<第5話:スーパーキャリアウーマンの家>


「み、水島くん。き、着替え終わった。」

扉の向こうから、蚊の鳴くような真樹の声が聞こえた。それに応じて会議室に入ると、目の前に真樹が立っている。

黒いジャケットに白のインナー。これは朝からずっと着ていたものだ。下は、黒のパンツに代えてタイトスカート。しかも裾は膝上10cmであろうか。ストッキングに包まれているとは言え、真樹の脚を見るのは初めてだ。
それにしても、恥ずかしそうに顔を俯け、スカート前で両手を組んでモジモジさせている。脚などは内股気味に窄めて自身無さげに立つ姿なんかは、パンツスーツをカッコ良く着こなして颯爽と歩く彼女と同一人物とは思えないほどの変わりようだ。
160cm程度と小柄で細身、脚の形も美脚と言って申し分ないほどに綺麗。それでありながら恥ずかしそうに立つとは、スカートが苦手なのであろうか。

「三ツ瀬さん。会社の方は大丈夫ですから家に帰りましょうか。佐藤さんが車を貸してくれましたから、送っていきますよ。」

それだけ言って向きを変えた史郎は出口に向かって歩き始めた。その後ろを真樹がオズオズと付いてくる。

雲上人などというのは僕の幻想。スーパーキャリアウーマンと雖も所詮は一人の女か。
史郎は自分を蔑みの目で見下す普段の真樹を思い浮かべながら、目の前で恥ずかしそうに歩く真樹を見つつ、光の妖精が彼に語った言葉を思い返していた。

それにしても、と史郎はもう一つの不思議を考えていた。
真樹が身体に変調をきたして崩れ落ちたのは、光の妖精が何かをしたということは分かる。だが、ジャパントレーディングに時遊人コーポレーションの及川さんが来て、ジャケットと同色のスカートを持ってくるとは。
更にストッキングにショーツ。真樹が必要とするであろうことを見越したような準備の良さ。どこまでが周到に用意されたもので、どこからが偶然なのか。

元来がダメ男の史郎。こういう時は思考力の低さが幸いする。まぁ、光の妖精の言う通りにしておけば、更に良い思いが出来る。それで良いやと、難しいことを考えるのを止めた。

隆が用意した車で移動した二人は、真樹が住む青山の高級マンションの前に降り立った。
蒸し暑い日でありながら、車のエアコンが故障したとかで、耐えかねた二人はジャケットを脱いで手に持っている。

胸元を広く取ったスクエアネックの半袖カットソー。脚を見たのが初めてなら、ジャケットを脱いでインナーだけになる真樹を見るのも初めて。これまで雲上人と思ってきた相手だけに、史郎はこれだけでもドキドキしていた。

「有難うございました。後は歩いて帰るから大丈夫です。佐藤さんによろしくお伝えください。」

史郎がドライバーにお礼を言うと、乗用車はマンションの前を走り去った。

「素敵なマンションですね。流石、僕とは違う。それじゃ、預かっていた服を返しますね。」

「あ、あの。家に上がってコーヒーでも飲んでいかない?迷惑かけっ放しで、エントランスでサヨナラという訳にも。。。」

「い、いや。僕なんかが、そんな。女性の家に上がるなんて。。。」

「そんなこと気にしないで。散々迷惑掛けたし、それに今日の会議のことで相談したいこともあるから。。。」

「あ、あぁ、そうですか。そういうことでしたら少しの間だけお邪魔させていただきます。」

申し訳なさそうに応じながらも、史郎は内心ほくそ笑んでいた。光の妖精のお告げでは、会議室の続きは彼女の家で楽しめるとされていたのだから。
まさかとは思ったが、本当に雲上人の家にこうも軽々と上がり込めるとは。と思いつつも光の妖精は具体的な話はしていない。であるが故に、史郎は漠然とした期待だけが高まっていた。

まるでシティホテルを思わせるような屋内の廊下。颯爽と歩くキャリアウーマンの姿は鳴りを潜めたとはいえ、カツカツと鳴り響くハイヒールの音だけは健在だ。
白のインナーに黒のタイトスカート、ベージュのパンスト脚で歩く真樹の2歩後ろを進みながら、辛うじてOL的な雰囲気だけは残す彼女の後ろ姿を見る史郎。
彼の意識の中においても、真樹の存在は雲上人たるスーパーキャリアウーマンから単なる一人の女へと変わりつつあった。

マンションの最上階にある一室、女一人で暮らすには広すぎる3LDK。そのリビングルームに通された史郎は、ソファーの上に腰を下ろして部屋を見回した。
高級マンションらしい落ち着いた部屋。アイランドキッチンでは真樹がコーヒーを淹れている。史郎はそんな彼女の姿をドキドキしながら眺めていた。

「部屋に入り、ソファーに座ったら間もなく楽しい時間が始まる。後は本能の赴くがままに。」

史郎の心の中で光の妖精のお告げが響いた。その瞬間、彼の中にもう一人の彼が入り込んでくる感覚が起こってきた。
意識はしっかりあり、五感も健在。しかし、何故か今まで感じた事の無い、不思議な、しかし心地よい感覚が沸き上がってきたのだ。



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画像は相互リンク先「PORNOGRAPH」MIKOTO様からお借りしています



















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