第四話“飴色の張形” 「これは……!」 黒岡は槍を目にして驚愕した。 槍は柄に細かな彫り物が施してあり見るからに高価な槍であることはすぐに分かったが、それ以上に黒岡を驚かせたのは槍の穂先であった。 本来ならば、穂先には尖った刃が取り付けられているものだが、刃はなく代わりに男根を模した飴色の張形が埋め込まれていた。 「穂先に取り付けてあるものは、もしや張形ではあるまいか?」 「そのとおり。奥方が泣きて歓ぶ張形でござる」 「ほほう、これはこれは、ありがたきものを」 黒岡は下川の意図を悟って淫靡な笑みを浮かべた。 下川はさらに誇らしげに言葉を続けた。 「張形とは言ってもいずこでもあるような代物ではござらず」 「ほう、ではいったいいかなるもので?」 「専門の職人を呼び寄せて鼈甲(べっこう)で作らせたものでござる」 「なんと、鼈甲とは!?さる高価な物でできておるのか」 「鼈甲は硬いが実に滑らかなる良き感触をしておってのぅ。あんな物で責められせば女はひとたまりもなかろうて。はっはっはっ~」 「では早速、磔台の姫君に試してみようかのぅ」 「ぜひに。ただしありさ姫はまだ初心と聞き及ぶが」 「取調べ役人の話ではそのようなるが、それが何か?」 「ふむ。いかに滑らかな鼈甲製の張形といえども生娘にはさぞやきつかろう。そこでもう一品よきものを用意つかまつりき」 「ほほう、よきものとな?」 下川は配下の家臣に合図を送った。 家臣は後方に置いてあった壷を重そうに抱えて、黒岡の面前に差し出し深々と頭を下げた。 「うん?なんじゃ?」 黒岡が壷の中を覗いてみると、水飴のようにどろどろとした琥珀色の液体が入っているのが見えた。 黒岡は下川に尋ねた。 「これはいったいなんじゃ……?一見飴のごときが」 「これは、数種の素材を混ぜ合わせ作りし媚薬でござる」 「び、媚薬とな!?」 「大きな声では言えぬがのぅ、聞くところによると、山芋とズイキが主成分で、他にスイカズラ、百合の花蜜、ガマの油、マムシ酒、虎の睾丸を少量混ぜておるそうな。くっくっくっ、これを女陰に少量着くるのみで、女は身体がほてり、吐息が熱く、激しく渇望が現れるらしい。生娘なれども淫乱女に変身する神薬じゃ。くっくっくっ」 「そうか、それはたのしみじゃ。では早速これを使ってありさ姫を責めてみようぞ。あの毅然とせし態度のありさ姫がいかに変わるか楽しみじゃのぅ。はっはっは~」 黒岡は家臣を呼び寄せ、ありさ姫に対して献上品の槍と媚薬を使用するよう命じた。 家臣はすぐに処刑執行役人を呼び、何やら耳打ちをした。 垣根の向こうにいる観衆はそんな内情など知るよしもなく、なかなか処刑が行なわれないためざわつき始めていた。 「処刑が手間取っているようだがどうしたんだんべい?」 「殿様同士が何やら話されている様子だが、何を話されておるのか、遠くて分からないよ」 「ん?執行役人が動き出したぞ。そろそろ始まりんだな」 執行役人の一人が献上品の槍を握り、ありさ姫の前方に立った。 左手には例の壷が置かれている。 執行役人は壷の中に槍の穂先を差し込んだ。 どろりとした液体が穂先に絡みつく。 執行役人は数回かき混ぜた後、穂先を空に向けた。 前頁/次頁 |