第2話   シャワーを浴び続ける理由


篠塚美里の視点


「後悔なんてしてない。うん……美里は……決めたんだから」

わたしはシャワーを浴びながら呟いた。
熱めにセットしたお湯を全開にして、頭のてっぺんから滝のように流れ落とさせたまま、同じセリフを何度も何度も繰り返していた。

口を開けるたびに、肌を伝うお湯が流れ込んでくる。
天井を見上げるように首を反らせて、そのたびにむせ返した。
肺の中にまでお湯を侵入させて、激しくせき込みながらも、同じポーズでシャワーを浴び続ける。

バスルームが真っ白な霧に覆われても、まだダメなの。
美里の身体から、世間知らずな女の子の匂いを消し去られるまで。
振り子のように揺れ動く美里の決心が、固定されるまで。

ふふっ。わたしったら、シャワーを浴び続ける理由を探しているだけじゃないのかな?
たぶん解決しない難問を無理に作り出して。
あの人が、首を長ーくして待っているかもしれないのに……

「でも……ちょっと上せてきたかも。早く身体を洗って出ようかな?」

気まぐれな振り子が大きく傾くのを待って、わたしは呟いた。
頭に刻み込まれたセリフじゃない言葉を、このバスルームに入って初めて口にした。

そして、ボディーソープが滴りそうなタオルで身体中を擦り上げていく。
両腕も両足も背中も、最近、急に大きくなったおっぱいだって、キュッと引き締まったお腹も……

特にアソコの部分は念入りに。
普段はそこまで丁寧に洗わないのに、石鹸でヌルヌルの指を使って割れ目のヒダの奥の奥まで。
そうよ。ちょっと怖いけど、膣の入り口から指先だけ突っ込んでクルクルって洗うの。

「ここも、きれいにしないと……」

最後に美里の指が向かった処。
それは割れ目の先端からピンク色の頭を覗かせている、ちっちゃなお豆。クリトリス。

ちょっと触れただけでも痛痒いような電気が走っちゃう、美里のとっても感じる処。
でもこの部分はよく洗わないといけないって、雑誌とかにも書いてあったし、わたしもそう思ってる。
だからいつも、勉強のこととかテストの成績とか、暗~くなりそうなテーマを思い浮かべては、指先をくちゅくちゅ動かすの。
そうすれば、変な気分にならないで済むでしょ。

だけど今夜は……

「……んんっ……はあぁ……ダメ……なのに」

思わず甘い声を漏らしちゃった。
人差し指と親指がクリトリスに触れているから、いつものように想像してあげたのに。
美里、どうしちゃったの?
勉強のこともテストのことも思い浮かぶ前に消えちゃうよ。

代わりに映しだされるのは、筋肉を盛り上がらせた男の人の裸体。
モザイクに包まれているけど、反りかえって凶器みたいにそそり立つ男の人のシンボル。
その男性がこのシャワールームのように、その姿をおぼろげなシルエットにして美里を抱きしめてくる。
おっぱいを揉まれて、アソコを弄られて、とっても気持ちよくさせられる。
硬いモノが大切な処に触れて、割れ目の中に吸い込まれていって……

「ああっ……は、はあぁ……指が勝手に……」

わたしは石鹸に塗れた指で、クリトリスをくちゅくちゅしていた。
もう、ここを洗っていたことなんて忘れかけている。
ひとりエッチしている時のように、硬くなってる突起を指で転がして、エッチな気分に浸らせようとしている。

美里の心を……?
なぜ? どうしてこんな所で?

わからないよ、そんなこと。
なんとなく、わかるような気がするけど、でもこれ以上考えると自分自身が惨めになっちゃうかも。

「ふあぁっ、はあぁっ……だめよ美里。これ以上は……」

わたしはクリトリスを弄り続ける指たちを、なんとか引き剥がした。
オナニーという形で現実逃避しようとする、気弱な美里をメッってしてあげた。

「ホントにホント。上せちゃうかも」

火照った身体をごまかすように、シャワーの温度を下げる。
真水に近い冷水で一気に身体を冷ますと、そのままバスルームを後にする。

そして洗面台の上に、乱雑に放置された衣類の塊を見つめた。
今日一日、学校という場所で身に着けていた制服に目を落としていた。

「どうしようかな? パンツだけでも穿こうかな?」

頭に浮かんだものをそのまま口にして、蓋をするように覆いかぶさるチェック柄のスカートを取り除いてみる。
小さなイチゴがプリントされた薄い布を掴もうとして、その手を止めた。

「やっぱりパンツなしの方がいいかな。穿いたって、どうせすぐに脱がないといけないから」

自虐に満ちた笑みが浮かんだ。
わたしはその気持ちが萎えないうちに、素肌の上からバスタオルだけを巻き付けた。

高鳴る心臓をなだめるように深呼吸を繰り返す。
急速冷凍されたように強張る顔の表情筋を解きほぐして、ドアのロックを外した。

「後悔なんてしてない。うん……美里は……決めたんだから」

わたしは、あの人が待つ部屋に足を踏み入れていた。


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