たちがどんな様子なのかよく分からない。 ありさ達は声で確認しながら一歩一歩進んでいった。 左のソファには俊介が、そして右のソファには浩一がいるはずだ。 浩一「起きてるよ~。どんなイベントを用意しているのか楽しみでとても眠れないよ~」 俊介「オレもまだ寝てないよ。ワクワクドキドキさ」 球「にゃっ、良かった~♪」 ありさ「うふん、さあ、何が起こるかお楽しみにい~♪」 浩一「で、電気は点けないの?」 球「そう、そのままでね」 ありさ「俊介も浩一もしばらく声をしちゃダメなのお~、いい?」 俊介「うん、それはいいけどどうしてなの?」 ありさ「それはナイショなのお~」 球「私達もしばらく返事をしないけど、気にしないでね」 俊介「うん、分かった」 浩一「オーケー」 俊介と浩一との間は凡そ3メートル離れている。 真ん中ににリビング用の大きなテーブルと椅子があるだけだ。 並んで立っていたありさと球は、左右に分かれてゆっくりと歩を進める。 ふたりとも下着を着けただけの色っぽい姿だ。 正面から見ても美しいふたりだが後姿も実にすばらしい。 しっかりとくびれてよく引締まった腰と、見事にヒップアップした臀部は男心をそそるには充分過ぎるものがある。強いてふたりの違いを探すなら、ありさはやや柔らかみのある体型で、球はピシッと研ぎ澄まされたような体型をしている。 球は俊介のいる左側のソファへ、そしてありさは浩一のいる右側のソファへと、足音を忍ばせながら歩いて行った。 俊介も浩一もまもなく起こるであろうビッグイベントに息を潜めて待っていた。 球は俊介のいるソファの前に立った。 ほぼ同時にありさも浩一の前に立った。 そしてふたりは男たちのそばでゆっくりとひざまずく。 その静かな動作はまるで猫のようだ。 静寂と言葉にはできないほどの張り詰めた空気があたり一面を包み込む。 球は俊介の腹部に頬を摺り寄せ、甘える仕草を見せた。 トレーナー越しではあるが、サッカーで鍛えた腹筋の硬さが球の頬に伝わった。 俊介の手が球の髪を撫でた。 俊介「・・・?」 第30話“2脚のソファで” 深く愛し長く付合っていれば目を閉じても、肌に触れただけでそれが恋人であるか否か分かるものだ。 たとえそれが髪の毛であったとしても。 そして光の届かない暗闇の中であったとしても。 真の恋人同士とはそういうものだ。 俊介は鋭敏に違和感を感じ取った。 しかし「まさかありさが間違って浩一の方へ行き、球がこちらに来るはずがない」という思いもあったから、「風呂上りなのでちょっと感触が違うのかな?」と軽く流そうとした。 ありさと球とは偶然にも髪が肩までの長さと、似通っていたことも俊介の判断を誤らせた要因と言えた。 ところがありさがとった行動は球とは違っていた。 球のように男の腹部に頬を摺り寄せ徐々に胸元に顔に近づけていくと言う動作ではなく、一気に浩一に抱きつき唇を重ねてきたのだ。 これではいくら愚鈍な男でも異変に気づかないはずがない。 ましてや浩一は人一倍敏感な男である。 直ぐに球でないことを感じとり肝をつぶしてしまった。 (チュッ・・・) 浩一「・・・ん?・・・!?んんっ・・・!?おい!お前、ありさだろう!!人違いだよ!!オレは浩一だよ!俊介は向こうだよ!!」 ありさ「にゃんにゃん~、チュッ・・・」 浩一「うぷっ、うっ!おい!にゃんにゃん言ってる場合じゃないだろう!オレは浩一だってば~!!」 ありさ「いいのお~(チュッ)」 浩一「よかないよ!おい!ダメだよ!うぐっ・・・!」 浩一は上に乗っているありさを払いのけようとしたが、ありさは執拗に絡みつき浩一に迫った。 俊介(何か様子が変だ・・・) 浩一と同様に俊介もまた密着してきた女性がありさではないことに気がついた。 俊介(ってことはこの女はもしかして・・・ギョッ!) 俊介「お、お前、もしかして球かあ~~~!?」 球「にゃはは、ばれたか~」 俊介「ばれたかじゃないよ。これ一体どうなっているんだ~!?」 球「いいの~。これはお正月用のイベントだから~」 俊介「イベントってそんな無茶な~。これ、かなりヤバイ状態だよ、早くありさと入替わってくれよ~」 球「たまにはいいじゃないの~。今夜限りなんだから~」 俊介「たまって言ったって・・・そんなのダメだよ」 球「いいの~」 球は強引に俊介の唇を奪ってしまった。 俊介「うっ・・・うぐぐ・・・だ、ダメだよ~、球~、うっ・・・うっぷ・・・うっ・・・」 球「今夜は4人がお互いに公然と浮気をするのよ~。ね?素敵なイベントでしょう?ちゅっ」 公然と浮気をする・・・とさらりと言いのけた球の言葉に俊介は驚きはしたものの、彼女たちの一見無秩序で破天荒とも思える行動が、実は彼女たちの手で事前に練られた行動だと察知して、俊介はそれに乗ってみようと考えていた。 俊介(でも、オレが球を抱くと言うことは、ありさが浩一に抱かれることを認めるってことだよなぁ・・・) 自分は他人の彼女を抱こうとしているくせに、自分の彼女が他人に抱かれることは納得がいかない・・・ 俊介は複雑な心境の中でメラメラと嫉妬心が燃えるのを抑え切れなかった。 前頁/次頁 |