前編(8)
「がっ…う、くっ…」
霊石により肌を焼かれるのか、窮鼠が苦しそうに喉を掻きむしる。それだけでも辛いだろうに、首を絞められているわけだ。
「ちょっと光輝ッ! 早く破魔してよぉっ」
「あ、悪い悪い」
考察している間に真麟に急かされ、俺を印を結ぶ。
呪文や経文のようなものはなく、破魔封邪を念じることに意味があるらしい。力を働かせ、言葉にすること、強く祈ることが段々重要視されて来たってやつだ。
そして封じるべき言霊は、人の言葉ではない。本来は神々の言葉だから、文字に出来ないって訳。
集中力が高まり、俺の潜在霊力が熱くなる。閉じていた瞳は黄金になり、力の名残に髪が伸びる。
これは俺であって俺ではない。
太陽の女神。最強と呼ばれた神。
一族の間では代々『てんしょう』と呼ばれるそれは、本来ならばこう語り継がれる。
『天照大神』
ビジョンが切り替わる。ここからは俺の意識は全く内側ヘ追いやられ、別人格が俺を支配するわけで。
許されるなら、忘れたいんだけどな。
「…小物だな。まぁ…いいだろう」
俺…(わかりにくいからここからは天照な)がそう笑みを浮かべる。そして。
「ヒグッ…」
「去ね」
天照が手を翳し軽く力を込めると、窮鼠が濁った悲鳴を上げ消滅していく。まるで砂かなにかになるように、さらさらと溶けていく。
砂になったそれは、天照の中に吸い込まれていく。空間がすっかり消え、元の廊下になった。
「随分ちゃちだったな。あの程度なら、お前達だけでも消せたのではないのか?」
天照の言葉に三人が視線を反らす。
そうなのかよ…だったらなんでこっちにするかな。
天照はこいつらの本来の主…まぁ俺も含みけど…だからなのか、こいつらはどうも天照には逆らわない。それどころか、俺への態度とは一変しているのである。
「まぁ良いわ。それで…俺を治めるのは誰がやる?」
治める。要するに、天照が俺に戻るということだ。覚醒から覚ます方法は二つ。大きな衝撃等で天照が気を失う。もしくは…。
「あのッ、おれが…いえ、あたしが…」
男言葉になったのを直しながら、龍香が頬を赤らめて俯く。俺にもそんな可愛い顔しろっつーの。
「天照様、お相手なら私が…」
いつもの上から目線口調はどこへやら。美凰は歩み出てひざまづく。
「あたし! ご奉仕しますっ!」
数珠を急いでしまいながら、真麟が立候補するように近づいてくる。
やっぱりそうだ。こいつら天照を治める為の儀式がやりたいから呼び出したんだな。
天照を治める儀式。天照のたぎる力を、精液として放出させ落ち着かせる。平たくいえばエッチするのである。
だが元々なのか天照の力なのか、中々終わらない。
しかも天照の肉棒は、まるで感じてないんじゃってくらいしぶといのだ。
というわけで、一人ではつらい。せめて二人いれば交互に可愛がってもらえるし、三人ならたっぷり自分も味わえるということ。
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