<第19話:事前合意>


何事も無かったかのような素振りで真樹が部屋に戻ると、隆と太郎はリビングのソファーに掛けて待っていた。
ソファーの前に設えられているガラステーブルの上には、色とりどりのフルーツと、デザートワインが用意されている。

「あぁ、三ツ瀬さんお戻りですね。デザートの用意が出来ていますから、こちらへどうぞ。」

隆が立ち上がって真樹を招き寄せる。彼女は、隆に促されるまま、三人掛けソファーの真ん中に座り、そして隆は彼女の左に腰掛けた。右には太郎が座っている。

それにしても、随分と柔らかい座面である。腰が沈み込んでしまうので、膝上20cmなどという丈の短いタイトスカートを履いていると、裾がずり上がって、太腿が大っぴらに見えてしまう。
日頃は人前で自分の脚なんぞ一切見せない真樹にすれば、ちょっとアングルを変えればスカートの中まで見えかねない状況というのは気になって仕方がない。
どうにか脚を隠そうと両手で裾を掴んで引っ張る真樹であったが、元々がミニスカートなのだから如何ともし難く、諦めて両手を裾の上に置いて、せめてこれ以上ずり上がらないようにと健気な努力をしていた。

「う~ん、流石は東京マシナリーが誇る最年少役員候補にして美人社長秘書の三ツ瀬さん。キリっとした黒いアイメイクに艶やかに赤く輝く唇。耳元に付けられた銀色のリング。素晴らしい顔立ちだ。
 赤いスーツもキマって、黒いストッキングに包まれた美脚に黒く輝くピンヒール付きのエナメルパンプス。成程、スーパーキャリアウーマン三ツ瀬真樹の勝負モード。水島君が自慢げに話す訳だ。」

グラスに注がれたデザートワインを片手に持ちながら、太郎が頭から足先まで真樹のことを舐めるように眺めながら感心して話す。

関心しているだけではない。真樹が身を固くしたまま動かないのを良いことに、太郎は左の掌を開いて真樹の太腿を包み込むように乗せ、中の肌を透かせ見せている黒い布の上を、膝から内腿そしてスカートの裾へと往復させた。
太郎の手が真樹のストッキングを擦るカサカサという微かな音が、静かなスイートルームに響いている。

時を同じくして、隆の右手が真樹のうなじに触れ、その手を上へスーっとを滑らせ、後ろ髪をアップに結んで綺麗に魅せている襟足をなぞるように指先を這わせた。

「何をするんですか!止めて下さい!」

二人同時に起こした行為に反応して身を捩った真樹が、毅然と抗議しつつ右手で太郎の腕を、左手で隆の腕を制すると、そのまま右・左と順番に彼らを睨み付けた。
普段より強く入れられた黒いアイメイクで目元を際立たせている真樹の視線が、毅然とした彼女の態度と相まって威嚇するかのように鋭く二人を刺していた。

「止めてください?なぜ止めなければならないのですか?」

真樹に手を捉まれたまま、隆がとぼけたように尋ねた。

「何故って。これはセクハラです。こんな行為は許されることではありません!」

真樹は隆の目を見据えたまま言い放った。ここで怯んではいけない。そんな気持ちいっぱいに。

「はぁ、セクハラねぇ。おかしいなぁ。水島さんの指示でここに来たと思ったんですけど。」

相変わらず隆の言い方はとぼけている。まるで真樹の威嚇をいなそうとでもいうかのように。

「確かに水島の指示で来ました。お二方のディナーの相手をするようにと。でも、セクハラを容認せよとは言われていませんし、言われても従いません!」

すっとぼける隆の非礼を許すまいとばかり、真樹は彼に鋭い視線を向けたまま語気を強めて抗議した。

「う~ん、おかしいなぁ。水島さんの指示は一晩我々の相手をして、正式発注を確実なものにすることだったと思うんですけどねぇ。それで貴方の粗相を我々も目を瞑るという約束で。。。」

「そ、それは。。。」

隆の言葉に怯んだ真樹は、言葉を継ぐことが出来す、視線を泳がせた。

確かに水島君は、正式発注を貰うために一晩ちゃんと相手をしろとか、健闘を祈るとか言っていた気がする。あの時は混乱した頭で聞き流していたが、あの言葉がこれを意味していたとしたら。。。

真樹は史郎の言葉を思い返しつつ一抹の不安を覚えた。が、ビジネスとしてクライアントのセクハラを甘んじて受けろというのはあり得ない。そう思いなおした真樹は、改めて隆を睨んだ。

「そ、その前にセクハラは犯罪です!水島の指示がどうとか言う以前の問題、わ、私は女として、そんな行為は絶対に許せません!」

視線を逸らして舐められてはいけない。そう思って隆を睨み続ける真樹。強い口調で抗議し続けるも、内心は不安がよぎり始めていた。
ホテルのスイートルームで二人に挟まれるように座る自分は、ここで毅然とした態度を続けないと、両脇を固める男どもの餌食にされかねない。ここはそれに適した立派な密室だと感じ始めたのだ。
そんな弱さを見せまいと振る舞う真樹であったが、実際には言い放つ声が震え始めていることに、彼女自身は気付いていなかった。

「困りましたねぇ、三ツ瀬さん。このままだと東京マシナリーは正式発注を前提とした3者間の事前合意を反故にすることになるうですけど。。。どうするおつもりですか?」

「じ、事前合意を反故!?そ、それは、、、ど、どういう意味ですか!?」

突然背後から放たれた女性の声。それに驚いて真樹が振り返ると、及川祐佳が彼女を見下ろすように立っていた。



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画像は相互リンク先「PORNOGRAPH」MIKOTO様からお借りしています



















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