第四話 “白磁の如き双丘”

「すまぬ、頭領……」
「だがよ、可愛がってやるのはいいんだぜ。女って奴は磨けば光る珠のようなもの。可愛がってやれば色艶が良くなり値打ちだって上がるってもんだ。がははははは~!」
「ふうむ、さすが頭領、感服いたした」
「ちぇっ、捨蔵はいつまで武士を気取ってるんだか。早く山賊らしくなりなよ」
「全くだ。ひゃひゃひゃひゃ~~~。さあてと、女武者どの、ぼちぼち脱ぎ脱ぎしようか?」

 横で徳太郎と捨蔵の話を聞いていた丸禿の弥平がにやりと笑って、突然ありさに飛び掛かった。

「何をするっ!」
「可愛がっても構わないとお頭からお許しが出たんだ!早速脱がしてやるぜ!」
「や、やめろ!」
「脱がせる間だけ縄は解いてやるが、変な気を起こすんじゃねえぜ」

 弥平がありさの縄に手をかけたとき、徳太郎のドスの効いた声が飛んだ。

「おい弥平、油断するんじゃねえぜ。女と言っても茂兵衛を一刀で倒した奴だ。縄を解いた瞬間、お前の首がすっ飛ぶかも知れねえぜ」
「ひぇ~!お頭、そんなに脅かさなくったって。いくら腕が立つと言っても刀が無ければ木偶の坊でさ。それにしても茂兵衛があんな簡単にやられちまうとはな。おい女武者、後からたっぷりと茂兵衛のお返しをさせてもらうから覚悟してろよ!」

 徳太郎が神妙な顔で言葉を続けた。

「全くだ。茂兵衛は可哀想なことをしたな。本来ならこの女武者を血祭りにあげて茂兵衛を弔ってやりたいところだが、あいにく俺たちは『義』よりも『利』を重んじる集団でな。お前を売り飛ばして金にする方が茂兵衛の供養になると言うもの。ふふふ、心配しなくても命は取らねえよ。だけど、女として死ぬよりも恐ろしい目に合わせてやるぜ。おい、お前たち、この女武者を素っ裸にひん剥いてしまえ!」

「お~~~っ!」
「任せとけ!」
「承知した!」

 男たちはありさの着衣を脱がしにかかった。

「や、やめろっ!」

 ありさに抵抗をさせないため、捨蔵が背後に回り込みありさを羽交い締めにし、平吉と弥平がありさの手甲(てっこう)と脚絆(きゃはん)を取り外しにかかった。

「ふふふ…気が変ったぜ。脱がすのは俺に任せろ」

 脱衣はすべて手下に任せ自身は高みの見物かと思われた頭領の徳太郎だったが、突然手下たちを制し自分が女武者を脱がせると言い出した。
 すぐさまありさの正面にどっかりと陣取ると、眼を輝かせ舌なめずりをしながら品定めをし始めた。

「ふうむ、暗がりの中だとよく分からなかったが、こうしてじっくりと眺めてみるとかなりの上物じゃねえか。ぐふふふ……」

 含みのある徳太郎の不気味な笑い声に、ありさは不吉な予感を禁じ得なかった。

 徳太郎はにやにやと笑いながら、ありさの胸元の合わせをぐいと広げた。

「うっ、よせ!」

 胸元を開くと、白磁のように白い肌が覗いた。

「ほほう、抜けるように白い肌をしているじゃねえか。こりゃあ堪らねえぜ。ぐふふふ、ぐふふふ……」

 ありさは胸元にかかった徳太郎の手を払いのけようと、身体を揺すって抵抗を試みるが後から羽交い締めにされていて思うように動けない。
 徳太郎は胸の合わせをさらに広げた。
 ありさはこの日、濃紺の着物を着用しその下に白の襦袢を着け、さらに胸のふくらみを隠すため木綿のさらしを巻いていた。

「ほほう、胸に布を巻いて乳を小さく見せようとしていたのか?がははははは、何とも健気だぜ!なあ、みんな」
「まったくだぜ~!それで男だと騙そうとするとはこりゃ愉快だぜ~、ひゃっひゃっひゃっ~!」
「ふん」

 ありさは男たちをきっと睨んだ。

「どこまでも強気な女だぜ。だけどその強気がどこまで続くかな?おい!この女が暴れねえようにしっかりと押さえてろ!」
「へい~!」
「ほいきた~!」
「承知!」

 男たちの腕が一斉にありさに伸びた。

「うわ~~~!!や、やめろ~~~!!」

 三人係りでありさを押さえつけ、徳太郎が衣類を剥がしていく。
 四人の男たちに掛かられてはひとたまりもなく、瞬く間に半裸にされてしまった。
 胸のふくらみを覆っていた木綿のさらしも、筍の皮のようにいとも簡単に剥かれていく。

「くそ~、面倒臭いものを着けやがって。手間が掛かるじゃねえか」
「ぐふふふ、だがよ~、手間が掛かる分愉しみも増すってもんだぜ」
「左様じゃのう」

 身体を捻じって抵抗するありさだが、強靭な力で押さえつけられてはなすすべもない。
 幾重にも巻かれたさらしもついに全て解かれてしまい、真っ白な乳房が現れた。
 乳房は見事に完全な半球を描いている。
 白磁の如き美の双丘とはこのような乳房を言うのかだろう。
 乳首はそれほど大きくはない。
 そしてなぜか重力の影響をほとんど受けていないように見える。
 二つの乳首はきれいに上を向いている。
 陽光を求める蔓性植物の新しい芽のように。

「ぐふふふ、小ぶりだがたまらねぃいい乳をしてるじゃねえか。なあ?女武者さんよ」
「さ、触るなっ!!け、汚らわしい!!」

 正面から徳太郎が両の乳房を鷲掴みにしてきたが、他の男に身体を押さえつけられていて払い除けられない。

「そう嫌がるなって、いくら揉んだって減るもんじゃねえんだし。ぐふふふ、いい感触だ。おい、お前たちも揉んでやれ」
「へっへっへ、じゃあ、おいらも」
「それがしも」

 周囲からまるで触手のように野卑な手が伸びてきた。
 いずれの男もよく日焼けして黒光りしている。
 色白なありさとは対照的な色彩均衡を醸し出している。

「や、やめろ~!」
「『やめろ』じゃなくて『やめて』だろう?がははははは~!」
「もう女だと言うことはお見通しなんだから、いい加減男気取りはやめれば?」
「ぐふふふ…まあいい、後からたっぷりと艶っぽい声でよがらせてやるからな」
「これは愉しみじゃ」

 そのとき突然背後からありさの首に太い腕を絡まってきた。

「ううっ……くっ、苦しいっ……」
「へっへっへ~、殺したりはしねえから安心しろ。生まれたままの姿にひん剥いてやるから、ちょっとの間大人しくしてな」
「うううっ……」

 ありさが首を絞められ苦悶の表情を浮かべている間に、たっつけ袴の紐が解かれていく。
 たっつけ袴は日常の袴とは異なり、武者の旅用で歩きやすいよう裾が絞られていたため、脱ぐのにいささか手間が掛かった。






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