後編(2)


あと5メートル。牛鬼的には一歩もない。

「…去ね」

その掌から光が放たれたかと思うと、牛鬼の体が海に向かって吹き飛んだ。
ほんの一瞬で、光ごと海に浸かった牛鬼のせいで、海水が空まで打ち上がる。音が後から取って付けたように爆音にかわった。

「殺すも戻すも消すもならん。こんな面倒、二度はないと思ったがな」

天照はゆっくりと洞窟から外に出て、牛鬼のほうをむく。

「それ以外の方を、試してやろう」

小さなビンを取り出した天照は、目をつむり何かを唱え出す。
その合間に、牛鬼は体制を整え天照を睨み付ける。吹っ飛ばされて、怒っているのだろう。弾かれたようにこちらに走りよってくる。

「お誂え向きだな」

不意にそう呟いたかと思ったら、天照はビンを傾ける。

「月讀。笛を」

天照の言葉に、朔羅は今度は何も言わずに従った。
ビンの口ぎりぎりのところで牛鬼の動きが止まり、そのまま悲鳴を上げる。
すると牛鬼の体が、砂のようになって消え出した。

封印とは違う。砂の形にして生け捕りにしたのだ。
ビンから出せば元の牛鬼だが、ビンの中ではただの砂だ。

吸われていく牛鬼。
朔羅の笛の音がだんだんはっきり聞こえて来て、それが牛鬼の悲鳴と風の音が止んだからだとわかったのは、天照が蓋を閉めた時だった。

「神がかけた呪いは俺には通じないから、殺してもよかったんだがな。無理矢理目覚めさせたのを殺すのは、忍びない」

天照は…実は俺も解っていた。朔羅が牛鬼を蘇らせた理由。
文字通り、天照に「構ってほし」かったのだろう。

基本的にあの三人といるときしか天照の覚醒はなく、除霊淨霊退治の時に立ち会わなければ会えない。
会いたい場合は、この手のでかめの事件かピンチが必要なのである。

神にも殺せぬ悪神。
朔羅はそういったが、天照の術により牛鬼が消えたのに、天照に呪いはかかっていない。
理由のわからない俺の思考を読み取ったのだろうか。天照の思考が流れ込んでくる。

まず第一に、神にも殺せぬとあいつが言ったことが少し違う。
それは、牛鬼を始めに封印した神よりも力が弱い神のことなのだ。
奴は神仏並の妖力を持っていて、それよりも上回る力があれば牛鬼に乗っ取られることはない。
天照は最高神といっても過言ではないのだから、殺しても呪いを喰らってしまえるのだ。

第二に、今の封じ方は封印とは少し違うらしい。
封印は、鎮め眠らせている状態であり、それを解くことは起こすことである。今度の場合は眠らせておらず、砂として生きているのだ。
ただ外に出ない限り動けないだけで、意識はある。

封印した術者が呪いを被ったことと、今回俺(の体)が無事なことは、これによって照明されたわけだ。

天照の若干面倒臭い説明を飲み込む俺等無視して、天照は朔羅の側に寄る。

「さて…大分力をつかわされた訳だが…。俺はまだ余力があるな。どうする?」



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