第4話「邪淫な妄想」

 源蔵の手はもえもえの小水でボトボトに濡れてしまっているが気にも留めていない。

「1人経験があるのか」

 舐めるような視線でもえもえを見つめる源蔵。

「……」
「おまえと小屋にいる2人とはどんな関係だ」
「男性が私の担任で、女性は保健の先生です……」
「二人とも教師だな」
「はい……」
「男の担任のことは好きか?」
「そんなことより早く指を離してください!」
「グッヒッヒ……先に答えろ。担任は好きか?」
「……」
「図星だな。担任のモノをココに入れて欲しいと思っているのだろう?」

 源蔵は『ココ』という言葉を発した瞬間、指を離すどころか花芯の中に挿し込んでしまった。

「いやっ! 指を入れないで!」
「答えるんだ」

 脅しながら指を蠢動させる源蔵。その声には不気味さと妙な威圧感があった。

「……そ、そんなこと……全然思っていません!」

 もえもえは以前から担任の俊介に想いを寄せていたが、俊介が保健医の早乙女イヴと恋仲であることに気づいていたため、俊介に告白することなく今日まで過ごしてきた。
 というのも、もえもえは保健医のイヴを姉のように慕っていたし、イヴもまた従順で愛らしいもえもえのことを可愛がっていたため、もえもえとしてはとても二人の間に割り込む気持ちにはなれなかったのだ。

「その慌てようからしておまえが担任に惚れているのは間違いない。俺がおまえの夢を叶えてやろうか? グッヒッヒ……」
「……どういう意味ですか!? 変なことを言わないでください……」
「変なこと? 惚れているならその男に抱かれたいと思うのは女として当然のことだろう?」
「いいえ、そんな気持ちはありません……車野先生と早乙女先生はお互いに愛し合ってるんですから……」

 2人の教師が恋仲であることをもえもえから聞いた源蔵は、邪淫な妄想を巡らせていた。

「そうなのか。グッヒッヒ……小便はもう出たか。よし、表に出ろ。小屋にいる二人に挨拶をしないといけないからな」
「挨拶? 先生たちには変なことをしないでください!」
「グッヒッヒ……先生想いの良い生徒だな。分かった。おまえが俺のいうとおりにすれば、何もしやしないよ。さあ、出るんだ」
「お、おじさん……」
「なんだ?」
「あのぅ……ここが濡れてしまっているので拭きたいので……トイレットペーパーをくれませんか?」
「ダメだ、そのまま歩くんだ」
「そんなぁ……」
「もう逆らうのか? 俺のいうとおりしろと言ってるだろう? それともこの斧で引き裂かれたいのか?」
「い、いいえ、逆らいません……言うとおりにするので乱暴はやめて……」

 背後から威嚇されながら、もえもえは木の扉を開き表に出た。
 激しく降っていた雨は、いつの間にか小降りに変わっていた。
 もえもえは天候を恨めしく思った。
 あのとき大雨が降っていなければ、小屋に寄ることもなかったし、こんな災禍に遭遇することはなかったのにと……

 一方、小屋の中で湿った服を乾かす俊介たちも、なかなか戻ってこないもえもえがとても気がかりだった。

「もえもえちゃん、どうしたんだろう。遅いな」
「そうね……お腹の具合でも悪いのかしら。ちょっと様子を見に行ってきましょうか」

 イヴが立ち上がろうとしたとき、玄関の方から物音がした。

「もえもえちゃんが戻ってきたようだね」
「あぁ、良かった、心配したわ。もえもえちゃん、だいじょうぶ?」

 小屋の扉がガラリと開きもえもえが現れた。
 なぜだか青白い顔で立っており何も語ろうとしない。
 しかも驚いたことに、ずらしたショーツが膝に引っかかったままという奇異な光景だ。

「もえもえちゃん、どうしたの、その格好は!?」
「早くパンツを上げなさい! もえもえちゃん!」

 その直後、もえもえの背後に見慣れない男がぬうっと立っているではないか。

「あ、あなたは……?」
「もえもえちゃん……後ろにいる人は誰なの……!?」

 源蔵はまるでクマのように大きくがっしりした体格をしている。
 もえもえは返事ができず、今にも泣きだしそうだ。

 瞬時に異変を感じとった俊介は自然本体に構えた。
 学生時代柔道で体得した戦闘態勢だ。
 イヴはもえもえに何が発生したのか見当がつかず困惑している様子だ。

 源蔵がもえもえの背後で凄味をきかせた。

「グッヒッヒ……おまえたちがこの子の先生か」
「そうだ! その子に何をしようというのだ!」
「この子を助けたければ俺の言うとおりにしろ。少しでも逆らえばこの子の命は保証しない。分かったか」
「分かった……その子は大事な生徒なんだ。お願いだから手を出さないでくれ」
「おまえたち俺の許可なく俺の小屋に入り込んだ……その罰は受けてもらうぞ」
「すまない。悪いと思っている。突然大雨に遭って雨宿りできる場所を探していたんだ。決して悪意はないんだ。謝る。許してくれ」

 俊介は源蔵に深々と頭を下げた。

「だめだ、罰は受けてもらう。おい、男! おまえの横にいる女を柱に縛りつけるんだ! もしもすぐに解けるほど緩く縛ったりするとおまえとその女の命がないぞ。いいか?」
「縛れだなんて……何と言うことを……」
「縄は後ろの棚にあるからそれを使え」
「くっ……」

 俊介は苦々しい表情を浮かべ棚に向かって歩き始めた。

「早くしろ!」

 緩慢な動きの俊介に、源蔵が催促する。

 俊介は無造作に棚に置かれている麻縄を取りだした。
 長年使い込まれているのかどす黒く薄汚れている。
 もしかしたら以前にもこの麻縄は多くの女性を縛ってきたのかもしれない。
 俊介は小屋のあるじに尋常ならざる何かを感じずにはいられなかった。

(この男はサイコパスかもしれない。逆らえば何をするか分からない。しばらくはおとなしく従い、隙を見て……)



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