第2章 第7話「身長計」














第2章 第7話「身長計」

 加藤信也は身体測定担当になった教員だ。
 社会教科を教えており、一年生の授業も行っている。既に信也の顔を覚えている生徒は多いだろうが、逆に信也にとっての一年生は、毎年のように百人単位で入ってくる新顔達で、四月半ばにして全ての一年生の顔と名前を覚えるのは不可能だ。
 もちろん、担当クラス分の生徒はあと少しで覚えきるが、未担当のクラスを含めた全員の顔など、これから先もまずないだろう。
 担当したクラスの中で、すぐに覚えた一人がいた。
 平沢千奈美だ。
 特に理由はない。特別な理由がなくとも、ふとしたことで記憶に残る生徒がいる。
 なんとなく、可愛かったり雰囲気があったり、変わり者だったり優等生だったり、あるいはおふざけが目立っていて、それが印象的でその生徒を覚えてしまう。
 身長計。
 背筋を伸ばし、気をつけの姿勢を取る千奈美が、信也の正面で顔を赤らめていた。
 信也は記入係りだ。
 何の気遣いか、身長計とちょうど向き合う形で机が合わされ、信也の一からショーツ一枚の女子の姿が見えやすい。バーを下ろして数字を読み上げる係りとの分担で、信也は生徒達の乳房をまじまじと見つめていられるのだ。
(BかCだな)
 千奈美の小さな膨らみには、桜色の乳首が飾られて、乳房全体を初々しく見せている。
 腰は綺麗にくびれ、その下へと続く尻へのラインは丸々大きい。骨盤の広さを見れば、そこには安産型の巨尻があるのが、正面向きからでもよくわかる。
(いい尻なんだろうな)
 何も子供に興味はない。
 多くの男性にとって、高校生にもなった女の肉体は性的対象になりうるだろうが、信也の場合はもう少し上の年齢――せめて十八か十九歳を過ぎてからが好みである。もし生徒とセックスができるなら、三年生なら有りなのだが、一年生や二年生は微妙なところだ。
 それでも、そこに女の裸があったら、たとえ性的な興奮はないとしても、信也はジーっと視線を向け続けていた。
 どんなオッパイなのか。お尻なのか。スタイルなのか。
 ごくごく何となく、子供が昆虫の観察を楽しむぐらいの気持ちで、信也は千奈美を眺め回していた。
 千奈美は信也に対して、バーを下ろす係りに対しても、とても嫌そうな表情を返していた。
 当然だろうか。
 信也はまじまじと眺めているし、読み上げ係りのもう一人の教員は、わざわざ腹を手で押さえるようにして触っている。それを嫌がり、不快そうな表情を浮べて、頬を赤く染め上げている千奈美の姿は、十分に記憶に残るものだった。


 吉村恵一は立派なセクハラ教師である。
 日頃は普通に授業をやり、真面目に生徒の採点を行っている。教え方もわかりやすく、優秀な部類に入る恵一だが、女子の身体に手を触れる機会のある身体測定実施日ばかりは、限定的にセクハラ教師と化すのだった。
 恵一はフェザータッチを施していた。
 身長計に背筋を当て、真っ直ぐに姿勢を保つ千奈美の腹に手を当て、いやらしい手つきで上下に撫でている。
「っぅ…………」
 初めは身じろぎしていた。
 嫌がって、俯いて、モジモジと足腰をくねらせていたが、動かれては測定に支障が出る。注意一つで千奈美の身動きは停止して、すると一切身動きをしなくなるのをいいことに、乳房やショーツにギリギリまで指を接近させて楽しんだ。
「うぅ…………」
 当然、嫌そうな顔をする。
 不愉快なのを堪えている表情は、ショーツの生地に指を触れるとより歪んで、
(いい香りだ)
 耳元に顔を近づけ、すーっと鼻に匂いを吸い上げ、香り付きシャンプーのフローラルな香りを楽しんだ。
 千奈美は表情をピクっと動かし、不快そうにしていたが、そんなことは構わない。
 少しくらい触らなければ損だ。
 身長計の柱に押し当てられたお尻を見れば、大きなビーチボールを潰したようにムニュリと柔らかい変形を披露して、ショーツのゴムから肉をたっぷりハミ出していた。
 時間にすれば、一人当たりの測定には一分も使わない。バーを下ろして、数値を声に出して読み上げれば、すぐに次の生徒である。流れ作業のように一人一人の肉体にタッチして、全員の肌の感触を確かめているが、人によって脂肪の量が多かったり、鍛えられた腹筋の感触があったりと、なかなか違いがあって面白い。
 千奈美は決して太っているわけではなく、むしろ見かけはスリムなまま、ほどよい皮下脂肪で身体に丸みを持たせている。腹はプニっと柔らかく、掴もうと思えば多少は皮膚を掴み取ることができた。
「165センチ」
 読み上げることで、机に座る信也が数値を書き込む。
 千奈美は信也から保健調査票のカードを返してもらうと、逃げるような小走りでこの場を離れて、次は体重計の列へと並ぶ。
(いい尻だな)
 たっぷりと肉を詰めて膨らんでいる千奈美の巨尻は、小走りによる脚の付け根の可動と振動に合わせ、プルンプルンと小刻みに上下に揺れ、本人の知らないうちに牝香の濃いフェロモンを振りまいていた。



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