前編(7)
けどそもそも、鼠と人間に子供なんかできるのか?
半妖とかいるから…ありなのか。
「外道だな」
「お前には解らんだろうなぁ。産まれたての胎児の血液。甘ったるい母乳を含んだ乳。そしてそれらを失った時の女の恐怖と絶望…」
窮鼠の声の響きが恍惚を含みだし、狂ったような笑い声が響きだす。
「全てが珍味であり最高の食材なのさ!
俺はただ美味い食事を作ろうとしているだけだ」
まるで特撮ヒーローにでてくるこすい悪役みたいな笑い方だが、実際俺は今ピンチだったりする。
こいつは俺の魂をバッチリ狙っているようだ。何せ自分の子供生ませて食べる為に準備するほどグルメみたいだからなぁ。
きっと逃がしてくれたりは…しないだろうな。
「さぁ小僧…お前の魂を頂こう…。恐怖をスパイスにその美しい魂に味付けをしてやろうかっ」
風が大きく吹く。やばい。そう思った時だった。
「前口上が長ぇんだよ、バーカ」
「ぎ…っ!?」
窮鼠の声とは別に聞こえたのは、聞き慣れた声。女に似つかわしくないこの話し方。そして何もなかった空間に、切り裂かれただろう真っ赤な亀裂が走り、そこから現れたのは袴姿の美少女だった。
「…グッドタイミング。おりょう」
「戦えねぇくせに先走ってんじゃねぇよ」
飛び降りるように側にやってきた龍香は、持っていた刀を軽く振って血を払う。
刀というより、霊剣。束のみの部分に己の気をたぎらせ霊気の刀身を生み出すという、まるでどっかのSF映画の武器にありそうなそれだが、大変役に立つ。
龍香の相棒だ。
「さて化け鼠。ホントはもうちょっと焦らしたかったが…こんなヘナチョコでもうちの主でな。こいつを守る以上…死んでもらうぜ?」
輝く刀を翳しながら、龍香が挑発する。
「ッ…能力者かっ…。一匹増えたくらいで偉そうにっ…」
「残念ながら、一匹じゃないわ」
空間が歪み暴風と言わんばかりの風が吹く。長いストレートヘアを靡かせながら、美凰が歩み寄ってくる。
「…もしかしてお前ら、待ってただろ」
「あら。助けてもらうんだから偉そうな口はきかない方がいいわよ光輝。…貴方の軽率な行動のお陰で、結界が弱まったの。だから龍香に破ってもらったのよ。じゃなきゃ貴方、今頃魂抜かれてたもの」
美凰の能力は防護壁。バリアを常に纏っているような体質だ。
だから大概…美凰の力を越えなければ、邪気を持った奴は美凰に触れることすら敵わない。
「ということは…」
「ハイハーイ! あたしもいるよ~☆」
先ほど亀裂ができた場所から声が聞こえたかと思うと、巨大鼠に乗っかったまま楽しげに笑う真麟の姿。
う~んまさかの安直展開だな。
「なっ…小娘どこからっ…」
「今更無理だよ。天童の敷地内でオイタしたらどうなるか…覚えてもらわなくっちゃね」
懐から取り出した霊石の数珠を窮鼠の首に巻き付け、きつく締め上げる。
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