第21話  余興の宴はエロ水着で……


岡本典子の視点



「典子、5分以内だ。それまでに準備を頼むぞ」

河添は私を見て、私の手に握られた小さな布切れを見て、右の頬をつり上げた。
そして、腕時計にチラッと目を落として、襖で囲まれた部屋を出て行った。

「ほぉ、随分と豪勢な料理だな。ケチな金貸し屋にしては」
「ふんっ、時田グループめ。ワシらとの話し合いが上手くいかんから、手を変えてきたな」
「はははっ、どうでもいいってことよ。おい、さっさと食べちまおうぜ。なぁーに、料理と土地のことは話は別だ。それはそれで、俺たちの団結で突っぱねればいいんじゃねえか」

襖1枚を挟んで、筒抜けの男たちの会話。
ガチャガチャと打ち鳴らされる食器の音。

私は薄暗い部屋の中に立ったまま、天井を仰ぎ見た。
口許をキュッと引き締めて、身に着けていたものを一枚ずつ脱いでいく。

ブラウスを脱いだ。スカートも脱いだ。ブラジャーも。
最後に残されたショーツを、身体を前屈みにして抜き取った。
隣の部屋から漏れてくるざわめきに、衣擦れの音を紛れさせながら。

「もう時間がないわ。急ぎましょ」

女の本能で、右手がアソコに向かおうとする。
左手が真横になって、ふたつの膨らみを押さえつけようとする。
そんなのを全部、時間のせいにして、その右手にショッキング・ピンクの薄布を掴ませた。
丸まってくしゃくしゃになったそれを、左手に拡げさせる。

こんなのを穿かされるんだったら、アソコの毛の処理しとけばよかったな。
ううん。これってTフロントだから、全部剃ってパイパンにでもしないとダメかも。

足を通して太腿の付け根まで引き上げて、伸び切った三角形の両端を腰骨のあたりに引っ掛ける。
紐のようになった股布が、お尻の割れ目に喰い込んでいく。
そして、前の部分だけ典子の指で整えてあげた。
恥丘の亀裂に埋めるようにピンクの紐を沈ませていく。

光沢のある滑らかな紐を、前も後ろも恥ずかしいお肉に割り込ませて、私は深呼吸する。
黒目だけを下に向けて、今度は息を止めた。

こんな姿を晒さないといけないなんて……
それも見ず知らずの男たちの前で。

『今夜の接客しだいで、時田グループ建設部2課の命運が決まる。つまりだ。このチャンスを潰すと、俺も典子もこれまでってことだ。お前の望んだ儚い夢も一緒にな』

サイドから当然のように顔を覗かせる恥毛が、風もないのにそよいだ。
まもなく時間だというように、隣の部屋から聞き慣れた男の声も聞こえて、私はブラジャーを慌てて身に着けた。
乳首しか隠してくれない、やっぱり紐のようなピンクのブラを指で微妙に調整する。

「え~皆様、今宵は私どものお誘いを快くお受け下さり誠にありがとうございます。ささやかではございますが、お料理などをご用意いたしましたので、ごゆるりとお寛ぎ下されば幸いです」

あの拓也らしくない言い回しで、だけど拓也らしいプライドを滲ませた声音を耳が拾った。
いきがるように反応する男たちの声も。

「ああ、もう勝手にやらせてもらっているぜ」
「アンタが、ここの開発を仕切っている責任者か? へへっ、若いのに大変なことで」
「だがよ、ごちそうを並べたからって、俺たちの土地は売らないぜ。なあ、みんな?」
「おおぉっ!!」

「ははっ、これは手厳しい。何分にも、若さゆえの若気の至りと申しますか、これまでの無礼の数々、なにとどご容赦のほどを。ささっ、今夜に限っては難しいお話は抜きにして、お寛ぎ下さい。お酒の方も充分にご用意致しましたので。
つきましては皆様。今宵はお料理だけでなく、ちょっとした余興も準備させていただきました。こちらもお愉しみいただけたらと……典子、入りなさい」

『典子』と自分の名前を呼ばれて、私は小さく悲鳴を上げた。
裸よりもエッチな水着姿に、身を縮めてしゃがみ込みそうになる。

「典子、皆様がお待ちだ。来なさい!」

河添の口調が1度目より厳しくなる。

私はバスタオルを肩に羽織ると覚悟を決めた。
襖の引き手に指を掛けて、勢いよく開けた。

夏のビーチで見かける、欲求不満な人妻の顔をして……



「おぉっ?! これは……」
「余興ってのは……女のことか?」
「それにしても、いい女だ」
「ああ、それにエロ水着がなんとも……」

まるで夏の日差しのような明るい照明に目が眩んだ。
そんな私に降り注ぐ、男たちの視線と無遠慮な会話。

「いかかです、皆様。グラビアタレントは言い過ぎですが、なかなかのものでしょう?
実はこの女性、岡島典子は、お恥ずかしい話ではございますが、私とは深い仲でありまして。今宵の余興を持ち掛けたところ、嫌がるどころか自分から是非ともということで連れてまいりました。さあ、典子。皆様にご挨拶を」

岡本という苗字が岡島になっても、典子は典子だ!
拓也は目で合図を送ると、コの字に座る男たちの前に私を押し出した。

朱塗りの膳を埋め尽くす、きらびやかな懐石料理。
それを口に運ぶ箸が一斉に動きを止める。
ギラついた視線が、典子の顔に! バストに! ウエストに! 腰に! 太腿に! 這い回って絡みついて、離れようとはしない。

「典子、分かっているよな?」

拓也がいろんな意味で念を押した。
私は妖しい笑顔を作ったまま横目で拓也を睨んで、そして居並ぶ男たちを見回した。

「皆様、お初にお目に掛ります。岡島……典子と申します。今夜は皆様のような……と、殿方に可愛がってもらおうと、無礼を承知でこんな衣装で参りましたことをお許しください」

ファサッ……!

口を閉ざすと同時に、バスタオルが畳の上に滑り落ちていく。
右手を背中に回して、バスタオルのマントを下から引いた。

「うおぉぉっっ!」

部屋中から一斉に沸き起こる地鳴りのような唸り声。
肌をヒリヒリさせるくらいの熱い眼差し。

うふっ。典子の身体ってそんなに魅力的なのかな?
男の人たちを唸らせるほどセクシーなのかな?
だったら続きの挨拶も、はりきってお願いね。真夏のビーチ気分で。
エロビーチクインの岡島典子さん♪


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