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<第24話 : 勝負メイクという名のデザート> 祐佳から解放された真樹は、脱がされた靴を履き直し、リベートの受け手である隆と太郎が待つリビングルームへと戻って行った。 「お待ちしてましたよ、三ツ瀬さん。さぁ、こちらへどうぞ。」 嬉しそうな顔をしてソファーの脇に立つ隆が真樹を招き寄せる。 赤のスカートスーツに身を包み、透明感ある黒ストッキングで脚を引き締める真樹は、黒く輝くエナメルパンプスを一歩ずつ進めて隆の下へ向かった。 しかし、その歩みは颯爽という言葉からは程遠い、重い足取りである。勝負メイクでキメた顔も、凛としたものとは言い難い、正しく恰好だけ取り繕った女であった。 三人掛けソファーの真ん中まで進んだ真樹は、さっきと同じく両脚を揃えて股を隙間なく閉じ、丈の短いタイトスカートの裾を両手で掴んで膝に向かって引っ張りながら、柔らかいソファーの座面へ腰を下ろした。 そして、これまたさっきと同じく、彼女を挟み込むようにして、右から太郎が、左から隆が座った。 三人は、デザートワインをグラスに注ぎ、改めて乾杯した。 艶のある赤い唇をグラスにつけてワインを口に含む真樹、その左では隆が静かにグラスを傾けている。 が、右の太郎はワインを一口飲んだかと思うと、おもむろにグラスをガラステーブルに戻し、取って返す動きで左手を伸ばすなり、アップにして結んでいる真樹の髪の毛を鷲掴みにした。 「えっ!?やっ、ちょっ!」 不意を突かれて驚いた声を出す真樹であったが、彼女の顔は太郎の左手によって強引に彼の目前へと引き寄せられ、顔が触れ合う寸前のところで正対するまでになった。 手に持つワイングラスは太郎の右手によって奪われるようにガラステーブルに置かれ、金縛りにあったように動けない真樹は、目の前の太郎を正視出来ず、視線を斜め下に向けた。 「視線逸らせちゃって。そんなに俺が怖い?」 顔の間近に迫る太郎が、真樹の顔を覗き込むようにマジマジと眺めている。その視線を痛いほどに感じる真樹は、とてもじゃないが、彼に視線を向けることが出来ない。 「ホント綺麗な顔してるよな。美人社長秘書って言葉がピッタリ当てはまるくらいに。これで仕事もバリバリ出来るって言うんだもん、大したもんだよな。 瞼に黒く塗られたアイシャドウ、輪郭にそって目尻の先まで引かれたアイライナー、睫毛にしっかり施されたマスカラ。目元がキリっと鋭い感じに仕上げられてること。 綺麗に整えられた眉も伴って、如何にも仕事のデキるキャリアウーマンって感じ出てるじゃん。これが水島君が言ってた勝負メイクってヤツね。スゲーや。」 太郎を見られず視線を落としている真樹は、下がり気味になって見えている瞼のメイクを観察されている。これほど至近距離で、メイクした自分の顔を親しくもない男にじっくりと見られたことは経験が無い。 嫌悪感すら感じる太郎の視線であったが、一方で恐怖心もある真樹は、目を見開いて太郎を睨み返すことも、この場で振り解くことも出来ず、ただ黙って勝負メイクの施された顔を観察されるだけだった。 「さ~て、スーパーキャリアウーマンが作り上げた勝負メイクの耐久性はどんなもんかなぁ。」 えっ?メイクの耐久性? ボソっと呟いた太郎の言葉、真樹はその意味を掴みかねた。 「しっかし水島君もキャリアウーマンの勝負メイクなんて、最高のデザートを用意してくれたもんだよな。俺の大好物だよ。こういう厚塗りメイクしゃぶるの。」 「えっ!?しゃ、しゃぶる!?」 太郎の言葉に反応した真樹が、漸く視線を上げて太郎の顔を見た。 「そうだよ。俺、綺麗なオンナが頑張って作ったメイク顔をしゃぶって崩すの大好きなんだ。見たところ使ってるのはフツーのメイクっぽいし、こりゃ崩し甲斐がありそうだな。」 「えっ!?そ、そんな。。。しゃ、しゃぶって崩すなんて。。。だ、ダメっ!」 メイクの耐久性。しゃぶって崩す。顔が触れるほど近くで目元を覗き込む太郎の行動の意味が一つに繋がった真樹は、慌てて両手を上げて太郎を押し返そうとした。 「えっ!?やっ、ちょ、ちょっと!は、離して下さい!」 太郎にだけ気を取られていた真樹は、その細い両手首を後ろにいた隆によって握られてしまった。 隆の手は真樹の腕を握りつぶせるのではと思うほど大きく、力強い。そんな手に握られた真樹は、口で抗議する以外、何も出来なかった。 「今日の貴方は頭の天辺から足先まで全て我々に提供されたリベートなんです。もちろん顔もね。だからメイクを舐め崩されるのはダメだなんて言う権利、貴方には無いんですよ。三ツ瀬さん。」 真樹の両手首を握りしめる隆が後ろから話し掛ける。前ではいよいよ太郎の口が真樹の右目に迫ってくる。万事休すであった。 「だ、ダメ。そ、そんな。お願い。止めて。舐めないでぇっ!」 涙声になりながら訴える真樹を見下ろしながら、太郎の口が彼女の右目に被さった。 前頁/次頁 |