4.

「社長、お先に失礼します」
「あぁ、お疲れさん」
 水曜日の午後八時十五分を過ぎ、経理の山崎が退社した。これで、この会社に一人だけになった。ようやく夕方届いたアダルトグッズの入った荷物を開けることができる。
 いや、荷物を開こうと思えば、およそ六畳のこぢんまりとした社長室へ持ち込めばできた。しかし、社長室の扉は俺が不在のとき、身内や友人、大切なお客様が来た時以外は開いている。もちろん、閉じようと思えばできるのだが、社長と社員との壁をつくらない風通しのよいオープンな会社とにするという経営方針を決めたのは俺だから、そうするわけにいかない。
 だからこそ、一人きりになるのが待ち遠しかった。
 早速、机の横の床からダンボールを取り、机においた。
 荷物を受け取り持ってきてくれたのが美月でなかったのが残念だが、ずっと、欲しかったものを買ってもらった子供のように心が躍っている。
 逸る気持ちを抑えながら、段ボールに貼られたガムテープを剥がして箱を開き透明のプラスチックケースにはいった大人のオモチャを取り出し、一つずつ机の上に並べた。
 ピンク色のバイブレーター、クリアブルーのローター、そして、白いファーのついた手錠に黒いボンデージテープを眺めているだけで、肉棒が疼きだす。
 最初にバイブレーターをケースから出し、備え付けの単四電池をいれ、二つあるうちの一つのスイッチをスライドさせた。
 ヴィーンともの凄い音を立てて肉棒を模造した根元から伸びる小さな突起部の先にある透明な髭のようなものが小刻みに震えた。
 すごいな……。これなら、ローターは必要なかったかもしれない。
 もう一つのスイッチをスライドさせると、太い幹の中央部がくねくねと回転するとともに、パール上の粒がぎっしりと詰ったそこ根元の部分もぐるぐるとまわりだした。
 このいやしらい動きによって膣の内部に入り口、そしてクリトリスの三箇所を同時に刺激されるのだ。これは美月に限らず女性にとってはたまらないだろう。
 まだ見ぬ美月の膣肉にこいつを突き刺した時、一体どんな反応をするのか? 
 どんな声で鳴くのか? そんな美月を想像すると、オモチャを目にした時から、はちきれんばかりに勃起している肉棒がピクッと震えた。
 自慰を止めてから三日間しか経っていなのに、肉棒を扱きたい強い誘惑が襲ってくる。今、ここには俺しかいない。ここで美月を思いながら何度もしたようにオナニーしたってかまわない。
 自然とスラックス越しの硬い肉棒に手が伸びる。
「くそぉぉぉっ! だめだっ! 我慢、我慢だぞ」
 と、声を出し自分に言い聞かせ肉棒に伸びた手を引っ込めた。
 今日は水曜日、木、金、土、今を含めて後三日間我慢すれば、大きな快楽が待っている。そう、一発目は美月の整った顔にべっとりと張り付くくらいの濃い大量の精液をかけるんだ。だから、今、出すわけにはいかない。
 うなりあげいやらしく蠢く、バイブレーターのスイッチを切り強烈に湧き上がる性欲を静めるために深呼吸をくりかえすが、勃起は一向に静まる気配を見せない。
「ふぅっ。まいったな……三日でこれだ」
 俺は自身の性欲の強さに苦笑しながら、残りのアダルトグッズを開封し、唯一鍵のある最下段の引き出しの中にそれらをしまい会社を後にした。

 そして、更に計画を煮詰め、美月のあられもない姿を想像し湧き上がる性欲と戦いながら、ついに決行日である土曜日がきた。

 薄暗い事務所にはいり、蛍光灯をつけ椅子に腰掛け、壁掛け時計を見た。七時十六分、美月には正午までに出勤してほしいと伝えてあるので、彼女に会えるのは四時間ほど先だ。
 早く着きすぎたとは思うが、今朝目覚めてから、ついに待ちに待った美月を犯す日が来たと思うと、いてもたってもいられなくなり、日課である目覚めのコーヒーさえ飲まずに家を飛び出した。
 せっかく入れたコーヒーに手をつけずに出かける俺を見て妻が不服そうな顔をしたのに気づいたが、妻は何も訊ねてこなかった。まぁ、おれ自身のことに関心がないのは今に始まったことではない。彼女は息子だけに関心があるのだから。と、今まで不服に思っていたのだが、今日の場合は逆にその方がよいと思った。面倒な言い訳をしなくてもよいからだ。
 通勤途中コンビニで買ってきたブラックの缶コーヒーで喉を潤し、ラークマイルドを咥えた。百円ライターで炎をともし、紫煙を漂わせながら、事務所をゆっくりと見回す。
 最初、この事務所を美月レイプ劇場の舞台にと計画を立てていた。しかし、計画を煮詰めるにしたがって、この舞台は不都合な点が多いということに気づき社長室を舞台にすることに決めた。
 なにしろ、事務所では、日中必ずブラインドを開いておくので、外から覗かれる心配もあるし、美月の抵抗が激しい場合、デスクの上にあるパソコンや各種資料などが散乱する恐れもある。資料などは後で元に戻せば問題はないかもしれないが、パソコンに関しては床に落ちてしまったらおしまいだ。もろちん大切なデータのバックアップはとってあるから、業務上にはさほど大きな問題は生じないが、なぜ、壊れてしまったのか、と嘘の説明を他の社員にするのがわずらわしい。なるべくならば、事務所に不審な点がひとつもない状態で、月曜日を迎えたい。
 またそれだけではない。
 俺は美月に襲い掛かるところから、果てるまでを映像に記録するつもりだ。もちろん、口止めのためもあるが、それよりも二度とないであろう凄まじい体験を残しておきたかった。
 そのためにはビデオカメラを固定する必要がある。
 これも、事務所より社長室の方が都合がよい。なにしろ、固定したら一方向しか録画できないので、広い事務所より撮影範囲の狭い社長室の方が性行為をレンズにおさめやすい。
 そんな理由で舞台を社長室に変更した。
「さてと、そろそろはじめるか」
 ガラスの灰皿に煙草を揉み消し、家から持ってきた運動会や旅行でしか使わないビデオカメラと三脚を持って美月を犯す舞台となる社長室にはいった。
 
 ビデオカメラの液晶モニターに美月と俺が交わることであろうソファが映るようにビデオカメラの液晶モニターを見ながらカメラの位置を調整していく。
(こんなところでいいかな……)
 位置が決まりカメラの電源を落とした。
 次に机の引き出しから、拘束具以外のアダルトグッズをとり、センターテーブルの下の棚におき、その上に雑誌を被せ隠した。もちろん美月を悦ばせるものは手元にあった方が都合がいいからだ。
 そして、最後に固定したビデオでは撮影できない美月の痴態を記録するためにデジタルカメラをセンターテーブルの上においた。
「ふぅっ」
 舞台準備をおえ時計を見た。
 構想ができていたので、思ったより準備は早く終わった。まだ一時間も経っていない。 美月が来るまで三時間近くもある。仕事でもすればあっという間に時間は過ぎるのだろうが、頭の中は美月で一杯なのでそんな気分には到底なれない。
 ソファに寝転び読みかけの小説のつづきを読み始めたが、やはり集中できない。
 本を閉じてテーブルへ置き、目を瞑って思う。
 それにしても月曜日から金曜日までの禁欲生活は辛かった。アルコールを入れて酔った時以外はいつも二度のオナニーをしてから床に就くというパターンを十年以上続けた俺にとっては五日間も精液を放たなかったことは奇跡に近い。これも、美月とセックスするという大きな目標があったからだろう。
 そういえば、大分前にマラソン選手の誰かがメダルをとった後のインタビューで『自分で自分を褒めてやりたい』と言うようなことを言っていたな。
 本当、自分を褒めてやりたいよ。
 いや、実際にはまだスタート地点といったところだからまだ褒めるに早いだろう。決行予定は午後一時を過ぎた頃、そこから定時退社までおよそ四時間の長い長いマラソンを終え、美月を従順な牝奴隷にさせることに成功したときに自分を褒めるが正解だ。
 

(んっ?)
 どのくらいの時間が過ぎたのだろう。事務所の方から人の気配がし目を覚ました。右手で目を擦って時計を見ると十一時五十分を過ぎていた。
 いつの間にか、熟睡していたようだ。
 昨夜、いや正確には今日だが、今日のことを思い興奮してなかなか寝付けなかった。
 ある情報によると普通にセックスするだけで六十Calのエネルギーを消費するという。まして、今回の場合はレイプ、すなわち普通のセックスではないので、かなりのエネルギーを消費することになるだろう。
 このまま夜が明けてしまったら体力的に不安だ。少しでも多く寝て体力を蓄えておきたい。
 美月のことを考えないように、ひつじの数をかぞえたりもしたが、一向に睡魔がやってこない。
 枕元においてある携帯電話の背面ディスプレイを見ると、深夜一時を過ぎていた。
 このままではまずいと、ジャックダニエルを一杯寝酒にし、布団にはいったのが、一時半。それでようやく眠れ、目覚めたのが朝六時。
 僅か、四時間の睡眠だ。それで、三時間近くも寝入ってしまったのだろう。
 半身を起こしドアに視線を向けながら耳を澄ますと、ガサッと人が動く音がする。もちろん美月に違いない。ついに舞台のヒロインがやってきた。
(美月……)
 急速にどす黒い靄のようなものが脳裏を支配していく。鎮まっていた肉棒がムクムクと膨らんでいくのがわかった。閉じられた扉を開き檻の中に自らはいってきた極上の牝に一気に襲い掛かりたいとの強烈な欲望が湧き上がってきた。
 しかし、まだダメだ! やはり、昼食を摂った後だ。
 悶々としている今は食欲よりも性欲の方が強いが、性欲を満たしたあとには必ず食がわいてくるはずだ。四時間ほどの貴重な時間全てを美月だけに向けたい。
 ぎらつく欲望を必死に抑制し、ドアの前にたった。ドアノブに触れた手が震えている。
 落ち着け、落ち着くんだ。ここまで我慢できたんだ、あと少しじゃないか。心のうちでそう自身に言い聞かせ、ついにドアを開いた。
 椅子に座ったままの美月と視線が交差した。獲物を前にし、押さえ込んだ情欲が一気に湧き上がる。
「おはようございます」
 美月は何の疑いもなくいつものように輝く笑顔を浮かべた。
「あ、ああ……おはよう」
 俺はそんな美月に黒い欲望を悟られないよう慎重に声を出した。
 美月がじっと見つめている。いつも挨拶の後に話す次の言葉を待っているようだが、緊張と興奮の渦に覆われているので、言葉すら浮かばない。
「社長、今日は頑張ってくださいね」
 美月は笑顔を浮かべ言葉をだした。
 心が癒される笑顔とはこのことを言うのだろう。この天女のような微笑を浮かべる美月が妻だったらと何度も思った。この最高の笑顔を俺だけに見せてくれるならば必死に掴み取った財産の全てを投げ打ってでもいいとさえ思った。
 しかし、今は心のやすらぎよりも肉体の快楽への欲求の方が強い。笑顔よりもいやらしい牝の顔を見たい。
「あぁ、ありがとう。頑張らなければだね……じゃぁ、食事してくるね」
 と、低く言い、美月から逃げるように会社から出て、車にのった。

 エンジンをかけたものの、どこで昼食をとるのか決めていない。というよりも、胃が重たく食がわかない。しかし、強引にでもエネルギーを溜めておかなければならない。
 食堂や喫茶店、レストランなどの騒々しいところでは食べる気にはなれないから、弁当屋か、コンビニ、スーパー……。やはり、コンビニにしようと思い車を発進させた。

 僅かな距離のコンビニの駐車場でミックスサンドイッチを三枚、ペットボトルのお茶の力を借りて、無理やり胃に流し込んだ。
 そして、会社の駐車場に戻り、エンジンを切った。十二時四十分、犯すと決めた時間まで時は一刻一刻と迫っている。
 濃紺のスラックスを突き破らんばかりにパンパンに膨らんだ肉棒が根元からピクッビクッと力強く震えている。
 あの建物の中に獲物がいる。
(もぉ、限界だ……)
 車から降り優しくドア閉め、会社の玄関に向かった。
 ガラスのドアをそっと開き、慎重に閉めた。透明な強化ガラスの向こう側に数羽のスズメがアスファルトの上で何かを突いているのが見える。近所の子供達が落としたスナック菓子のカスでもつまんでいるのだろう。なんて、平和な光景なんだろう。
 そんなのどかな空気が流れる外とは違って、俺の周りにはどんよりとした空気が渦巻いている。
 暗いやつだ、と自身を笑ったが、もぉ、後には戻れない。
 アルコール中毒者のように震える指で金属の鍵をつまみ横にまわした。
 カチャリ。
 外から開ける鍵は俺と明後日、月曜日の鍵当番である美月しか持っていないので、これで誰にも邪魔されることはなく、安心して事を進めることができる。
「ふうっっ」
 大きく息を吐き、体を反転し、十歩先のドアに向かって歩を進めた。
 心臓が漠々と脈打っている。ドアに迫るに連れ、鼓動のリズムが速さを増して行く。
 ついにドアの前に来た。
 身体中が熱い。額に汗が浮かんでいるのがわかる。右手の甲で汗を拭ってドアの上部にある小窓から、事務所の中を窺った。
 蛍光灯の消された薄暗い室内の中、美月はデスクの上で細腕に頬を預け瞳を閉じている。夢の中にいるのか、起きているのかはわからない。
 ドアノブに手をかけた。相変わらずその手は震えている。
(落ち着け、落ち着くんだ……)
 そう自身に言い聞かせながら、美月のいる事務所のドアを開いた。
 ガチャリ。
 そっとドアを開いたつもりだが、美月はビクッと身体を震わせ上半身を起こした。
「社長、すみません。わたし寝ていたみたい……」
「いや、いいんだよ。昼休みだから何をしていても君の自由だから……」
 声に震えが混ざっていたが、恥ずかしさなどかき消すくらい情欲の波は高まっている。
 駐車場についてからずっと勃ちっぱなしの肉棒がピクピクと震えている。美月が下半身に視点をずらせば、間違いなく勃起していることに気づくほど、スラックスの前部は盛り上がっている。
 いつもならば、スラックスのポケットに手を突っ込んだりするなどして、誤魔化すのだがだが、もぉ隠すつもりはない。美月が勃起に気づき騒いだら、一気に襲い掛かるだけだ。
 そう思ったが、美月は勃起に気づくことなく口を開いた。
「あ、社長、これから眠気覚ましにコーヒー入れますけど、社長もいかがですか?」
 一度、社長室に戻り気を落ち着けてから、美月を社長室に誘い込もうと思っていたところである。誘い出す手間が省け、ちょうどいい。
「あぁ、頼むよ。悪いけど部屋にもってきてくれるか」
「はい」
 美月が満面の笑顔を見せて椅子から立ち上がり俺の横を通り過ぎ廊下へ出ていった。
「ふぅ」
 美月が出でいった後、全身からどっと力が抜けていくのがわかった。それほど、緊迫していたのだ。
 しかし、こうして立ち止まってはいられない。美月がコーヒーを運んでくるまでに、ひとつやっておかなければならないことがある。
 社長室の鍵を外しドアを開き、いつものように社長室のドアを開放したまま、一直線にデスクへ向かった。
 そして、椅子に腰掛け、引き出しの中から手錠と拘束テープをとり背広のポケットにしのばせた。
 これで、全ての準備は終わった、後はヒロインの登場を待つだけだ。
 胸元で腕を組みながらドアの向こう側に見える事務所をじっと見つめた。
 早く来い! 僅か数分しか経っていなのに美しい人妻が現れるのが待ち遠しい。
 獲物がトラップにかかるのをじっと待つハンターのような気分とはこのようなものなのかなと思った。
 二人だけの静かな社内、耳を澄まさなくても、カチャ、カチャとカップをトレーに乗っける音が聞こえた。         
 コツコツという足音と共に芳しいコーヒーの香りを漂ってきた。足音が大きくなってくる共にコーヒーの匂いも近づいてくる。
 そして、お盆を両手に持った美月が視界にはいった。
「失礼します」
 美月が軽く会釈し、部屋に入ってきた。ついに極上の獲物が檻の中にはいった。最大限に膨らんだ股間のものが力強く脈打ちだした。




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作者しょうたさんのHP『官能文書わーるど』


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作品数は小説だけでも700作品を超え、まさに官能の巨城。
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