前編(4)


「窮鼠って…鼠の怨霊、だっけ?」

俺の問いに答えるように、真麟が机に身を乗り出してくる。あ、胸乗ってる…。

「おかしいでしょ?
 普通の、妖怪に詳しくもない女子高生が窮鼠を様付けで呼びながらオナニーするなんてっ」

「…確かに妙だな」
「それで、彼女が最近様子がおかしくなった原因を探ろうと思って、式神につけさせたの」

それって軽く犯罪行為…まぁ今更か。

「そしたら、彼女が見慣れない路地に入った途端式神が消されたの」
「偶然の可能性もあるからって今日もつけさせたんだが…」
「全く同じ場所で式神が消された」

三人が言葉を継ぎながら、何を伝えたいかがひしひしと伝わってくる。

「…んで、怪しいからその占いショップを調べるってことか」
「やっとわかったか」

呆れたように言う龍香の言葉に多少腹は立てつつ、俺は溜息をつく。

「わーったよ。やるよ、やりますよ~」
「真面目になさい」

美凰に睨まれ、俺は思わず口をつぐむ。

「とりあえず、確定情報が必要だわ。何かグッズを…出来ればあの猫のマスコットが手に入れば…」

こいつら三人は、霊力が強いから直接店にいくとばれる可能性がある。始めの頃に、三人にそう言われたのを思い出す。

「彼女には借りられないのか?」
「占い師の言葉っていうか、マスコットはお守りだから、肌身離さず持ってろって言われてるみたい。それにしても、触らせてもくれないの。病的だわ」

要するに、俺にその店にいってグッズ買ってこい…ってことね。ホントに人使いの荒い奴らだなぁ…。
そう、溜息を尽きながら、俺は教えられた住所に向かった。

*---

「ここか…」

人気のない路地。奥に、確かにドアのようなものが見える。あの店で間違いなさそうだ。

『幸福館』

いかにもな、陳腐な名前。だが確かに、妙な妖気を感じる。中に、何かいる。
俺は店のドアをあけ、中の様子を伺う。女子高生らしき少女達が数名いて、ある意味入りにくい。こっそり中に入り、店の中を見渡してみた。

(キーホルダーにストラップ…ポーチに鏡に…うわ、下着までっ)

女の子用がばっかなんですけど…つーか俺場違い過ぎないか?

(グッズは1番やばそうなのを買うとして…ん?)

レジの隣。占いを行う場所でもあるのか、扉がある。
俺は、何気なくグッズを見るふりをして、その扉に近づく。

(よし…あの子達気付いてねぇな…)

ドアを少し開ける。そして客の少女達に気付かれないように一気に中に入った。
中は暗く、人の気配はない。

「…誰もいない。かな?」

奥に足を進める。ふとどこからか息遣いが聞こえる。

「…いる。それも一人じゃねぇな」

俺は、足元に気をつけてながら、その声の方に向かった。暗がりに目が慣れてくると、壁づたいに明かりの漏れるドアを見つけた。

(ここからだ)

息遣い、というか、喘ぐ声だ。女の、しかも若い。



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