後編(1)

(…なんで…!)

なんで、自分じゃなかったのだろう。
なんで、もっと愛してといえないのだろう。
なんで、なんで…なんで。

涙は知らぬうちに零れ、いつの間にか鳴咽に変わる。
愛して欲しいだけだった。
あの人に、お前が1番だよと言ってもらいたかった。
嘘でも、いいから。

「…父様っ…!」
苦しくて堪らない。
彼はマリアを特別に作ったのだ。
己の真の『愛』玩具として。

己の性欲を慰める惨めな玩具とは違う。愛する為の、心を満たす為の愛しき物。
性欲を満たす哀れな道具に過ぎない自分。
愛される為に産まれたマリア。

『アイツにとっては、ただの道具なんすよ。あんたも…あたしも』

(そんなことっ…!)

解っていても、止まらない。




愛してる




愛してる、愛してる




誰よりも彼を愛してる




無条件にあの人を愛するように造られた、哀玩具。




愛してる




哀してる。


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「お目覚めのようで」

聞こえた声に、ダリアは顔をあげる。もはや力が入らないのか動きは緩慢だ。
泣き疲れた目は真っ赤にはれ、腫れぼったい瞼は重々しくあがる。

「…あたしを…どうするつもり…?」

かすれた声で、それでもまだ闘志の失せないダリアの声に、妖子は苦笑いした。

「アンタが何もしないで帰ってくれるなら…あたしももう何もしやせん」
「…嫌よ。あたしは…諦めない…」

威嚇するように睨むダリアの姿は、もはや凄惨で。妖子は困ったように首をかしげる。

「強情な人だ…」

妖子が近づいてくる。逃げないと。またあれをされたら、今度こそ堪えられない。

「ひ…ぃ、や…」
「壊れても…しりやせんよ?」

体がうまく動かず、逃げられない。妖子が一歩一歩、近付いてくる。

(もうっ…!)

触れられる。そう思った矢先だった。

「それくらいにしてやってちょうだい」

離れた場所から聞こえた声に、二人は気付いた。
ダリアは振り返り、妖子はゆっくりと顔を起こして見つめる。

何もない壁が滲み、そこに女が現れた。真っ青な髪を高く結い上げ、ギリシア神話の女神のようなドレスを纏った、美しい女。

「い…イリア姉さん…っ」

驚愕するダリアをよそに、イリアと呼ばれた女は妖子を見つめる。

「…久しぶりね。マリア。…いえ、今は妖子さんと呼ぶべきかしら?」
「呼び捨てで結構。お迎えすか? 次から次へと」

その言葉に、イリアは首を左右にふる。

「貴女を呼びにきたわけじゃない。その子を引き取りにきたの」

彼女は歩み寄る、というより床を滑るようにこちらにやってくる。

「迷惑をかけたようね。けど、可愛い妹をみすみす見捨てられないもの。…足手まといを持った状態で貴女とやり合う程、私は愚かではないわ」

呆然としているダリアの腕を、イリアが引き上げて立たせる。


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