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第1話「結婚式前夜」
「お父さん、いままで育ててくれてありがとう。お父さんの娘でよかったと思ってるよ。俊介さんときっと幸せになるから、心配しないでね。明日は、お父さんも大変だと思うけど、よろしくお願いします」
結婚式の前夜、父親伸の前でありさは正座で三つ指をつき立派な挨拶をしてみせた。
さらに神妙な表情で意味ありげなことをささやいた。
「結婚する前にお父さんとの思い出が欲しいの」
「思い出……? 幼い頃からいっしょに家族で出掛けたし思い出はいっぱいあるじゃないか」
「違うの。家はお母さんが早く亡くなって、お父さんが男手ひとつでがんばってくれて私を育ててくれた。だから本当に感謝してるの。そんなお父さんのことが大好きなのよ、だから……嫁ぐ前に抱いてほしい……」
ありさのあまりに唐突な要望に伸は泡を食ってしまった。
伸が唖然としていると、ありさはさらに言葉を重ねた。
「今夜だけでいいの。たった一度だけでいいので私の願いを聞いてほしい」
「ありさ、おまえは気立てがよく外見も麗しく成長したと思う。そんなおまえをすごく愛おしいと思っている。だけどそれは女性としてではなく、あくまで娘として愛おしいという意味だ。分かってくれるな?」
「仮にそうだとしても、今日だけ、たった一度だけ私を娘としてではなく女として見て欲しいの」
「それは無理というものだ。第一そんなことをしたら俊介君に対する裏切りになるじゃないか。そんな気持ちになるのは結婚式を明日に控えて不安定になっているからではないのか?」
「マリッジブルーだというの? 違うよ。そうじゃない。私は以前からお父さんを一人の素敵な男性として見ていた。でもずっと気持ちを抑えていたの。でも結婚式が明日に控えてどうしても一度だけお父さんに抱かれたくて……」
「そうまでいうなら仕方がないだろう。でも後悔しないか? よく考えたのか?」
「考えたよ、結婚が決まってからずっと…… お願い、今回だけ私のわがままを聞いて……」
「分かったよ、最後に一生にたった一回限りの思い出を作ろう」
「ありがとう!」
「ゴムがあったかな……? 残っていたとしてももかなり古いと思うので、今からドラッグストアかコンビニで買ってくるよ」
「そんなのいらないよ、お父さんを直に感じたいもの」
「えっ……!? いくら何でも生は拙くないか?」
「いいのよ。お父さんのアレをいっぱい注いでほしいの」
「もし子供ができたらどうするつもりだ?」
「産むに決まってるよ。だってお父さんとの愛の結晶が残るのよ」
ありさの決意に伸は言葉が出なかった。
(まさかここまで覚悟をしているとは……)
「そうか……おまえがそこまで言うなら、今夜は父娘ではなく男と女になってたっぷりと愛してやろう」
伸が決心してそうささやくと、娘が感動して涙を流して抱きついてきた。
「お父さん……」
お互い見つめ合って吸い寄せられるように、顔を近づけ、唇を重ねる二人。
「変な気分だな、おまえとキスをするなんて」
年甲斐もなく少年のように照れ笑いをする伸。
ありさとしては最も親近感のある存在だし真剣な気持ちなので笑う気にはなれない。
伸としてもこうしてありさと舌を絡め合うのは初めてだが、大事に育てた娘との接吻は甘く切ない思いに溢れている。
おそらくこれが最初で最後だからだろう。
唇を重ねたまま服を脱がそうとする伸。
ありさは蚊の鳴くような小さな声で「ここじゃいや」とささやいた。
「気が利かなかったな。じゃあ寝室においで」
「お母さんに悪いからお父さんの寝室はいや……」
「うん、そうだな」
「私のベッドにきて?」
伸はこっくりとうなずくと、まるで恋人同士のようにそっと寄り添いながらありさの寝室へと向かう二人であった。