第12話 お預けな初体験


「ふふ、恥ずかしい処って? ここかな、美桜?」

「んふぅ、そう……そこぉ、美桜のとってもいやらしい処……おぉ、オマ〇コ……」

その単語を声にした瞬間、美桜の股間がジュンと疼いた。
翔吾に訊かれて、割れ目の縁に指を当てられて、美桜の女の子が淫ら色に染められた。

「おぉ、オチ〇チンを……ちょうだい。し、翔くんの大切な……オ、オチ〇チンを、美桜の……オマ〇コに突き挿して……」

そして美桜は、卑猥な単語をまた声にした。
女性器も男性器もソレに置き換えて、それからセックスの飛躍まで唆した。

「美桜のオマ〇コ、ものすごく濡れてるけどさ……」

「わたしは早く翔くんと……あのね、一緒になりたいの。翔くんのオチ〇チンに、美桜のバージンを捧げたいの……ダメかな?」

「い、いや……だめっていうか。そ、そうだよな、ここは一気に俺の息子で!」

「ありがとう、翔くん」

二度目の初体験なのに、ここまで誤算続きだった。
限られた時を失い、美桜の心と身体も性の快感に我を失いかけ……

(翔くん、ごめんなさい。一生に一度しかない大切な思い出なのに、こんな忙しないエッチに誘って、本当にごめんなさい)

けれども、ようやく結ばれようとしているのだ。
サキコの助言が正しいのなら、美桜と翔吾が一つになった時に、運命の歯車が動き出すのだ。
不幸な結末を回避するように、二人を新たな世界へと導いてくれるはずである。

「少しずつ入れてやるからな……でも、痛いと思うけど」

「ううん、翔くんのオチ〇チンと一緒になれるなんだもん。美桜は全然平気だよ」

被さっていた翔吾の身体が一旦離された。
それでも二人の触れ合いだけは残そうと、翔吾と美桜は声をつなげ合う。

(脱いでるんだ、翔くん。下着を取って、とっても硬くて大きな……オチ〇チンをピクピクってさせて)

美桜は柔らかくまぶたを閉じていた。
きちんと仰向けに寝転び直して、翔吾の目にたくさん晒した花弁を隠すように足を閉じさせた。
しかし太腿どうしを密着させたりしない。
翔吾の指に遊ばれたヘアーと、その下に刻まれた女の子のスリットを覗かせるように、拳半分ほどだけは隙間を残した。

「来て、翔くん」

美桜は心細い声を伝えた。

「力を抜いてろよ、美桜」

翔吾が力んだ声で、アドバイスをくれた。

(待ってたの。この時を美桜は一生懸命に待っていたの)

息を止めて少しへこませたおへその辺りに、熱い男の呼吸を感じた。
太腿の真ん中を汗ばんだ両手に触られて、その手のひらが内腿へと滑りこんでくる。

「あぁ、はあぁ……」

美桜はそれだけで頼りない声を漏らした。

「くぅ、ふうぅっっ……!」

少し拡げられて、その後で勢いをつけて両足が大きく開かれる。
美桜は頼りないボイスのボリュームを上げた。

「美桜……あぁ、美桜……」

翔吾も上ずった声で応えてくれる。
そして膝の関節が勝手に折れ曲がり、緊張感を漲らせた翔吾の身体がググッと迫った。

ピン、ポーン……♪

「へっ?」

「あぁんっ?!」

その時であった。
空気を読まないドアホンが鳴った。
思わず翔吾が、喉を間抜けに鳴らした。
美桜が物欲しさに未練を混ぜて、鼻の奥を鳴らした。

「お客様、ご注文されたルームサービスでございます」

律儀なホテルマンが、ドア越しに呼びかけていた。



「それにしても、どうしてカレーなのよ? それもカツカレーなんて……あーぁ、なんかやってられない」

うっかりしていた。
完全に失念していた。
あと一歩の結合を前に、美桜は一度目のエッチで経験した的外れな行事を苦々しく思い返していた。
美桜の声帯が、考えるのも馬鹿らしいというように、以前に放った同一の言葉を翔吾にぶつけた。

「そんな顔すんなよ。腹が減ってはなんとやらって……美桜の分もちゃんとオーダーしたからさ、ほらしっかり食べて、スタミナつけてさ」

美桜が会話をリメイクすれば、翔吾も真顔で再現させる。
二人して窓際のテーブルに向かい合い、チラチラと夜景に目を当てながら、視線の本線は二人前のカツカレーに落としていた。

(これを食べないと、エッチの続きはお預けってこと?)

(そうさ。俺の晩飯の半月分くらいするカツカレーをオーダーしたんだ。涙を流しながら味わって完食するまで、美桜とするオマ〇コはお預けさ)

そして、カチャカチャとスプーンがカレー皿を鳴らして、口の中へ黙々と芳香なスパイスを詰め込んで、美桜は声を漏らさずに訊いた。
翔吾が本当に目を潤ませて、感極まった顔をこんな場面でこしらえて、美桜に向けて少々下品なテレパシーを送った。

「これが最後の晩餐……」

ひたすらかき込むように食べて、カツカレーが残り三分の一に減らされた頃である。
美桜は口いっぱいに拡がるスパイスを、胃の中へと押し込んだ。ぼそっとつぶやいた。
ひたすらカレースプーンを往復させていた翔吾だったが、その右手が止まった。

「美桜、お前……?」

齧りかけのカツが半分に割れて、カレー皿へと落ちていく。
翔吾は口いっぱいに頬張ったまま、それでもはっきりとした口調を美桜に向けた。

「翔くんも、そんなことを思ってたり……?」

思い切って口にして、美桜は翔吾を覗いた。
夜景の煌きに張り合うように輝かせた黒目を、翔吾の黒目に重ねた。

「俺たちってさ、もう金婚式を迎えた夫婦みたいだよな」

「金婚式……?」

「だってそうだろ。『おい』と呼んだだけで『はい、あなたお茶』の関係じゃん」

突飛もなく語りかけて始まる会話は、思いも寄らない方へと流されていく。
翔吾は訊き返す美桜に、意味深な例え話で返した。
そして、皿に落下した齧りかけのカツをすくい直し、口の中へと入れた。
全然似合わない。
らしくないくらい寂しさを全身に滲ませて、見つめ続ける美桜の黒目に己の目を重ね直した。

「いやよ、そんな関係」

「……」

「金婚式って、結婚してから50年も時間が過ぎてるんだよ。翔くんとの楽しい新婚生活や、もし赤ちゃんが生まれたら、とっても大変だけど、やっぱり楽しい子育てや、それに……それにね、愛し合っている夫婦だったら毎晩……夜の営みだって、そうよ。翔くんとエッチなセックスをして、二人して気持ちよく愉しみたいのに……それなのに……」

ほんの少し過去に、翔吾が語ったセリフを先取りした。
ただそれだけである。
せっかくの『生』チャンスを手に入れたのに、それを生かすことができなくて、悔しさにやるせなさを足して翔吾につぶやいた。
一か八かの思いつき。
そんなものである。

「翔くん、早くここから逃げよう。このホテルはね、もうすぐ火事になるの。わたしも翔くんも、逃げ遅れて焼け死んじゃうの!」








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