前編(3)


何気ない朝の風景。
ここ最近はようやく落ち着いてきた。高校に上がってまだ間もないのに、いくつ事件を解決したんだろう。事件って程じゃないけど。

話し掛けてくるクラスメートも決まってきて、女子なんかはグループができあがっている。
あの三人の親戚とばれている以上、質問されるのはしばしば…といっても、下手に答えると後が怖いんだけどさ。

俺は、昨日のバラエティーの話をする友人達の輪の中で、何となく過ごす。

はずだった。

*---

…………ガラッ

教室のドアの開く音。途端生徒が静まりかえる。担任が来るには少し早いので、遅刻ギリギリの生徒が入ってきたのはすぐだ。
何故止まったのか。

(さ…朔…羅…?)

流れるようなプラチナブロンドをくくることもなく、着崩した学生服からは首回りのアクセサリーが覗く。
女子なんかより余程艶っぽい顔立ちと、妙に神聖な空気。ドアを開けただけで、みんな気付いたのである。

「…あれ、夜木くんだよね?」
「私初めて見た…スッゴい綺麗…」
「中学の時より女っぽくなってねぇか?」

「つーか入学式も来なかったよな?」
「ホントに人間か? 人形みてぇな顔…」
「出席足りてるの? あの子…」

生徒達のヒソヒソ話を気にもせず、朔羅はさっさと俺の席の側にくる。…え?

「…朔羅ッ!?…お前、なんで…つーか…え?」
「オレの席…どれ?」

そう問われて、朔羅が教室に初めてきたことを思い出す。

「最初は窓際だったんだけど…お前の体質知ってるから…俺の後ろに移動してある…そこ」

廊下側の1番後ろ。窓際だと日光や暖房なんかの気温変化で気分が悪くなりやすいらしいし、すぐに退室できるようにと朔羅は中学の頃からずっと廊下側の1番後ろの席にされている。

「…お前の後ろかァ。ヘェ…」

クスクス笑い、朔羅は席につく。クラス中の生徒が、注目している。

「よーし出席とるぞー…? どうした? お前ら」

おかげで担任が入ってくるのにも気付かなかったし、その担任がクラスの異変の元凶に気付いて鳩が豆鉄砲な表情をしていたことも、後で聞いたくらいだった。
それくらい、朔羅が登校するということは珍しいことだった。

*---

「どうしたんだよ。お前」

休み時間に入ってからの俺の第一声がそれだった。朔羅は、いつもの調子で「何がァ?」と笑う。

「だから…学校っ。どうして…」
「単位落として留年とかだせぇから、数えてきてるだけェ」

ククッと笑い、朔羅は持っていた本を閉じる。それが文献だということに、俺はやっと気付いた。

「…嫌な予感がする」

思わず口に出した俺に、朔羅は文献を差し出した。

「…うしおに伝説?」

牛鬼。またはぎゅうきとも読む。
西日本…主に近畿から四国の沿岸、浜辺に現れる、牛のような頭に顔は鬼で体は蜘蛛といった巨大な妖怪だ。
般若みたいな顔は恐ろしく、人が蟻か何かのようである。かなり不気味な形相だ。



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