ありさ姫






第三話“恥辱の磔台”

 観衆のどよめきはすぐには収まらなかった。
 それもそのはず、敗れたとはいっても一国の美しい姫君が一糸まとわぬ姿で縛られ今まさに処刑に臨もうとしており、さらには本来あるべきところに大切な恥毛がないと来れば、誰しも驚いて当然であった。

「おおっ、なんと!あのお姫様“かわらけ”ではないか?」
「ほんとだ!つるつるだ~!大事な場所に毛が生えてねぇぞ」
「もしかしたらお役人に剃られてしまったために毛がないのではないか!?」
「うんだうんだ。おれもそう思う。見た感じでは17、18ぐらいだし、毛無しというのも妙だからな~」
「それにしても、あのくっきりとした縦線、ううっ、たまらないね~」
「おれの女房のように黒ずんでねえし、ふぁ~生娘はたまらないなあ~」
「きれいな桜色したべっちょだねえ。うっとりするよ~」
「それにしても素っ裸にひん剥かれてどうされるんだんべい?」
「裸のまま槍でぐさり……じゃねえのか?ああ、可哀相に……」
「んだら何も裸にひん剥くことはないのにね」
「きれいなお姫様なのにもったいないねぇ」

 観衆の中には当然幼い子を連れた母親の姿も混じっていた。

「かあちゃん、あのおあねごちゃん、裸だ」
「これ、あんまり見るでねえ。さあ、帰るぞ」

 母親はありさ姫を眺めている子供の腕を引っ張り、そそくさとその場を立ち去ろうとしていた。

 この日、ありさ姫にはもう一つの不幸があった。
 当時同じ磔刑と言っても、男性と女性とでは磔台の構造が少しだけ異なっていた。男性を磔刑にする場合は磔台を『キ』型に組み上げ、両手両足を広げた形で縛りつける方法がとられていた。それに対して女性の場合は磔台を『十』の型に組み上げ、股を広げられることはなかった。これは死に行く女性へのせめてもの配慮がなされた証であろう。
 ところが、今回ありさ姫に用いられた磔台は男性用の『キ』型であった。これは前代未聞の出来事であった。
 実は前夜、黒岡と下川が密談を交わし、ありさ姫が死ぬ直前まで徹頭徹尾辱めようという非情なる約束がなされたのであった。

 はじめ磔台に固定された時は両足は揃えて十文字に縛られたが、黒岡の号令一下小者が磔台に駆け寄り両足の縛めはいったんは解かれたが、両足は約四十五度の角度に拡げられすぐさま新しい縄で固定されていく。
 これにはありさ姫も狼狽した。

「くっ!何をするのじゃ!やめろというに!!」

 先程まで両足を揃えていたため女陰は辛うじて縦線の形状を保っていたが、大きく開脚されてしまったために亀裂はぱっくりと割れ、まだ誰にも見せたとのない内部の肉襞までもさらけ出してしまった。
 うら若き女性が全裸で処刑されるというだけでも耐えがたいことなのに、そのうえ陰毛はすべて剃られてしまい、さらには観衆の前に秘所の内部までさらけ出さねばならないと言う屈辱。
 ありさ姫の苦しみはいかばかりであろうか。
 処刑される直前までなぜこれほどの辱めを受けなければならないのだろう。
 ありさ姫は口惜しさに打ち震え涙を流した。
 世間の娘達よりも気位が高く、しかもいまだかつて男性と肉体的な契りも結んだこともない。
 そんな清廉無垢なありさ姫にとっては死ぬより辛い過酷な刑であった。

 身体の隅々まで観衆に見られている……
 透き通るような白い肌に突き刺さる視線……
 それは好奇に満ちた視線……邪悪な視線……
 目のやり場がない苦しみ……

「ううっ……み、見ないでください……恥ずかしき……」

 今消えてしまえるならすぐにでも消えてしまいたい。
 白い肌は羞恥のため真っ赤になっている。
 ありさ姫は悲しげに嗚咽をもらした。

 黒岡は羞恥に打ちひしがれているありさ姫に対しさらなる追い討ちをかける。

「愚将野々宮新八郎の娘だけあって、実に嫌らしい身体をしておるのう~。わっはっはっはっは~!皆の者!この淫乱なる姫の身体を処刑前に頭の先から尻の穴までしっかりと目に焼きつけておくがよいぞ!」
「くっ!おのれ~黒岡めっ!!私だけならまだしも父を愚弄するとは持っての他!!この身死すれどもゆめ許しはせぬぞ!!」
「ふん、ほざけ!!」

 そこへ下川が口を挟んだ。

「黒岡殿、ありさ姫を淫乱呼ばわりするのはいささか可哀想ではござらざるや?」
「いかでじゃ?」
「聞くところによると姫は未だ生娘とか」
「がっはっはっはっは~!ふむ、確かに、昨夜、剃毛を行いし役人どもの話によると姫は違わず生娘なりと言っておったのう。男を知らぬまま冥土に行かねばならずとは哀れじゃのぅ」
「ふむ、それは不憫でござるのう。黒岡殿、では例の品をぜひ使いたまえ」
「おお、そうなりし、そうなりき。下川殿より頂戴せし祝いの品をこれへ持ってまいれ」

 黒岡が合図を送ると、家臣が白い絹に包んだ長尺物を大事そうに運びこんできた。
 長尺物は丈がおよそ十尺(3M)ほどあった。
 黒岡がうなづくと家臣は白い絹を取りのぞいた。
 そこに現れたのは一本の立派な槍であった。



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