前編(5)


「…大体、俺達二人でどうすんだよ」

俺は打ち寄せる波と白い砂浜を見渡しながらそう問うた。龍香達を連れて来なかったのだ。もし何かあったら、戦うのは俺と朔羅…。

「…まさか…天照任せじゃねぇだろうな」
「オレを守るのが、お前の仕事だろォ?」
「違うっ。俺の仕事は学生生活っ」

どいつもこいつも、俺の平穏な日々を何だと思ってるんだか。
とりあえず、時期日のくれる水平線を見つめる朔羅を怨みがましく睨んだ。

(うわ…)

男相手にこんな言い方、おかしいのだろうけど。
朔羅は本当に綺麗だった。

銀に近い髪が潮風に靡いてキラキラしている。銀に夕焼けのオレンジが反射しているのか、ブロンドにすら見える。
いつも陶器みたいに白い肌にも夕焼けの色が写り、顔色がよく見えるくらいだ。
物憂げに夕日を見つめるグレーの瞳は少し潤んでいて、少し薄目の唇は今にも濡れた嬌声を上げ出しそうな程艶っぽい。

(…絶対こいつ男じゃねぇ)

いや、男だって知ってるんだけどさ。こう…百人中百人が振り返りたくなる美人なのだ。男だって知らなきゃもしかしたら…。

その時不意に、朔羅がこちらの視線に気付いたように顔をあげる。

「…いやらしいこと妄想してんじゃねぇよ。バァカ」
「いっ…いやらしいことなんか考えてねぇよ! 誰が男相手にっ!」
「テント張ってんぞ」
「エェッ!?」
「嘘」

掛け合い漫才みたいだ…。痛いところを突かれからかわれた俺は、拳をにぎりしめ必死に堪えるのだった。

「…んで?」
「え?」

俺がワナワナ拳を奮わせていることなんてお構いなしに、朔羅がかったるそうに問う。

「今夜の宿は?」

………………ハァッ!?

「おまっ…考えてないのかよっ! 予約は?」
「取ってる訳ねぇじゃん。バァカ」
「ばっ…馬鹿はお前だァッ!!」

黄昏れ時の砂浜に、俺の怒声が響き渡った。

*---

結局、海辺にある民宿を三軒くらいまわって何とか一泊させてもらうことに成功した。しかも自分の交通費しか持っていないと吐かす朔羅の宿泊代は俺もちで。

(…ホントにこいつは…)

後で返せと言ったら「セコい」といわれた。
少ない小遣いやり繰りしてんだぞ!?

怒鳴ってやりたかったがそんな気力もなく、俺は何度目になるかわからない溜息を着きながら、夕日の落ちた浜辺を見つめていた。
その民宿の部屋からは海が見渡せて、昔ながらの感じだと思い込んでいた海にゆっくり横に視線を走らせていくと、ちゃんとテトラポッドやコンクリートが見えた。
海水浴客の為に自然な海も残してあるのだろう。

「…これからどうすんだ? 明日土曜だからいいけど、あんまりのんびりも…」

ふと、俺は言葉を止める。振り返った視線の先の朔羅が、何か文献を読み出したからだ。
集中してる朔羅に何をいっても無駄なのは重々承知なので、俺は仕方なく携帯を開き、下宿先の管理人にメールをいれるのであった。



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