後編(5)

「…こう、ほら…乳も尻と一緒で、でかけりゃいいってもんじゃねぇしさ?
 掴んだ時に掌に納まるくらいがベストらしいし、でるとこ出てなくても勝負には関係ねぇし」

思わずまくし立てる言葉は状況を悪化させたりしているが、もはや他の二人は下手に口をだしはしない。『触らぬ主に祟りなし』だ。

「だ、だからさ…」
「いらっしゃい。相手、してあげますから」

髪をかきあげながら微笑む妖子は、それはそれは美しかった。だが冷汗も悪寒も止まりはしない。

「おっ、俺……晩飯の支度あるからっ!」
「いいからいらっしゃいな」

凍り付きそうな笑顔。感情の篭らない猫撫で声。
他の二人の後ずさる中、鬼人の目には若干涙が滲んでいたという。

その夜、絶対に胸の話題には金輪際触れはしないと、改めて誓う怪と魔御であった。


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「…頭に血がのぼるといけやせんねぇ。つい加減がきかなくって」

白いドアの部屋から聞こえる妖子の声は、いつも通りの悪びれない暢気な口調であった。

「…加減…とかの問題かよ…」

床にぐったりと横たわる鬼人の体には、大量の鞭傷が見える。
床には蝋燭の破片が散らばっていて、かけらが躯に残っているのを見ると、蝋燭を垂らした後固まった物を鞭で払い落としたのだろう。
躯中のピアスの箇所は真っ赤に腫れ、先程まで重りを下げられたりきつく捻られたりしていたのがよく解る。
今日に至っては、胸と股間のピアスを天井の滑車から吊るし、その三箇所だけで体重を支えさせながら鞭でなぶったのである。

「よかったっしょ?」
「否定しないけどすげぇ痛ぇ」

やっと動けるようになった体はまだまだ鈍く重く、寝返るだけで激痛が走るようだ。
猫のように体を丸めようとする鬼人の耳のピアスを引っ張ってやると、ビクンッと震える。

「…敏感」
「…もう…しんどい…。少しだけ、やすまして…」

泣きそうな声で訴えてくる子猫が可愛くて、妖子は意地悪く微笑む。

「八つ当たりのお詫びに、今度は鬼人が好きな感じで虐めて上げようかと思ったんすけど?」

そういえば、鬼人は頬を膨らませて睨む。だが不満だけではなく、どこか拗ねた子供のようだ。

「妖子は…意地悪だ…」
「嫌ならお前の寝床にいきなさい」

立ち上がり、あっさり離れようとすると、鬼人は嫌々として服を掴んでくる。

「…ご主人…様ァ…」

プレイの時だけ呼ばれる呼び方。いつもとのギャップが堪らない。

「…可愛い子猫だこと。ふふ…お前の好きな遊びをしてあげるから、玩具を持ってらっしゃい」

そう言って撫でると、鬼人は嬉しそうに笑って四つん這いのまま、棚に向かう。
上から三段目。中に入っている箱の持ち手を、一生懸命口にくわえようとしている。
手を使わないでくわえるのは中々難しいもので、舌も使ってもとうとはするが力のかけかたを間違うと持ち上げられない。

だがすっかり慣れた鬼人は、数秒で持ち上げて箱をくわえてくる。


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