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<第4話:不思議な夢> 真っ白いだけの空間。ここは、、、そうだ、間違いない。一度訪れたことのある。。。 「久し振りだね、史郎君。」 「やっぱり。光の妖精さんですね。久し振りです。何時ぞやは有難うございました。」 「いやいや。君の役に立てて嬉しいよ。。。」 ジャパントレーディングでの会議中、史郎は今朝見た夢を思い出していた。 不思議な夢。今から遡ること2年前、新人営業部員であった史郎に時遊人コーポレーション佐藤隆との出会いのきっかけとなった光の妖精。 彼の夢によるお告げのお陰で、ダメ男扱いされている史郎は辛うじて継続的な国内取引を得て、東京マシナリー営業部員として首を繋いできた。 その光の妖精が2年振りに現れ、そして新たなお告げをしていった。 史郎が一人ボーっと夢の回想をしている最中、隣では太郎と隆を向こうに回して真樹が見事に議論を展開していた。 会議室は、流石は社長一押しのスーパーキャリアウーマンと、居並ぶ二人を関心させ、隣に座る史郎に実力の違いをまざまざと見せつける場になっていた。 「ここは図にした方が分かり易いですので、ホワイトボードをお借りしますね。」 真樹が立ち上がって壁際に置かれているホワイトボードの前に進み、マーカーを手に持った時である。 「んっ!」 真樹が出しかかった声を慌てて噛み殺した。ほんの一瞬漏れた微かな声。注意して聞かなければ気付かない程度のものだったが、彼女を注視していた史郎は聞き逃さなかった。 とは言え、当の真樹は何事も無かったかのように、ホワイトボードを使いながら見事に説明を展開し、二人が浴びせる矢のような質問に答えていく。 が、僅かとは言え、彼女の顔は火照り始め、呼吸も徐々に荒くなってきている。気を付けて見なければ分からない程の微かな変化。だが、史郎はこの事実にも気付いていた。 「その点は、、ん、あ、あぁ、ん。」 真樹がまたしても説明する言葉を淀ませ、喘ぎ声とも取れる音を口から発した。流石に今度は誰でも聞き取れるほどに。 どうにか堪えて話を続けようとする真樹だが、両足は内股気味に窄まり、姿勢も前屈みになってきている。その変化は、目の前に座る史郎からはっきりと見えていた。 「あ、あぁ、ん、んんん。あぁぁ~っ!」 今度は覆うべくもない大きな喘ぎ声。大きく前屈みになって、膝を覆うズボンの生地を両手でグっと握り、膝をガクガクと震わせている。普段はカッコ良く音を響かせる細いヒールも足元でグラグラと揺れている。 「す、すみません。ちょ、ちょっとトイレ。。。あ、あぁ、、、あぁぁぁーーーっ!」 大きな喘ぎ声を上げながら、背中を丸めてフラフラと出口扉に向かって歩き始めた真樹。あのクールビューティそのものという颯爽とした歩みではない。 キャリアウーマンたらしめている黒光りするパンプスも上がらず、足を進ませる度にヒールが床のカーペットをズルズルと擦っている。 「み、三ツ瀬さん。セキュリティ解除しないと出られない。ぼ、僕も一緒に行きます。」 慌てて立ち上がって真樹を追おうとした史郎は、右足で何かを踏んだことに気付いて歩みを止めた。視線を下に落とすと、黒い物体が足元に転がっている。 靴?女性物?ハイヒール?史郎は怪訝に思いながらしゃがんで転がっている黒い物体を手に取った。そして視線を前に送ると、真樹がこっちを向いて立っている。 細身の黒いパンツスーツに包まれた両脚。足元には黒光りするハイヒール。が、彼女の右足は黒くない。肌色である。 そう、史郎が手に持ったのは真樹の右足を覆っている筈のパンプス。それが脱げてしまった彼女は、ベージュのストッキングに包まれた爪先をカーペットに直接下ろしている。 如何にキャリアウーマンと雖も、ハイヒールが片方脱げてしまえば陥る状況は同じ。ストッキングに包まれて爪先立ちになっている右足は、ヒールの差を埋めるべくプルプルと震えている。 颯爽と歩くなぞは夢のまた夢。真樹は左足をちょこんと出し、そして右足を出し、また左足。何とも危うげな足取りで史郎の元に歩いてきた。 そして、史郎の手を借りながら右足をパンプスに通した刹那、 「だべぇ~!と、とべてぇ~っ!あ、あぁぁぁーーーーぁっ!」 悲鳴のような声を上げながら史郎の肩をがっしりと掴み、膝をガクガクさせながら辛うじて立つ真樹。その股の間から、黒い生地を透過した液体がジョボジョボとカーペットに降り注いだ。 彼女の股から噴き出した汁の雨が止んだ時、彼女はその場にガックリと膝をついた。 「ど、どうして。。。こ、こんな。。。」 かすれるような小さな声。言葉は続かず、背中を震わせて啜り泣き始めた。 史郎は、そんな真樹の頭を両手で支え、そして自分の胸に押し当てる。仕事中はBigな存在であり、気付くこともなかったが、女性らしい華奢な身体であった。 そんな彼女を胸に抱きながら、史郎は夢を回想していた。 「三ツ瀬真樹は貴方の前で膝を屈して泣くでしょう。今まで会社の誰にも見せたことのない無様な姿で。」 「えっ、あの三ツ瀬さんが!?そ、それは無いですよ。だって彼女は僕にとって雲の上の存在。相手にもしてもらえないんですから。」 「雲上人などというのは君の幻想だよ、史郎君。スーパーキャリアウーマンと雖も所詮は一人の女だ。そのカラクリを君の目の前で暴き、楽しませてあげようじゃないか。」 前頁/次頁 |