前編(8)

妖子自身、少々反省しているのだ。三人共同じくらい可愛いペットだし、平等に相手してやりたい。
幸い自分に精力など無縁だから、本来ならずっと構っていてやりたい。

が、正直妖子は相当鈍感だという自覚がある。現に、今回はそれが原因で鬼人が家出をしたわけで。

「…あぃつらなんか、知らなぃ…あゃこが、イィなら…」
「んーダメ~」

苦笑し、妖子は鬼人の頭を軽く小突く。
そうすると鬼人は、お預けを喰らったようにしゅんとする。だが奉仕は辞めたくないのか、また脚を舐め出す。
やはり、主を呼び捨てにするという行為が、優越感を持たせていたのだろう。

「お仕置きが終わったら、戻してもいいすけど」
「んむ…ふぁ、い…」

幸せそうに微笑む鬼人の口端からは、舐めているせいで飲み込みきれなかった唾液が伝っている。
今にも元の姿に戻るんじゃないかと、妖子はコッソリ微笑んでいた。

「ずるいなぁ、鬼人ばっかり」

ノックもなしに、コバルトブルーのセミロングの髪の少年が顔を覗かせる。

「おや魔御。ノックくらいなさいな、びっくりしたっしょ」

ちっとも驚いていない風な妖子の言葉を気にもせず、魔御は部屋に入ってくる。

「口でのご奉仕は、僕の専売特許なのに~」
「ハイハイ知ってやすよ。魔御は舐めるの大好きですもんねぇ」
「鬼人はハード専門じゃありませんでしたっけ?」

妖子の隣に座りながら、魔御が不満そうにそう口にする。

「たまには色々させてみたくてね。ほら、お前にもまたご奉仕を頼みやすから、そう拗ねないでくださいな」

隣に座る魔御の髪を撫でてやると、魔御は嬉しそうに微笑む。
鬼人は、ひとしきり愛撫したからか、今度は逆の脚に指を沿え、再び舐め始めている。

「…んで? お前はどうするんです? 怪」

妖子は、ドアの方を再び見てそう問う。すると、ドアが申し訳なさ気に開き、そこには困惑した表情の怪がたっていた。

「…私は…ただ、おやすみのご挨拶に…」
「何も要らないの?」

いつの間にか、魔御は妖子の太腿を枕に幸せそうに甘えていて。それを見つめる怪の瞳は、心なしか寂しそうだったりする。

「…あの…」
「怪」

怪は他の二人よりも我が儘を言わない。我慢ばかりする。そんな奥手な所も、可愛かったりする。
ドアの方に振り向いた妖子の表情は、柔らかい笑顔だった。

「髪を…とかしてくれやせんか?」
「…よ…喜んで…」

頬を赤く染め、嬉しそうに怪が側にやってくる。髪をとかす怪の指は細く長く、心地よい。

「全く…お前達はもう…」

髪をすく怪の指。ひざ枕状態でまどろんでいる魔御の横顔。未だ夢心地で脚への奉仕を続ける鬼人の舌。
どれからも自分への感情がひしひしと伝わってくる。

「…アタシなんかのどこがいいんだか」

苦笑しながらも、妖子は再びハミングを始める。
彼等の夜は、長そうだ。



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