第14話 生への願いを股間に感じて


「お帰り、美桜」

親しげな声が聞こえる。
チョンチョンとうなじの処を突かれた。

「うぅ、うーん……」

美桜は喉を鳴らした。
たぶんうつ伏せな身体をゆっくりと起こした。

「時を忘れた無限の迷宮へようこそ。うふふ、二度目の来訪ね」

顔を持ち上げ、薄くまぶたを開いて、そうしたら膝に手を当てて覗くサキコに出迎えられていた。
ぼんやりとした思考でしかないのに、目を合わせたゴスロリ少女も、掴みどころのない『無』の世界も、リアルな記憶を伴って美桜の視界を覆った。

「まだ……死んでないのね?」

「まあね。生きてもいないけど」

美桜は立ち上がった。
腰を曲げていたサキコも、美桜より顔半分小さい身体を背伸びさせる。

「それで翔くんは、翔吾は無事なの?」

そこは視界の続く限り、ぼんやりとした白いもやに包まれている。
右も、左も、真正面も、真後ろも、その中心なのか、端っこなのか。そんな単純なことさえ分からない空間で、美桜は訊いた。
次第に覚醒する脳内に愛する人の姿を浮かべて、その姿を探し求めるように首を何度も振った。

「美桜って、口を開いたら『翔くん、翔吾』って。そんなに彼氏が気になるの?」

「気になったら、悪いの?」

「別にそんなことはないけど。でもね、忘れたわけじゃないでしょ。この世界では、あたしが女王様なの。漂流者があんまり溜め口なんか訊いてると、ほら……うふふ」

サキコの白い指先が、美桜の肩に触れた。
その途端、薄い光の輪が美桜の全身を包み込み、身体が軽くなるのを感じた。
纏わせていたワンピースが音もなく消え去り、露わにされた素肌が羞恥を訴えてくる。

「素っ裸よ、美桜。おっぱいも恥ずかしい処も、全部丸見えね」

サキコが目を細めて笑った。
指一本でターゲットの少女を全裸に引き剥くと、今度は片腕を高く掲げた。

「燃え尽きし若き肉体を是へ!」

一瞬にして、そのサキコの顔から笑いが消える。
凛としておごそかな声音が、無の空間を揺るがせた。

原子レベルまで、きっと無の世界に風が吹いた。
白い大気がさざ波立ち、川の流れを作り出す。

「あぁ、翔くん……」

そして、翔吾の身体が漂ってきた。
ジーンズにポロシャツというラフな衣服を纏ったまま、うつ伏せの姿で、美桜とサキコの元へと辿り着いていた。

「ふぅ、あっちの世界から召喚させるのって疲れるのよね」

肩で息を吐いて、サキコは恩着せがましくつぶやいてみせる。
前回と同様に、ピクリとも動いてくれない翔吾の首筋に指を当てた。

「はい、涙のご対面ね」

サキコの指が、男の肌をわずかに撫でる。
それだけで翔吾の身体が回転し、美桜は愛する翔吾と顔を合わせた。

「翔くん、美桜だよ……わたしの声、聞こえる?」

美桜は話しかけていた。
身に着けていた物を全て奪われ全裸のまま、それでもはだけた素肌を隠そうとはしない。
サキコが背中越しに覗き込むなか、『生』の反応を示さない翔吾の頬を撫でた。

(熱かったよね、翔くん。また辛い目に合わせちゃったよね)

頬に乗せていた手のひらを、美桜は滑らせる。
『生きている!』
その想いを指先の一本一本に込めて、翔吾の肌にすり込ませていく。
その実感を微かにでもすくい取ろうと、触れ合わせた指先の一本一本を過敏にさせる。

「うふふっ」

そんななか、サキコの笑う声を美桜の鼓膜が拾った。
意思を持たせた視線の帯が、翔吾の身体へと浴びせられる。

撫でさせていた指の腹が、ポロシャツの襟元に達した時だった。
翔吾の上半身から、その服が溶けるように無くなった。
ぶ厚い男の胸板が、美桜の前に晒される。

「うふふっ、次は下も」

サキコがまた笑い、こそっとつぶやいた。
視線の帯がジワジワと下降する。

「やめて……消さないで……」

美桜はささやいた。
振り返ろうとする頭を強く固定させて、腕だけを素早く走らせていた。
翔吾の左胸にぴたりと貼り付かせていた手のひらに、サキコの視線を追いかけさせ、そして……

「これで美桜と一緒。翔吾も素っ裸ね」

サキコが勝ち誇ったように声を吐いて、膝小僧の処がほつれて破れたジーンズが無くなった。
その下に穿き込んで、美桜も確かに記憶しているトランクス型の下着もすっと消された。

「あら」

そのサキコが意外そうな声を、続けて漏らした。

美桜の手のひらが覆っていたのだ。
まるで卵でも隠し持つように指の背中をこんもりとさせて、翔吾のデリケートな男の部分をガードしていたのである。

(見せてあげない。翔くんの大切な処は、わたしだけしか見てはいけないから)

翔吾にすがりついたまま、美桜は健気な女の意地を見せつけた。
眺めたいのなら、同性のわたしの部分をと。
腰を直角に曲げると、ヒップを後方へと突き出した。
サキコの目が痛いほど当てられている。
それを実感させたうえで、両足を大きく拡げた。

「飽きさせない子ね。美桜は……」

不満なのか?
悦んでいるのか?

翔吾を見つめる美桜には、サキコの本心を窺う由もない。
いや、面と向かったところで、ミステリアスな少女の心根を探ろうなど到底無理な話なのだが。

「お願いします。もう一度、翔くんとわたしを生き返らせて……ください」

「ふ~ん。生き返って、今度こそセックスするってこと?」

「はい、翔くんの……オ、オチンチンに、美桜の……オ、オマンコを突いてもらって、処女を捧げます」

美桜は懇願していた。
サキコに背中を向けたまま、つま先立ちし、膝関節をめいっぱいに伸ばして、突き出した腰を更に高く掲げた。
空いている左手を下腹から股間へと潜らせ、曝け出したスリットの肉に指を掛ける。
ズズッと沈めて、滑らかな粘膜に覆われた恥肉のヒダまで公開させる。








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