第4話
それから二人は、外出時間に頻繁に会う様になった。
香織は、毎日2度目の外出時間を午後5時に決めていた。
晃一の研修時間が5時までだからだ。
晃一と過ごしている時間は香織にとって短く感じられた。
自分の中で、晃一の存在が日々大きくなっていくのがわかった。
それは、晃一も同じだった。
「香織、明日から宿直の研修があるんだ」
「えっ?晃一が宿直?」
「うん、1週間だけだけど」
「……」
既に二人は名前で呼び合う程親密になっていたが、香織は戸惑った。
閉鎖病棟の消灯時間は午後9時だが、深夜1時頃に宿直の看護師が見回りに来る。
精神科の病棟には、前途を悲観して自殺する患者が少なくない。
就寝中の患者の顔にライトを照らし、異常がないか確かめに来るのだ。
その宿直の研修を晃一がするというのだ。
「気にしなくてもいいよ」
「え~、気になるよ。だって晃一が来るんでしょ?」
「うん。でも香織にはライトを照らさないから安心して」
「私、きっと眠れない。晃一が来るまで眠らずに待ってる」
二人は顔を見合わせて笑った。
翌日の朝、大野医師が回診にやってきた。
大野医師の後ろには、晃一の姿があった。
「青山さん、ちゃんと食事を摂っていますか?」
「はい、体重も3キロ程増えました」
「あ、そお~、頑張ったね」
「これからも頑張ります!」
「おぉ、青山さんは明るくなったね~」
確かに香織は明るくなった。
これまでの香織の人生は、不安の連続だった。
人は心の支えがあると不安が解消される。
今の香織にとって大野医師の後ろにいる青年が心の支えになっている事はいうまでもなかった。
「今日から1週間、江本君が宿直だから、何かあったら相談に乗ってもらって下さい」
「僕でよかったら何なりと……」
香織は吹き出しそうになった。
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