後編(2)

「あぅ…」
「私は貴女とやり合うつもりはない。けど、魔王陛下の御意向は叶えたい。…力ずくなんて野蛮な真似はしないから、安心なさって?」

イリアの表情には殆ど感情がなく、そう言って再び壁の方を向く。

「…あたしは籠には戻らない」
「戻らないのではない。貴女は籠から飛び立ちだってしていない。…陛下の掌の上で、遊んでいるだけよ」

イリアの言葉に、妖子は言葉がつまる。唇を噛む仕種に気付いているのかいないのか、イリアはダリアとともに消えていく。

「次までに、いいお返事を待っているわ。…私だって、可愛い妹を傷つけたくありませんもの」

姿を消しきった二人を見送り、妖子は広間を出ていく。
その表情は、前髪に隠れて見えなかった。


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イリアは、魔御とは少し違う青をしていた。
深海のような魔御の髪や瞳に比べ、明るみを増した珊瑚礁の並ぶ、海のような色。
しかし瞳は、もはや海底のような藍。
蒼白した顔に表情はなく、青と白で出来ているように見えた。

神話の、人魚のような声。
彼女は妖子を、妹とよんだ。

(…厭味も含んでんだろうな…)

ダリアの憎悪とよく似ているのに、まったく違う感情を彼女は持っている。
(…まさか…)

彼女を持ち出すということは、本気で自分を籠に戻すつもりなのだろうか。
飛び方を知らない鳥は、何となしに籠から飛びだし、見知らぬ世界を飛び回った。けど世界と思っていた世界は、せいぜい箱庭の中だったとでもいいのか。

『陛下の掌の中にいる』

イリアの言葉が頭を過ぎる。




嫌だ




籠には戻りたくない。




「ッ…アスラ…!」




あの籠に戻れば、貴方を思い出す。思い出してはいけないのに。
こんなにも愛しい人。




涙が頬を伝い、体はいつの間にか座り込んでいく。




こんな気持ち、いらない。




いらないのに。




声も上げず、妖子は泣いた。




あの籠を飛び出してから初めて、泣いた。


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……地下室というのに相応しい暗がりは,誰しも不安を持つ。音が少し響く室内には,二人の女がいる。
少女は両腕を後ろ手に縛られ、足首を長い棒の端と端にくくられている。その状態で棒を引き上げられれば、華奢な脚はV字型に持ち上げられる。

「い…いやっ…」

少女--ダリアは怯えたように首を横にふる。その側に立つマリンブルーの髪の女は、表情も変えずに見下ろしている。

「時期尚早とは思わなかったの? 貴女のお陰で私の計画はおじゃんだわ」
「ヒンッ…!」

イリアの指が、股間にぬるぬるとした何かを塗り付けてくる。クリ○リスから、アナルまで丹念に塗り、穴の中まで塗っていく。


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