第3話

 10日位経ったある日、会社に出勤すると、携帯が鳴った。
 -小夜子かな?-
 あの日以来、健志は小夜子とは会っていない。
 携帯を見ると、俊介だった。
 「おはよう、仕事中ごめん」(俊介)
 「何かあったのか?」(健志)
 「いや違う。今晩、付き合ってくれないか。相談したい事がある」(俊介)
 「相談?」(健志)
 -何だろう-
 「わかった。何処にする? “舞”でも行こうか?」(健志)
 「舞ではまずい、他がいい」(俊介)

 7時に健志の会社の近くの焼き鳥屋で待ち合わせた。
 「お前が相談なんて珍しいな」(健志)
 「ううん..」(俊介)
 「仕事で何かあったのか?」(健志)
 「俺、会社辞めた」(俊介)
 「え! どういう事?」(健志)
 「あぁ、営業成績の事で上司と揉めて、喧嘩して.. 要するにクビさ」(俊介)
 俊介は、OA機器の販売会社で営業をしている。
 「どうするんだ、これから?」(健志)
 「ゆっくり考えるよ」(俊介)
 健志は、以前から仕事の悩みを俊介から聞かされていた。
 「今の俺は、何もかもうまくいかないんだ」(俊介)
 「他に何かあるのか?」(健志)
 「あぁ、」(俊介)
 「.....」
 「実は、小夜ちゃんの事なんだ」(俊介)
 「.....」
 「あっ、覚えてるだろう? 舞で働いてる女の子」(俊介)
 「あぁ、あの子ね..」(健志)
 健志は、小夜子を思い出すように言った。
 -いったい何があったんだろう-
 「俺、あの子に惚れてて..」(俊介)
 「.....」
 「思い切って、プロポーズしたんだ」(俊介)
 「えっ、」
 健志の身体は固まった。
 「それでどうだったの?返事は?」(健志)
 「...断られた」(俊介)
 「理由は?」(健志)
 「好きな男がいるらしい..」(俊介)
 「.....」
 俊介の目には微かに光る物があった。
 「プロポーズしたのは、いつ頃の事?」(健志)
 「3日前..」(俊介)
 「それまで、どんな関係だったの?」(健志)
 健志は、恐る恐る聞いた。
 「どんな関係って?」(俊介)
 「例えば、肉体関係があったとか..」(健志)
 「何も無い。何度か食事には行ったけど..」(俊介)
 「.....」
 健志は、内心ほっとした。
 俊介から小夜子との経緯を聞くと、前から小夜子にアプローチをしていたらしい。
 そう言えば、小夜子は俊介の話をすると無言になってしまう。
 先日、ホテルに行った帰りもそうだった。
 「お前には、結婚願望が無いと思っていた」(健志)
 「小夜ちゃんと出会う前はそうだった」(俊介)
 俊介は話を続けた。
 「あの子、生まれが北海道で、幼い頃に両親は離婚したんだ。そして、一人娘だっ
た彼女は母親に育てられたが、その母親も苦労の連続で、彼女が19歳の時に病気で
亡くなっている。そして、彼女の叔母にあたる“舞”のママを尋ねて北海道からこの
町に来たらしい」
 「“舞”のママが叔母?」(健志)
 「ああ、母親の妹らしい」(俊介)
 「19歳から29歳まで、北海道で何をしてたんだろう?」(健志)
 「えっ!何で彼女が29歳って知ってるの?」(俊介)
 「あ、いや、、実は一度だけあれから店に行ったんだ。その時聞いた..」(健志
 健志はちょっと焦った。
 「ああ、そうなのか..」(俊介)
 「それで?」(健志)
 健志は話をそらした。
 「彼女が19歳から29歳までの10年間、北海道で何をしていたかは、分からな
い。でも、ママから聞いた話だけど、勤務先の社長の息子からのアプローチを断った
ら、社長と息子から嫌がらせを受けて、会社を辞めたらしい」(俊介)
 -いろいろ苦労があったんだな-
 「俺、彼女と同じ北海道出身で、境遇も似てるから、つい..」(俊介)
 -そう言えば、俊介は北海道出身で、幼い頃に秋田に越して来たんだ-
 健志は思い出した。
 「俺、不思議なんだ。彼女の好きな男って誰だろう? ママにも聞いてみたけど、
分からないらしい..」(俊介)
 「.....」
 -この事だけは絶対に言えない-
 結局俊介は、“相談”というか“愚痴”だった。
 会社をクビになり、好きな女性にふられた俊介が、健志は気の毒になった。
 -俺が小夜子を誘わなければ、俊介は小夜子とうまくいってたかもしれない-
 健志は、罪悪感があった。

 「健志さん?小夜子です」
 俊介と会って、3日程経ったある日、小夜子から電話があった。
 「健志さんから連絡がないので..今、お話大丈夫ですか?」(小夜子)
 「あぁ、」
 健志は、得意先に車で移動中だった。
 「また、お会い出来ますか?」(小夜子)
 「勿論さ」(健志)
 「嬉しい! 私、ママから〇〇のディナーショーのチケット2枚貰ったんです!
今週の土曜日なんですけど、一緒にいかがですか?」(小夜子)
 「.....」
 健志は、一瞬言葉が出なかった。
 -誰かに見られないだろうか-
 「どうしました?だめですか?」(小夜子)
 「そんな事はないよ。行こう!」(健志)

 小夜子は、相変わらず美しかった。
 健志は、ショーよりも小夜子の楽しそうな顔を見ている方が長かった。
 -俊介、すまない-
 「健志さん、私楽しいわ!」
 「僕も楽しい..」
 小夜子は、目が潤んでいた。
 健志は、小夜子に夢中になっていく自分が怖くなった。
 -これから先、どうなるんだろう。でも、小夜子を離したくない-
 健志は、妻の美佐江の事など、頭に無かった。
 -小夜子は俺のものだ-

 ディナーショーが終わり、外に出た。
 小夜子は、健志の腕を取り寄り添った。
 誰から見ても、幸せな恋人同士に見えた。
 「小夜ちゃん、これからどうする?」
 「また、2人だけになりたいわ」
 「僕もだ」
 2人は、歩いてラブホテルに向かった。




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