第2章 第8話「スリーサイズ」














第2章 第8話「スリーサイズ」

 物凄く嫌だった。
 嫌で、嫌で、たまらなかった。
(せ、セクハラだよね!? あれ! あんなの!)
 声を上げる勇気などなかったが、半ば泣きそうになりながら、心の中では叫んでいた。
 記入係の男はおっぱいをまじまじと眺めてきたし、測定係に至っては触ってきた。腹にべったりと手を置かれ、いやらしい手つきで撫でまわされて、本当に鳥肌の立つ思いがした。
(健一ぃ……)
 自分が悪いわけでもないのに、彼氏に対して申し訳ない気持ちになっていた。
 しかも、身長計の場から離れる際も――。

 じぃぃぃ……。

 と、巨尻に視線が突き刺さった。
 尻を眺めることで、次の体重計の列へ並びに行く千奈美を見送り、また次の順番の女子を迎え入れたのだ。

 体重計でも、何故か気をつけの姿勢を強いられた。

 身長計と違って、背筋を伸ばす必要はどこにもない。ずっとこの格好でいる以上、せめてものチャンス時間には胸を隠して、なんというか休憩させて欲しいのだが、それを許してくれなかった。
 ジロジロと見てきた。
 体重数値を記入するための男性教師は、机からじーっと見つめ、何秒も何秒もかけて千奈美の胸を観察していた。
 最悪だ。本当に最悪だ。
 みんな同じ格好だからと思ったが、せっかく健一に全てを曝け出すことを心に決め、その日を楽しみにした矢先だというのに、自分の肌が関係のない男の視線に晒されている。
 あんまりだ。
 何も悪いことはしていないのに、どうして自分はこんな目に遭っているのだろう。

 そして、スリーサイズの測定へと移っていく。

 次に待ち構える校長と教頭は、より下品な表情を浮べていた。
「はははっ、役得ですなぁ」
「みんな素晴らしい肉体をなさって」
「これこれ、生徒に欲情してはなりませんぞ」
「ハハハハハハ」
 そんな二人が待つ場所へと、自ら列に並んで足を運んでいくだなんて、どうぞご自由にセクハラをして下さいというのと同じことだ。しかも、だからといって拒んだり、しゃがみ込みでもして手間をかけさせようものなら、怒られるのは千奈美一人に違いない。
 悲しくなった。
 自分の前に並んだ女子達は、それぞれの胸や尻にメジャーを巻かれ、数値を読み取ると称して顔を近づけ視姦する。必要のないタッチまで行いながら、それを眺める記入係りの教師もニヤけている。
 そんな場所へと、千奈美はセクハラを受けに行くのだ。
「はい。バンザイですよー?」
 せっかく胸を隠した両腕も、教頭のたった一言により、解除しなくてはならなくなる。左右の腕を掲げると、教頭はまるでこれからネックレスでもかけるようにして、長く引き伸ばしたメジャーを頭の上から身体にかけてきた。
「動かないようにね?」
 ちゃんとじっとしているにも関わらず、そんなことはお構い無しに注意した校長は、千奈美の背後へと回り込む。さも必要な行為であるように、校長は我が物顔で千奈美のくびれた腰を掴んで、動きを押さえようとした。
「うっ…………」
 その押さえようとする行為こそが、実際には千奈美の全身を緊張させ、頭をビクンと上向きに弾ませる。
「これこれ、ちゃんとしなさい」
 校長のせいなのに、千奈美が悪いような言い草だった。
(最低だよ。この人……)
 千奈美は泣きたい顔で深く俯いた。
「ではでは」
 教頭は楽しみそうな顔でメジャーを巻きつけ、乳房の上でぴったりと目盛りを合わせる。すぐには数字を読むことはなく、強弱をつけることで締め付けたり、メジャーで乳首を苛めるような悪戯を行って、千奈美に強い不快感を与えていた。
(や、やだ……)
 千奈美は涙ぐんだ。
 こんなところで自分の乳房が玩具にされ、教頭や嬉しそうにニヤけている。
 腰を掴んだ教頭の両手も下へと移動して、ショーツの両サイドへと手の平がべったり這う。ゴムに指まで入った時は身じろぎするが――。
「動かない」
と、校長。
 それは指導者として生徒を注意する意思の強い一声だった。
(……私が注意される側なの?)
 当たり前の疑問は心の中でしか発せない。
「しかし、可愛いオッパイですなぁ?」
 乳首に接するように目盛りを合わせた教頭は、清々しい笑顔で校長へと語りかける。
「ええ、たまらんです」
 校長は背中に身体を近づけて、肩の後ろから覗き込むようにして、せいぜい綺麗な景色でも眺める程度の気持ちで、何の遠慮もなしに千奈美の胸を覗きみる。
「87センチです」
「ふむ。アンダーバストは?」
「71――Cカップですなぁ?」
「いいぞ? 可愛らしさでは一番のサイズだ」
 気のいいおじさんが子供を褒め称えるようにして、校長は千奈美の頭をポンポン叩く。たとえ本当に褒めたいつもりがあったとしても、乳房に対する直接のコメントなど、セクハラにしかなりえない。
(うぅ……)
 不快感の中で、千奈美は涙目になった目を伏せた。
 しかし、俯けば視線の先には教頭の顔があり、目を合わせたくなどない千奈美は、今度は横方向へと顔を背ける。

 ――ニヤッ、

 と、笑っている記入係りの男がいた。
 直接の参加はなく、ただ読み上げられた数値の書き込みを行うだけの役割でも、女の子がセクハラを受ける姿を眺め、存分に楽しむことができるのだ。
(……嫌だよ。嫌すぎるよぉ)
 千奈美は目を瞑った。
 校長も、教頭も、何も視界に入れないためにまぶたを閉ざした。
「ほらほら、バンザイは崩さない」
 バストを測れば、もう両腕を上げる意味はないと思うが、何故だか校長は下ろすことを許さない。
 理由はすぐにわかった。

 むにっ、

 校長は両手を使って、脇の下の身体を掴むようにして、背後から乳房に触ったのだ。
「嫌ッ――――――」
 いっそ揉もうとしてくる勢いの指先は、乳房の横半分にあたる乳首の位置まで到達して、薄紅色の突起を爪先で擦りつける。
「ほら、動かない」
 自分で揉んでおきながら、校長の中では千奈美が悪いことになっている。
「はい。けど……」
「文句があるのかね。君一人に時間を喰ったら、周りの迷惑になることくらい、考えなくてもわかるでしょうに」
 人にセクハラをかまして、わざわざ時間をかけた測定を行っているのは、他でもない校長や教頭自身である。それなのに彼らの方が生徒達を注意して、きつい言葉で叱りつけるなど、こんなにおかしな話だあろうだろうか。
「……すみません」
 どうして、自分が謝っているのだろう。
 そして、この人達が千奈美に謝ることはないのだろうか。
「おお? 60センチですよ?」
 喜ぶ教頭。
「ほほーう? 60センチですか」
 校長は再び腰に手を移し、手の平で実感しようと上下に撫でる。手首のスナップまで利かせた卑猥な手つきは、完全に愛撫のそれだった。
「あっ、あのっ……」
 千奈美は慌てて声を上げる。
「なんだね。じっとしてなさい」
「うぅ…………」
 そして、やはり千奈美の方が怒られ、黙っているしかなくなった。
「ほら、次で最後ですからねぇ?」
 教頭はヒップの測定へ移行する。
 今度は下半身の前後に二人がしゃがみ、ショーツ越しのアソコとお尻をそれぞれ至近距離から視姦してきた。
「大きなお尻だねぇ?」
 それが必要な行為であるかのように、校長は尻肉のハミ出るゴムに指を入れ、左右に伸ばしてから尻たぶをパンと叩く。
(酷い……)
 教頭はクロッチ部分を指先でなぞり、やはりゴムに指を入れ、左右にシワを伸ばしてからメジャーを巻く。その目盛りはクロッチの上に合わされ、教頭はさらに至近距離まで顔を近づけ視姦した。
(キモいよぉ……この人達…………)
 メジャーを押さえるためだと言わんばかりに、尻の上には校長の手がべったり置かれる。決してメジャーをずらすことがないように、とても優しく撫でていて、尻を好きにされている事実に千奈美は歯を深く噛み締めた。
「91センチですよぉ? 大きいですねぇ?」
 教頭は顔を歪めてニヤけている。
「おおおっ、ビッグなおケツだとは思ったけど、91センチかぁ!」
 校長は嬉しそうにパンパンと、千奈美の尻を何度も叩いて喜んで、「どれ、ひと揉み」などと言い出しながら、ぐにっと鷲掴みにして指を食い込ませた。
「ひぅぅぅ……!」
 どうして、こんな目に遭わされるのか。
 スリーサイズの測定が終わった千奈美は、逃げるようにしてこの場を去った。



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