5.
これから行う卑劣な行為に罪悪を感じているからか、一歩また一歩と近づいてくる美月の顔を直視することはできず、デスクの上のパソコン画面をじっと見つめた。 コーヒーの香りがだんだんときつくなってきた。胸が張り裂けんばかりに心臓が高鳴りだす。急速に体温が高まり、全身に汗が滲んできたのがわかる。 「どうぞ」 美月の甘い声が直傍に聞こえ、コーヒーカップをつまんだ染み一つない美月の綺麗な手が眼に入った。 美月を見上げた。 視線が交わり慌てて視線をコーヒーカップに落としてしまう。美しい人妻の顔をじっと見つめたいのだが、卑猥な思いが美月に伝わりそうで愛らしい瞳を見ることができない。 その上、いつもなら「ありがとう」と言うのだが、その一言さえ、胸が重苦しくだせない。息が詰りそうだ。 「どうかしましたか?」 いつもと違う雰囲気を察したのだろう美月が心配そうな声を出した。 「いや、なんでもないよ……」 なんとか声を出すことが出きたが、つっけんどんな口調になってしまう。 「そうですか……」 そんな俺の反応に気を悪くしたのか? 美月は寂しそうな声を出し、くるりと背を向けドアへ向かった。 美月が歩を進めると連動し濃紺のスカートに包まれた小ぶりの女の尻がプリプリっと左右に揺れる。 いつもならばこうして美月の形の良いヒップを瞼の裏に焼きつくほどに視姦するのだが、今はそんなことで楽しんでいる時ではない。扉の向こう側に美月を行かせてはならない。 そう強く思うが、言葉がでない。立ち上がろうとしたが、全身に見えない重りが圧し掛かっているかのように身体が動かない。 こんなことは未だかつてなかった。美月を犯す、つまり犯罪を犯すわけだから、それだけプレッシャーがかかっているのかもしれない。 美月がドアノブに手をかけた。そして、くるりとこちらを向き、会釈しドアを閉めた。 「ふうぅ」 全身から重りがとれ、大きく息をはいた。 渇いた喉を潤そうとコーヒーカップを掴んだ。カップを持つ右手がプルプルと震えている。このままでは淹れたてのコーヒーが零れそうだ。コーヒーを口に運ぶのを諦めカップを元に戻す。 (落ち着け……落ち着け、落ち着くんだ) 自身に言い聞かせながら大きく呼吸を繰り返す。 七回深呼吸をしたとき、身体の震えが収まり、ようやくコーヒーを口にすることができた。 (まいったな) 美月を誰も来ない会社に誘い出すことに成功した。鍵も閉めた。後は行動するだけなのに、ぎりぎりのところまできたら凄まじい重圧感に襲われ口を開くことさえ難しくなった。 こんなにプレッシャーがかかるとは思いもよらなかった。 しかし、この重圧に負けてはならない。 何しろ、こんな機会はそう何度も作れるものではないし、何時間もかけてこの計画を練ってきたんだ。 美月を抱きたい、美月の膣肉を弄りたい、舐めたい、肉棒をぶちこみたい。 その思いは強い。 壁掛け時計を見るともう一時をまわっている。 時は待ってくれない。 立ち上がって、両手を重ね天に向かって思いっきり伸ばしながら深呼吸をした。 (やるんだ、絶対成功するから、大丈夫だ) 心のうちで自分に言い聞かせながら、扉の前に立った。 脈打つ心臓の力強さは変わらないが、先に進むしかない。 震える手を冷たいドアノブにかけ扉を開いた。 美月の視線が俺に絡む。今度は逃げなかった。いや逃げるわけにはいかなかった。 愛くるしい大きな瞳を見つめたまま、一呼吸おき、 「斉藤さん、ちょっといいかな?」 何度も予行練習を重ねた台詞を静かに言った。 「はい? なんでしょう?」 「うん、悪いんだが、ちょっとワードでわからんところがあってね。教えて欲しいんだけど」 美月は社内でシスアドの資格を持つ唯一人の人物だ。だから、パソコン関係でわからないところがあれば、社内の人間は皆美月に尋ねる。もちろん、俺も何度か美月に助けてもらったことがある。 よって、この台詞が美月を舞台にあげる最良のものだった。 「はい、いいですよ」 美月がいつものように快く返事をして席をたった。 俺は緊張を隠しながら開け放ったままのドアに背を向け自分のデスクに戻った。 椅子には座らず立ったままパソコンのモニターを見つめる。スクリーンセーバーにしている世界の観光地の風景画が次々と変わっていく。その下にはワードに貼り付けられた、自身の怒張した肉の塊の写真が大きく写されている。 それを美月が目にしたら、きっと彼女は唖然とすることだろう。どう反応したらよいか、言葉すらでないことだろう。思考回路が混乱したその一瞬がチャンスだ。その時、一気に事を進めるつもりだ。 部屋にはいってきた美月を見つめた。俺の瞳に何を感じたのか、彼女は目が交わった瞬間、視線を逸らし、頬をピンク色に染めた。 俺に気があると思ったのは間違いではなかったのでは? だったら、正攻法でいけるのではないか……。 誘い、口説き落とし、合意の上で抱く、そこに罪はない。いくら念密に計画を立てたとはいえ、やはり犯罪行為は怖い……。 美月を誘いはしたが、まだ、胸が苦しくなるほどの美月への想いをまだ彼女には告白していない。 いちかばちか、この想いを告げてみよう。 照れたような仕草を見せる美月を見て、心に大きな変化が現れた。 「斉藤さん……」 直傍にきた美月が俺を見る。 直視されて緊張感が極度に高まるが、思い切って言葉をつづけた。 「き、綺麗だね……」 「えっ!?」 美月が瞳を大きく見開いて、俺を見つめる。 「綺麗だ……」 同じ言葉を繰り返すと、美月の頬が赤く染まった。 (いける!) その反応からこのままいけるかもしれないと心が躍り、滑らかに次の言葉がでた。 「本当、お世辞ではなくて、綺麗だよ。もし、君が独身だったら絶対に口説き落としていたよ」 「社長、いけませんよ。そんなこと言ったら……」 「いけないか?」 「えぇ、いけません」 「君を好きになったらまずいか?」 「お気持ちは嬉しいです……だって社長は素敵な方ですから。けど、いけませんよ。社長には素敵な奥様がいますし、わたしにも夫がいますから」 「それはわかっている。けど、最初にここで君と出逢ってからずっと気になっていた……そして憧れ、今では君を好きになった。この気持ちだけはどうすることもできないんだ」 美月が再び頬を赤く染め、照れたような素振りを見せる。 「君を……」 「君を?」 上目遣いで俺を見つめる美月が可愛くて可愛くて、たまらず、右腕を美月の背に回し、華奢なオンナの身体をぐっと引き寄せ、薄いピンクのルージュがひかれたクチビルに唇を重ねた。 あまりにも近すぎる美月の瞳から、驚きが見てとれる。 けっして厚い唇ではないのに、その柔らかさを唇に感じる。 このまま瞳を閉じて受け入れて欲しいと、目で訴えながら、舌を突き出し、美月の唇をチロチロと舐めだした。 「うぅ、うぅぅっ……だっ、だめっ! ダメです」 美月は唇から逃れ、顔をそむけたまま力強く言い、俺の胸を空いている両手で押して、俺の右腕から逃れた。 「ごめん……でも、この気持ちはどうしようもないんだ!」 と、負けずに言い返し、再び美月を抱きしめる。今度は片腕ではない、両腕をしっかりと背中にまわした。 抱きしめている手に力を込めた。 自分より十センチほど低い、美月の柔らかい乳房を胸の下に感じる。 押しつぶされた乳房の感触と鼻の先にあるオンナの甘いリンスの匂いに、肉棒がむくむくと疼きだし、一気に大きく硬くなり、美月の腹部を押す。 「社長、ダメです。冷静になって」 「ダメだよ。もう止まらないよ。感じてるだろう? 男の欲望を」 そう言いながら、背にある手を腰までさげ、女体を引き寄せ、肉棒を腹部に押し付ける。 「ダメっ、ダメです。やめてください」 美月が腕の中で俺から逃れようともがくが、欲情した男の力の前には虚しい抵抗だ。 「一度、一度だけでいいから、斉藤さん、いや、美月さん。君を、君の全てを見せてくれ」 「やっ、社長、落ち着いて、落ち着いてください」 「頼む、悪いようにはしないから、僕の夢を叶えさせてくれ」 腰にあった手を更に下げ、数え切れないほど視姦した小さなお尻に指を食い込ませ、無遠慮にその柔肉を揉みこんだ。 「やんっ、やだっ、お願い、お願いしますから、やめてください」 既に事は始まっている。美月の訴えなど、もう、耳に留めることなどではきない。完全に点火してしまった情欲の炎は精を吐き出すまで消えることは無い。 柔らかいお尻の肉を揉みこみながら、荒々しい息を美月のさらさらの髪から覗く赤く染まった耳へ吹きかける。 「ハァ、ハァ、ハァ……あぁっ、みつき、みつきぃ」 「社長、ダメですったら……あ、そう、そう。お客様、お客様がそろそろ来ちゃいますから」 「お客が来なければいいんだな。だったら大丈夫。客は来ないから、誰にも邪魔されないよ」 「え? そ、それは、どういうことですか?」 「あぁ、さっき、棚橋君が電話があって、急遽キャンセルになったから」 たぶん、後で嘘はばれるだろうが、せっかく、いい流れできている今、美月に余計な疑いをもたすことは得策ではない。 「だから、問題はないから、安心してもいいんだよ」 そう言って、柔らかいお尻から細い腰から手を移しチークダンスを踊るかのように、ソファを目指し歩を進めていく。 ソファの傍まで来た。 美月の腰からそっと手を離し、俯いたままの美月の顎を右手で軽く掴み、ぐいっとあげた。 「綺麗だ……」 と、囁き、もう一度、美しい部下の唇を奪おうとしたが、身体を解放され自由になった両手を俺の胸にあて、「いや」と小声を出して口付けを拒んだ。 「どうしてだ、客が来なければいいんだろ?」 「わたし、そんなこと言ってません。仕事じゃないなら帰ります」 「ダメだ、それは許されない」 後ずさりする美月の細腕をがっしりと掴み、力強く引っ張った。 「きゃっ」 小さく叫び、よろめき、接近した美月のからだを力強く抱きしめた。 「や、やめてください……手を離してください」 「手を離せば、帰るんだろう?」 「あたりまえじゃないですか。仕事じゃないんだから」 「……いや、これも仕事だ。なにしろ、社長が困っているんだ。困っている社長を助けるのが社員というものだろ」 「そんなの横暴です」 「いいじゃないか、一度だけ、一度だけでいいから、抱かせてくれよ。なっ、なっ」 そう言いながら、三人掛けのソファに美月を押し倒す。 「や、ダメです。そんなの無理です」 「好きだ、好きだから、この気持ちはどうしようも無いんだ。頼むよ。頼みを聞いてくれたら、何だってする。あ、そうだ、確か、家のローンが大変だって言ってたよね。だったら、僕が援助したっていい。だから、いいだろっ。優しくするし、一回だけだから」 「そんなこと言われても、困ります。お願い……お願いだから、好きなら、わたしのこと好きなら、やめてください」 「こんなに頼んでもダメかい?」 「ダメです」 社長である俺がこんなに必死に頼んでいるのに、頑なに拒みつづける美月が憎たらしくなってきた。可愛さ余って憎さ百倍、まさにそんな気持ちだ。 やはり、犯すしかない。犯しまくって、肉体に俺自身を刻み込むしかない。 そう思った瞬間、硬くなっているものがピクリと反応した。 「……そうか、だったら仕方がないな」 と、言ってソファに押し付けていた美月の手首を解放すると、美月は安堵の表情を浮かべ、口を開いた。 「よかった、いつもの優しい社長に戻って……。お気持ち、嬉しかったです。けれど、お受けできずにすみません。それと、このことは誰にも言いませんから」 美月に応えず、腰を浮かし、美月の身体から離れた。そして、ソファの傍に立ち上がり、横たわる美月を見下ろしながら、スーツの上着の不自然に膨らんでいる右ポケットに右手をつっこんだ。 「よかった……」 ソファの前で立ち上がり美月を見下ろす俺に、彼女は何事もなかったかのような笑顔を浮かべ、ゆっくりと半身を起こし、座面に手をつき立ち上がった。 その瞬間、スリムな肉体をどん、と突き飛ばした。美月が小さく叫び、ソファに尻餅をつく。すかさず、美月に飛びかかり、その肉体を反転させ、腰にのっかった。 「や、やめてっ!」 美月の叫び声が、六畳ほどの社長室に反響する。 左手で左腕を引き寄せ、その手首に手錠をかけた。つづけて右手を引き寄せ、腰の位置で手錠をかける。拘束するなら、後ろ手に決めていた。前で拘束しても、ある程度の自由はきくが、後ろならば、完全に自由を奪うことができるからだ。乳房を弄ったって、乳首に吸い付いたって、自由な手で拒否されることはない。 美月が、拒否の言葉を出しながら、拘束された腕を動かしているが、わずかしか動かない。 完璧だ。
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