第21話“クロス・ラヴ”

『後で分かったのですが、驚いたことに、その夜のことは彼が友達や友達の彼と予め打合せをして仕組んだ芝居だったんです。彼には以前からそのような願望があったようなのですが、私にはずっと隠していました。そのことが分かった時、正直私はぶち切れました。
 でもぶち切れたのはその場限りでした(笑)その後、4人で遊びに行った帰りなどには時々交代プレイを愉しむようになりました。4人と言っても4Pではないんです。その時だけ相手を交換して、必ずお互いが見える場所で行なうんです。不思議なことにお互いに見えていることで安心感があるんです。
 いつの頃からか私たちは4人での相手交換プレイを『クロス・ラヴ』と呼ぶようになりました。でも決して友達の彼のことを彼以上に好きになった訳じゃないですよ。友達の彼の事は好感は持っているし信頼もしてますが愛したりはしません。安心感の中から生まれる一種の割り切りと言えば良いのでしょうか。うまく説明できないけど。
 不思議なことに『クロス・ラヴ』を経験してから、彼とエッチをした時以前より燃えるようになったんです。どうしてなのかは分かりません。もしかしたら嫉妬心が一種のエネルギーに姿を変えてエッチの時に激しく燃焼するのかも知れません。もうとにかく表現できないぐらいに凄いんです・・・。あぁ、書いているうちに想像してしまって・・・。
 こんな私の体験談など何の役にも立たないと思いますが、お互い浮気の歯止めになっていることは確かです。和食ばかり食べていたらたまに洋食が食べたくなりますよね?友達の彼氏はその洋食の役目をしてくれているのだと思います。もちろんそれは私だけじゃなく、彼も友達もそして友達の彼氏も・・・』

 記事を読み終わったありさは大きく息をついた。
 ページをめくる指も止まってる。

 ありさ「・・・・・」

 持っていた雑誌を胸に抱え込んでポツリとつぶやいた。

 ありさ「ありさもしてみたいかも・・・」

 まるで思い詰めたような表情で瞬きひとつしない。

 ありさ「俊介のことはす~ごく好きだけど、たまには焼けつくような刺激が欲しい・・・でも俊介の知らないところで浮気をするのは嫌だ・・・でもこの方法だったら・・・・・・あっ、そうだ!」

 ありさは何を思ったのか、突然充電中の携帯を握りしめた。
 そして電話をかけた。

 ありさ「いるかなあ・・・もしもし・・・ん?まだかぁ・・・」

 まだ呼出中だと言うのに早くも話しかける。

 球「はい」
 ありさ「あ、球?あのね・・・」


第22話“破天荒”

 球「どうしたの?こんな時間に。今風呂から上がったところなので髪が濡れてるの。乾かしてから電話するね」
 ありさ「そうなんだぁ。うん、わかった~、じゃあ、待ってるねえ」

 自分の提案を少しでも早く球に伝え彼女の意見を聞きたかったありさは、少し残念そうな表情で携帯を置いた。
 でもそんな奇想天外な提案を球が聞き入れるだろうか。
 ちょっとでも早く球に伝えて球の反応を確かめたい。
 ありさは携帯をそばにおいて球からの電話を待ちわびた。

 一方その頃、球は髪を乾かしていた。
 バスタオルで髪を包み両手で挟むようにしながら、軽くポンポンと叩く。
 後はドライヤーで乾かすだけだ。
 ドライヤーの風に髪をなびかせながら、球はポツリとつぶやいた。

 球「ありさったらどうしたんだろう?すごく急いでいたみたいだけど・・・」

 球はありさの事が気にかかり髪の手入れを早めに終えることにした。
 冬は髪が乾きにくいが、もう大丈夫だろう。
 ありさの携帯に着信音が流れた。

 球「ごめんね、ありさ。何かあったの?」
 ありさ「球、ごめんにゃ。あのね、今度の旅行のことだけどね」
 球「うん」
 ありさ「え~とね」
 球「うん、何?」
 ありさ「一晩だけクロスラヴしない?」
 球「にゃ?クロスラヴってな~に?テーブルクロスにありさと寝転んでレズるとか?わたし、や~だよ。いくらカワイイありさでもレズは絶対やだもんね~」
 ありさ「にゃんにゃん、違うってば。ありさもレズはしないよお~、オトコが好きだもん」
 球「うん、ありさの男好きは誰もが知ってるもんね」
 ありさ「何か意味が違うような気がするんだけどなあ。まぁいいけど」
 球「で、そのクロスラヴって何?」
 ありさ「あのね、俊介と浩一を一晩だけ交代させるの」
 球「にゃ・・・?」

 球はありさの言っている意味がまだよく飲み込めない。

 球「交代って・・・一体何の交代?」
 ありさ「だからねえ、夜ね~、球は浩一と絶対エッチするでしょお~?」
 球「そりゃまあ、たぶん、する事になるだろうけど・・・えっ!ありさ、まさか!!そんなことを考えてるの!?」
 ありさ「うん、そのまさかなの。浩一の所にありさが行って、俊介の所に球が行くのお。分かった?」

 球は一瞬言葉を失ってしまった。
 ようやくありさの言ってる意味が理解できたものの、どう考えても尋常ではない。

 球「ありさ・・・」
 ありさ「なあに?」
 球「それ正気で言ってるの?自分の言ってることを分かっているの?」
 ありさ「うん、分かってるぅ」

 ありさは全く悪びれた様子がない。

 球「いくら何でもそれはちょっと無理じゃないかな~。それに俊介と浩一も賛成しないと思うんだけどなあ」
 ありさ「あぁ、そうかもねえ・・・」

 俊介と浩一の名前が出た途端にありさは急に弱気になってしまった。

 球「ところでそんなこと、何をヒントに思いついたの?」
 ありさ「実はね・・・」

 ありさは女性誌『ニャンニャン』に掲載されていた記事の内容を球に説明した。
 球はありさが語る常識を超えた破天荒な話に耳を傾けた。

 ありさの説明が終わった時、黙って聞いていた球はやっと口を開いた。

 球「ふ~ん、すごい人もいるもんだね~。浮気防止のための公然とした事前浮気ってわけだね?」
 ありさ「何かむつかしい言葉使うにゃ。球はどう思う?やっぱり無理かなあ・・・」


第23話“葉山への旅路”

 球「にゃっ、浩一はたぶん浮気はしないと思うんだけど、この先も絶対に大丈夫って保証はないものね。それに最近ちょっとマンネリ化してきた感じだし・・・」

 球の心が揺らぎ始めた。
 恋人がいるのに浮気をしてしまった場合、ふつう『後ろめたさ』が付きまとう。
 ところがありさが提案する方法であれば、お互い様ということになるので『後ろめたさ』もかなり軽減されることになる。
 浩一や俊介も口には出さないが、もしかしたら今までにない新たな刺激を求めているかも知れない。
 否、非難されるかも知れない。
 これだけは本人に聞いてみなければ何とも言えない。
 彼らに話してみてふたりの内どちらか一方でも断ればこの話しは御破算だ。

 球「にゅう、ありさのその話、わたし乗ってみようかな?」
 ありさ「え?球はオーケーしてくれるのお?嬉しいなあ~」
 球「うん、でも俊介と浩一には当日まで黙っておいた方が良いと思うの。事前に言うと絶対に壊れちゃう」
 ありさ「にゃんにゃん、ありさ、喋らないよぅ~」
 球「約束ね。え~とそれじゃ段取りは・・・」

 ありさの放った一言から話はとんでもない方向へと動き出した。
 双方の彼氏に黙ったままで、旅行の夜、突然恋人を交代をする。
 はたしてそのような離れ技が実際に可能なのだろうか。
 ありさと球は早速綿密な計画を練りはじめた。



 年が明けて2013年元旦が訪れた。
 ありさたちは午後1時に集合だ。
 俊介がハンドルを握るスカイラインは東京を立ち一路湘南・葉山へと向かった。
 浩一は愛車180SXで行く事を望んだが、同車は本格的なスポーツカーであるため後部座席があまりにも狭く4人乗りには向かなかった。

 冬とは言え穏やかな天候の中、スカイラインは南に向いて快走した。
 目指す葉山町は東京から南へ約50キロの距離で三浦半島の入り口にあたり、青い海と緑の山々に囲まれた風光明媚な街で別荘地としても有名だ。

 ありさ「にゃ~ん、ありさ、お腹が空いたよお~」
 球「じゃあ、『レストラン葉○庵』に寄ってみる?まだかなり先だけど」
 浩一「『レストラン葉○庵』ってたまに雑誌に載ってるあのアンティックなレストランだろう?」
 俊介「昭和初期の創業だって聞いたことがあるよ。かなり老舗だね」
 ありさ「ありさは葉山コロッケが食べたい~」
 俊介「何だよ。藪から棒に」
 浩一「あ、でも葉山コロッケって言うのも結構有名なんだよ」
 球「にゃっ、確か、今は亡きあの名優石原裕次郎が好きだったって聞いたことがあるよ」
 俊介「へ~、そうなんだ。球は良く知ってるね」
 球「でも、球は鯛めしが食べたい~」
 浩一「おおっと、次から次へとよく出てくるな~。今度は鯛めしか?う~ん、どれにするかなあ?」


第24話“豪華な別荘”

 ありさ「にゃんにゃん!海だあ~!」
 球「あ、ほんとだ。でも寒そうだね~」

 太平洋に面した穏やかな気候の湘南だがさすがに冬の海は寒い。
 夏はサーファーや海水浴客で賑わう海岸線も、正月早々釣りを楽しむ人達の姿が疎らに見える程度だ。
 話題の『レストラン葉○庵』は元旦と言うこともあって閉まっていて、結局ドライブインで食事をすることになった。
 ありさ所望の葉山コロッケは帰路に着く3日であれば店が開いているかも知れない。
 その後4人はコンビニに寄りドリンク等を購入しそのまま別荘へと向かった。
 助手席の浩一の道案内で道に迷うこともなくスムーズに目的地に到着した。


 ありさたちは玄関ポーチから別荘を見上げた。

 球「うわ~!すごい!立派な別荘だね~!想像していたよりずっと大きい!」
 ありさ「にゃう~ん♪ありさ、大きいの、だ~い好き~♪」
 球「ありさが言うとエロく聞こえるのはどうしてかな?」
 ありさ「ぷんにゃんぷんにゃん!球ったら~、もう、失礼しちゃう~」

 浩一がドアに鍵を差し込んだ。

 浩一「さあ~、みんな~!入って入って~!」

 玄関はかなり広くしつらえてあり4人が同時に入っても十分余裕がある。
 ありさと球が土間でブーツを脱いでいる間に、スニーカーとローファーの男性ふたりが先に玄関に上がった。
 ありさがブーツを脱ぐ手を止めてじっと真上を見上げている。
 天井が吹き抜けになっており優に4メートルくらいはありそうだ。
 
 ありさ「にゃあん、浩一?」
 浩一「なに?」
 ありさ「天井の照明はどうして取り替えるの?手が届かないんだけどお」
 球「そうだね、天井がすごく高いものね。脚立じゃ無理っぽいし梯子を使わないといけないのかな?やん、スカートだったら見えちゃう~」
 浩一「残念でした。梯子なんかいらないよ~。ここにあるボタンを押すと・・・ほら」

 浩一が壁にあるスイッチを押すと、天井のシャンデリアがゆっくりと降下を始めた。

 ありさ「わわわ!すごい!最新設備だ~♪」
 球「にゃっ、ほんと、すごいね~。この分じゃまだまだ凄いものが見つかるかも知れないね。楽しみ~」
 浩一「先ずリビングへ行こうか」

 浩一が最初に案内したのはリビングルームだった。
 イタリアンテーストなリビングテーブルとソファが中央に置かれ、壁には壁面家具が備え付けられている。
 シンプルでベーシックな造りの中に寛ぎの空間がうまく演出されている。                      
 浩一「さあ、ここでちょっと休憩しようか」
 球「にゅう~、本当に立派な別荘だね~。うっとりしちゃう~」
 ありさ「ありさ、胸がドキドキしてきたあ~」
 俊介「いやあ、全く驚いたよ。正直ここまで凄いとは思っていなかったもの」
 浩一「親父の物なんだけどそんなに褒められると俺まで嬉しくなっちゃうよ」

 浩一はみんなの笑顔を見て、別荘に来てよかったと思った。


第25話“バーベキューパーティ”

 ありさと球はソファで小休止したあと別荘内を一回り見学することにした。
 俊介はコーヒーを飲みながら浩一と談笑に耽っていて彼女たちの後を追いかけなかった。
 彼女たちは各部屋に備え付けてある高級そうな調度品や装飾品に興味を示した。
 とりわけ直径3メートルはありそうな円形のバスを見たときは、湯の張っていない浴槽に入ったりと大いに盛り上がった。

 ありさたちは今回の旅行が2泊3日と短いことがとても残念に思えた。

 球「にゅ~、わたしここに長くいたいなあ~」
 ありさ「にゃう~ん、そうだね。お泊り期間延ばす?」
 球「そうはいかないのよ~。うちの家は結構厳しくて、この3日だけでもどれだけ説得に苦労したことか」
 ありさ「そうなんだぁ・・・」
 球「その点ありさはいいよね~。1人暮しだし」
 ありさ「まあね」

 自宅はもちろんのことホテルでも滅多に見かけないような広くて豪華な風呂に見入っていると、浩一が入ってきて部屋割りを告げた。

 浩一「え~と、ありさと俊介は南側にある海の見える洋室だよ~。それから球とオレは東側の洋室に決定~」
 ありさ「きゃあ~~~!嬉ぴい~♪早速荷物を運んで来よう~!」
 球「え~~~?わたしたちの部屋は海が見えないの?な~んだ、つまらない」



 元旦の夜はバーベキューパーティーだった。
 夏場ならテラスで楽しみたいところだが、いくら温暖な湘南といってもさすがに夜は寒い。
 ありさたちはダイニングルームで夕食を楽しむことにした。
 夕食後はほろ酔い気分でゲームに興じたが、まもなくそれぞれのカップルは自分たちの部屋へと戻っていった。
 球ペアは入浴後早々とベッドに潜り込み、昼間の疲れも忘れて愛を確かめ合った。
 ありさは俊介の持参したギターを伴奏にYUIの曲などを口ずさんでいたが、それもつかの間ふたりはそのままソファで抱き合った。
 夜も更けた頃、それぞれの部屋からは静かな寝息が漏れていた。



 2日のすがすがしい朝が訪れた。
 冬には似つかわしくなく空が青く澄み渡っている。
 俊介と浩一がのっそりと起きてきた頃は、ありさと球が腕に選りをかけて朝食をこしらえていた。
 ベーコンとレタスの焼きサンド、スクランブルエッグ、ゴボウサラダ、それにコーヒー、ジャスミンティー、オレンジジュースが朝のメニューだ。
 ありさと俊介はコーヒー党で、球と浩一がジャスミンティー党だ。

 朝食を済ました後、ありさたちは初詣に出掛けた。
 行き先は葉山にある森戸神社だ。
 森戸神社は 森戸川の河口に突き出た森戸岬にあり、三方を海に囲まれた見晴らしの良い神社だ。
 一口に言うなら岸壁の上の神社と言ってよく、実に絵になる風景だ。
 古くは源頼朝が伊豆で挙兵した際に戦勝を祈願した三島明神の分霊を祭っているという。



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ありさ
















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