<第6話:不思議な能力>


香しい匂いが漂い始めたかと思うと、真樹がコーヒーカップをトレーに載せて史郎の元へと運んできた。
ソーサーに乗ったカップがカシャリという小さなと共にテーブルの上に置かれた時、史郎が口を開いた。

「三ツ瀬さん、右足の靴が脱げたの、今日2度目じゃなかったですか?」

「えっ!?」

ソファーから見上げて話をする史郎の前には、少なからず狼狽の表情を浮かべながら立つ真樹の姿がある。

「今朝、山田さんに会ったのって、通勤途中に靴が脱げて、それを拾って貰ったのかなって。しかも、どういう訳かストッキングが破れて足首まで捲れ上がっていて、お礼もそこそこに立ち去った。そんな姿が浮かんだんですけど。」

「な、何でそんな事。み、見てたの!?」

真樹の顔が見る見る蒼ざめていく。目を大きく見開き、赤く彩られた口を震わせながら史郎を見下ろす顔は、クールビューティとは程遠い、恐怖と狼狽がないまぜになった情けない顔だ。
白いカットソーと黒いタイトスカートが絡むウェストの辺りでトレーを持ち、ストッキングに覆われた綺麗な脚をガクガクさせている。
震えている。会社では人をダメ男とばかりに見下してきた三ツ瀬真樹が、僕の一言で震えて立ち尽くしている。
史郎は得も言われぬ快感を覚えながら言葉を継いだ。

「やっぱり図星か。見てた訳じゃなくて、僕には変な能力が宿っているみたいで、触れた物や人の過去が見えてしまうんです。だから、会議室で三ツ瀬さんの靴を拾った時に。。。
 さっきも会議室に入ったところで大事なところが湿り、疼き、挙句の果てに何かを挿入された感覚を受けた上に震えだしたんじゃないですか?最後は限界が来て、トイレに駆け込もうとしたけど、間に合わずに決壊した。違いますか?」

「そ、そんな力が。。。し、信じられない。。。」

真樹は絶句したまま言葉を継げなくなった。史郎の前で震え、立ち尽くしたまま動くことも出来ない。
会社では一度たりとも見せたことのない姿。彼女は明らかに史郎に対して恐怖を感じている。会社にいる時とは立場がまるで逆。
本能のままにというお告げに従っている史郎であったが、目の前で震える真樹を見れば、ダメ男の彼でも見下し始める。スーパーキャリアウーマン三ツ瀬真樹も所詮は単なる女だと。

「そんなに震えなくても大丈夫ですよ。今も疼きが収まらなくて困ってるんじゃないですか?僕、治せますよ。それに、佐藤さんと山田さんには僕から上手く言っておきますから、安心して下さい。」

「な、治せるの!?お、お願い!何とかして!私の身体、どうにかなってしまった感じで、不安でしょうがないの。」

優しくゆっくり語る史郎に安心したのか、藁にも縋るかのように真樹が彼の言葉に飛びついた。
会社では天と地ほどの差を持つ真樹であったが、今ここに至っては、プライドも何もあったものではなかった。

「良いですよ。ただ、症状を確認して治すというプロセスを経るためには、原因となってる部分を触らないといけないんですよ。。。つまり、、、いま疼いている場所とか。」

「えっ!?」

真樹は躊躇した。不可思議な身体の変調。不思議な力を持つ史郎は、これを治せると言う。が、治すためには原因の場所を触らないといけない。
それは、他人に触れさせることもなければ、見せることもない、女としての大事な場所。そこを曝け出さなければならない。しかも、よりによって小太りのダメ男、水島史郎に。
不安でいっぱいとは言え、それはそれで真樹には耐え難いことだった。

「あ、でも三ツ瀬さんストッキング履いてますね。その薄手のストッキングを間に挟むくらいでしたら何とか出来ます。直接触れることなく。どうします?僕はどちらでも良いですけど。」

真樹は迷った。本来なら、ストッキング越しとはいえ、史郎ごときに自分の下半身を触られたくはない。しかし、このまま放っておいて自分の身体が元に戻るという保証はない。
散々みっともない姿を見せ、挙句に彼を部屋に上がらせた。しかも、目の前の史郎は、会社で見せるダメ男とは少し違う、妙な落ち着きを見せていた。これも不思議な能力とやらの為せる業なのか。

「す、ストッキングを通してでも治せるのね。。。分かった。直に触られるのは嫌だけど、間に布を1枚挟むのなら我慢出来ると思う。だから、お願い。私の身体を元に戻して。」

真樹は譲歩した。ストッキング越しなら我慢して触らせると。不安に押し潰されそうな彼女は、誰も見ていない自分の家の中なのだから、それくらいは我慢しなければならないと観念したのだ。

「分かりました。それでは、ここのソファーに座って下さい。先ずは症状の確認。一番最初に起こったハプニングの元凶、靴に覆われていた右足から始めます。」

ことさら落ち着いた声で話す史郎に促されて、真樹はソファーに座り、ベージュのストッキングに包まれた細い脚を史郎の前に差し出した。

間に1枚布を挟むなら我慢出来る?バ~カ。毎日タイトなパンツスーツで全身を覆ってる三ツ瀬真樹が相手なんだ。普段は目にすることもない美脚、ストッキングに包まれている状態でも触れるなら涎ものなんだよ。
スーパーキャリアウーマンも自信喪失するとこんなもんなんだな。僕の口車に乗せられて脚を出して。直ぐにストッキングなんて何のガードにもならなかったって後悔するぜ。もっとも、その時には三ツ瀬真樹も逃げようがなくなってるけど。

史郎の本能が心の中で真樹を馬鹿にしながら、彼はその場にしゃがみ、彼女の右足に向けて手を伸ばした。



前頁/次頁







画像は相互リンク先「PORNOGRAPH」MIKOTO様からお借りしています



















表紙

投稿官能小説(3)

トップページ
inserted by FC2 system