後編(2) 携帯の画面の文字に、陽菜は微笑み。 「可哀相なナツ…。海斗さんがクリスマス、過ごしてくれなかったのね」 わかる。魚月は、海斗とクリスマスを過ごしたくて即答しなかった。 そして何気ないいつものメール。海斗に予定が入ったのに違いない。だがそれでいい。 「大丈夫よナツ。もう海斗さんのことで、悩まずに済むようになるわ」 足元で、バイブからの快感に悶える瑠璃の頭を踏み付けながら、陽菜は微笑む。 「…だって、私のものになるんだもの」 少女は悪魔に魂を、親友を売った。 そして彼女は、魔女になった。 *--- あれから数日。 海斗とのことでやむと思っていたオナニー癖は、翌日には復活していた。 海斗相手なのか、ただのやけだったのか、寧ろ前よりも貪欲に体が快楽を求めるようになった。 感情は満たされず、ただボォッとすることも多くなった。 けれどそれを、魚月は表にはださなかった。気付かれたくなかった。こんな浅ましい自分を。 そして今日は、クリスマスイヴの朝。 「いってきまーす!」 鞄一つに、ラフな少年のような姿の魚月が自転車に飛び乗る。 いつも通りの笑顔に、心配するような部分は微塵もない。ゆうべは荷物の準備もしたが、パーティーの準備も手伝った。 これでいい。 そう自分に言い聞かせる。始めから叶わない恋だった。従兄弟の、それも十歳近く歳の離れた人を好きになったってダメなのだ。 諦めなくてはいけない。ふっ切らなくては。 きっと陽菜とのイヴは楽しいものになる。初めて親友と思えるような子に出会ったのだから。 自転車で坂道を走りながら、魚月は深呼吸して気分を一新させた。 魚月は気付いていなかったのだ。 これから自分の身に起こることも、誰よりも信じていた親友が、自分をどのように思っていたのかも…。 変わらない日常。それが当たり前だと思っていた。 だがその日常が壊れる時、少女がちっぽけだと思っていた世界が、音を立てて崩れてしまうということを、彼女は気付いていなかったのである。 *--- 「メリークリスマス!」 その夜。魚月は陽菜と、陽菜の姉の瑠璃といた。 瑠璃と陽菜が作った料理を食べながら、運ばれて来たケーキにはしゃぐ。甘めのシャンメリーを飲みながら、最近のドラマの話や何気ない日常会話を進める。 クラッカーを鳴らし、三人で飾り付けたツリーのライトを点す。 楽しいクリスマス。 サンタクロースはもう信じていないけど、明日の朝プレゼントを開けあおうと、未開封のままだ。 瑠璃と陽菜がいつもより少し口数が多い気がするのは、楽しいからだろう。 そう。楽しい夜。 けれどこれが、最後の夜だった。 *--- 「んっ…」 いつの間にか眠ってしまったらしく、魚月は体を起こそうとする。 だが、横たわった体はどうも様子がおかしい。寒くはないがスースーする。まるで服を着ていないかのようだ。 「えっ…!?」 違う。 本当に着ていないのだ。 身じろいだ体が上手く動かず、よく見れば四肢がベッドの柱に縛りつけられているではないか。その紐以外は体には何もない。 「な…んで…?」 まさか誘拐? いや、ここは陽菜の部屋だ。 ということは強盗か何かが入って…。 そういえば陽菜も瑠璃もいない。まさか捕まったのでは。 (どうしよ…誰か…海ちゃん助けて…!) そう願った矢先、ドアの開く音がする。 誰か入ってきた。まさか犯人か…。 前頁/次頁 |
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