前編(3)
「ウワッ…おりょうっ、もうちょっと丁寧に扱えよな」
「文句いう前にテメェで動けや」
ごもっとも。
「早速だけど、さっき真麟が諜報に放っていた式神の一匹が、何者かによって消されたの」
「式神が?」
美凰の説明に、俺は条件反射で反応してしまう。
真麟は、数珠繋ぎの霊石を作ることができ、それを式神にしている。普通は札とかでやるらしいが、俺にはよくわからない。
「最近、都内の女子高生に人気の占いショップがあるんだけど、光輝知ってる?」
「占い?」
「ほら、黒猫のマスコットの。確か、赤いリボンを付けた三目猫だったかしら」
それなら、雑誌で見たことがある。
都内のどこかにある占いの店で、占い料金が馬鹿みたいに高いが、それは絶対に当たる。
グッズを買えば幸運になったり、悪運から逃れられる。
グッズも結構可愛いし(どこが可愛いのかはわからんが)、グッズを持っているだけで幸せになれると、今もっぱらの噂である。
流行が流行を呼び、高校生だけでなく中学生なんかにも人気が高いとか。
「けど、それがなんなんだよ」
「実はあたしの友達でグッズ買った子がいるんだけどさ、その子の様子が変なの」
「変って?」
真麟は、座ったまま少々真剣な面持ちで話し出す。
「その子、かなり真面目な子でさ。授業サボったりとか、遅刻とか絶対許せない子だったの」
「だった?」
真麟が頷く。
そして、いつも式神にしている霊石の一つを取り出す。
それは、消された式神と呼応していたのか、ひびが入っている。
「最近学校にぎりぎりにくるようになったし、いつもどこかボォッとしてて…心配になったから聞いてみたんだけど、答えてくれないわけ」
「…確かに心配だけど、別に取り立てておかしいとは…」
「続きがあるのっ」
真麟は、話の腰を折った俺を軽く一蹴し話を続ける。
「この間、彼女授業中に急に気分が悪くなったとかいって、保健室にきたわけ。あたしは偶然いたんだけど…」
嘘付け。サボってたな。
「そしたらあの真面目な彼女が、ベッドでオナニーしてたのっ」
おいおい急な展開だな。
「あー…確かにそりゃびっくりするけど…」
俺は苦笑し、校内で自慰に耽る美少女がいる事実を妄想する。
「けどそういうのが好きって子もいるじゃん? だから別に…」
「あたしだって気にしないようにしたかったわよ。けどね…彼女イク時に、こう言ったのよ」
真麟は、大きな丸い瞳を少し細め、一層声のトーンをおとす。
「『窮鼠様』って」
「…きゅーそ…?」
えーと、何だっけ。窮鼠猫を噛むの窮鼠?
まさかなぁ…他にキュウソって言葉あるっけ…。
「窮鼠は、要するに化け鼠…鉄鼠と同一視されたりもするけど、全く違うわ」
それまで口をつぐんでいた美凰が、そう話し出す。
「基本的に、窮鼠が人間に手をだすことは少ない…有り得るのは、赤ん坊くらい」
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