第四話「生娘初縄」

「大事な茶碗を割っといて許してくれはあらへんで」
「本当に、本当に、割ってないんです!」
「まだしらを切るんか!もう許さん!」

 どうしても非を認めようとしないありさの頬に、九左衛門の平手打ちがさく裂した。

「うっ!」

 さらに二発目を見舞おうとした九左衛門の手と、防ぐために翳したありさの手がもつれ合った際、ありさの爪先が九左衛門の頬に当たってしまった。

「痛っ……」

 九左衛門の頬からうっすらと血が滲んでいる。
 するとみるみるうちに九左衛門の顔が鬼の形相に変わっていった。

「もう許さへん……嘘はつきよるわ、わしの顔を傷つけよるわ……可愛らしい顔してるくせに案外えげつない娘やなあ。徹底的に根性焼き直したらなあかんわ……」
「許してください!顔を叩くつもりはなかったんです!」
「言い訳はいらん」

 申し開きしようとしているありさの言葉が終わるまでに、九左衛門はありさを突き飛ばしてしまった。
 仰向けに倒れたありさに馬乗りになって、頬に往復ビンタを見舞う。

「ひぃっ!」

 ありさが頬を打たれて怯んだ隙に、九左衛門は予め用意していた麻縄でありさの身体に縄を回し、両手を柱の後ろに縛って固定してしまった。

「だんさん、私が悪かったです!縄を解いてください!」
「いまさらもう遅いわ」
「お願いします!堪忍してください!」
「じゃかぁしい!つべこべ抜かすと、またしばき倒すぞ!」
「もうぶたないでください……」
「叩かれるのが嫌やったら大人しゅうせい」

 いくら許しを請うても許されない。
 ついにありさはしくしくと泣き始めた。

「哀願の後は泣き脅しかいな?わしに涙なんか通用せえへんで」
「だんさん……謝ります……お茶碗を割ったこと、顔に怪我をさせたこと、どちらも謝ります……だから、だから許してください……」
「もう遅いちゅうてるやろ」
「……」
「口先で謝ってもあかん。茶碗とわしの顔の傷は、おまえのその初々しい肌で償ってもらわんと、採算がとれへんさかいな~」
「そんなぁ……」

 ありさは懸命に哀願したが、九左衛門に聞く耳など端(はな)から持ち合わせていなかった。

「さあ、お仕置きしたるさかいな。楽しみにしときやぁ」

 ごつごつとした厳つい手がありさの着ている粗末な木綿の着物に触れた。

「ゆ、許してください!」

 胸の合わせ目から強引に手がねじ込まれた。

「ひい~、やめてください!」

 いまだかつて誰にも触れられたことのない乳房を撫で回した。
 恐怖心がありさを包みこむ。

「や、やめてください……」
「きれいな肌しとるなあ」
「触らないでください……」
「まだ小さめの乳やけど、ええ形しとるし」
「……」

 乳房を撫でながら九左衛門は言葉を続ける。

「ここ、今まで男に吸われたことあるんか?」
「そんなことされたことありません!」
「せやろなあ。未通女(おぼこ)か……こらぁ楽しみやで。ぐひひひひひひ……」

 九左衛門はにたにたと薄気味の悪い笑みを浮かべた。
 顔がほころぶと目尻に幾筋の皺が寄った。
 一見若くは見えるが、さすがに寄る年波は隠せないようだ。

 柔らかく心地よい乳房の感触に九左衛門が好相を崩す。

「ほんまにええ感触や。まるで若鮎のようやで。何時間でも触ってたいわ」

 九左衛門の行動は次第に大胆になり、着物の合わせはさらに広げられ、ついに染みひとつない雪のような肌が現れた。
 桜色の乳首が完全に露出すると、九左衛門は指でいじり始めた。

「い、いや……だんさん、やめてください……」
「餅のような肌もええけど、そのかいらしい(可愛らしい)乳首もえろうそそるやないか」

 それはさながら飢えた狼が舌なめずりをしながら目前の獲物に今にも飛びつこうとしている光景のようであった。
 まもなく狼は牙を剥き出しにし白磁のような乳房にしゃぶりついた。
 べちょべちょと品のない音とともに、愛らしい乳房が唾液まみれになっていく。
 身をよじって九左衛門の舌から逃れようとするが、しっかりと麻縄で結わえられている身体はびくともしない。
 今のありさにできることと言えば『叫ぶこと』だけであった。
 もしかしたら声を聞きつけて、誰か来てくれるかも知れない。

「助けてぇ……誰か助けてください……」
「あほんだら。ここはどこやと思てんねん。わし専用の土蔵やで。店の土蔵ならともかく、わしの土蔵にわし以外のもんが覗きに来るはずないやないか。大声出すだけ無駄や」
「そんなぁ……」

 現実的に、九左衛門専用の土蔵は敷地の一番奥にあって、店の者に声が届くことは考えられなかったし、 仮に誰かが土蔵の外で悲鳴を聞きつけたとしても、九左衛門の女癖の悪さを知っている奉公人は誰も関わろうとしないだろう。

「こっから逃げることを考える暇があったら、粗相をしたことの償いだけ考えたらええんや」
「はい……」

 叫んでも誰も助けに来てはくれないのか。
 九左衛門の言葉はありさを絶望の淵に叩き落とした。
 ありさは縛られて不自由な身を震わせて慟哭した。

「ふん、まだ乳を触っただけやちゅうのに、これだけ泣かれたらこの先どないになるねん。どれどれ次の移るとするか……」



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