第2話「ありさの部屋で」

 ありさの部屋に入る。
 伸は父親であるにもかかわらず奇妙な緊張感に包まれた。
 同じ屋根の下で暮らしていても、父親が娘の部屋に入ることなど希少といえるだろう。
 伸の場合、十年前、ありさの小学生時代に勉強を見てやった頃まで遡らなければならない。

 部屋に入ると、甘く爽やかな桃のような香りが漂った。
 部屋は全体がホワイトでまとめられたシンプルなコーディネートで、よく片付いていて清潔感に溢れていた。
 部屋に入るやいなや、ありさは伸に抱きつくと胸に顔を埋めてきた。
 やさしく肩を抱きありさの髪を撫でる伸。

「お父さん……」

 ありさは伸の胸に顔を埋めながら大きく息を吸った。

「ああ、お父さんの匂いがする……」
「当り前じゃないか。本人なんだから」
「そうよね?あは」
「ははははは……」
「お父さんが私の部屋に入るのって何年ぶりかしら?」
「おまえの宿題をみてやった時だから、かれこれ十年は経つかな」
「そんなに長くこの部屋に入っていないんだ」
「そりゃあそうだろう。父親が娘の部屋に入りびたりなんてあまり聞かないからな」
「うんうん、だよね」

 ありさは伸と語らいながら上着のニットを脱ぎ始めていた。
 脱衣する娘の姿を見て、伸は思わず息をのんだ。
 ありさはライトグレーのキャミソールを身に着けていた。
 かなり薄い生地で透けて見えるセクシーなものだ。
 その光景を見て、伸の下半身は早くも反応していた。
 だが同時に罪意識が生じ自分を責め立てた。

(娘の下着姿を見て興奮するとは、私は何と浅ましい男だろうか……)

 よく見るとキャミソールの下には何も着けていないではないか。
 伸は驚きを隠しきれなかった。
 ありさは今夜伸に抱かれることを想定して、予めキャミソールの下に何も着なかったのかもしれない。
 透けたキャミソールの下からありさの裸身がのぞいている。
 強いていうなら小ぶりな胸だが、お椀のような美しい胸が透けて見え、先端は乳輪までがうかがえた。
 下半身には控えめな陰毛がキャミソール越しにわかる。
 そんなありさの大胆な姿に五十路の男の下半身に血が滾った。

「ありさ、おまえ、いつもそんなセクシーなものを身に着けているのか?」
「まさか、ふだんは着けてないよ、今日は特別だもの」

 特別という言葉に伸の心は少年のように弾んだ。
 同時にありさの熱い想いが伝わってくるようであった。

 ありさはベッドに寝転び自分だけ掛け布団をかけた。

「え? お父さんをベッドに入れてくれないのか?」
「おやすみ~」
「おいおい……」

 伸が落胆の色を浮かべると、ありさは悪戯っぽく微笑み、掛け布団をめくり伸を誘った。

「なんだよ、おまえ意地悪なところがあるな~」
「お父さん譲りだよ」
「お父さんは意地悪じゃないぞ」

 伸が隣に滑り込むと、すぐにありさが身体を寄せてきた。
 伸はまるで広い世界の中で二人だけの狭い空間に迷い込んだように感じた。

「今夜だけ私はお父さんのお嫁さんになる……」

 ありさが真剣な表情でそうつぶやいた。

「本当にいいのか」
「女に二言はないわ」
「それをいうなら『男に二言はない』だろう?」
「でも、どうして『男』って限定しているの」

 伸はありさの髪を撫でながら意味を説明をしてやった。

「元々は『武士に二言はない』という台詞があったのを『男に二言はない』 という現代版にアレンジしたらしい。つまり武士は一度言ったことは曲げずに貫き通すものだ、という意味のことわざなんだよ。 それが武士とされていたわけだ」
「へえ、そうなんだ。さすがお父さん、詳しいね」

 ありさが伸を見つめながらささやいた。

「お父さん……」
「ん……?」
「私を愛して。娘としてではなく女として……」

 ありさの一言に伸の中で何かが弾け飛んだ。
 次の瞬間、伸はありさを抱き寄せていた。
 そしてほぼ同時に二人はお互いの唇を求め合っていた。
 伸は柔らかい唇に自身の唇を重ね、わずかに開いたありさの口の中に舌を入れてみると、応えるようにありさも伸の舌に絡めてきた。
 ねっとりと濃厚なディープキスがつづいた。
 まもなく顔から離すと、潤んだ瞳が伸を見つめていた。

「ありさ……」

 たまらなくなって再びキスを交わし、背中を撫でていた左手を徐々に胸の方へと近付けていく。

「あぁっ……」

 伸の手が乳房に触れると、ありさの唇から吐息が洩れた。
 乳房の感触をしばし堪能した後、おもむろに鷲掴みにし激しく揉みしだく伸。
 吐息が早くなっていくありさだったが、伸が乳首を摘まむと、ひときわ大きな吐息を洩らして体を弾ませた。

「あああっ……お父さん……あぁんっ…」



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