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<第25話:時遊人倶楽部> 2013年10月21日15時半頃。クラシカルパノラミックホテル日本橋では、今日も宿泊客のチェックインが始まっていた。 そんな中、一人の中年男性が42階でエレベーターを降り立っていた。 男が廊下を歩いてクラブラウンジへと入ると、正面にあるフロントデスクの脇で一人の若い女性が微笑みながら立ち、一礼しつつ男を迎えていた。 黒いジャケットはVゾーンが広めにとられ、中に白いスクエアネックのカットソーを着ている。ジャケットの下は黒いタイトスカートが膝頭の上までを覆い、その下にはヌードベージュのストッキングに包まれた細くて綺麗な脚が伸びている。 「こんにちは。ご宿泊でございますか?お名前を頂戴できますでしょうか?」 「あ、はい。今日から1泊で予約している皆川です。」 「皆川様でございますね。ご宿泊ありがとうございます。こちらへどうぞ。」 女性が気品ある所作で男をデスク前のソファーへ案内し、自らも向かいの席に座ってチェックインの手続きを始めた。 「皆川幸雄様。ご宿泊ありがとうございます。本日からご1泊、ジュニアスイートルームのシングル利用でご予約を承っております。。。」 幸雄が宿泊者カードを記入し終えると、女性がチェックインの手続きを進めていく。 立ち姿も美しかったが、手続きをしつつデスクの向かい側に座る彼女の顔を間近で見ると、しっかりとメイクが施され、美しさをより際立たせている。 瞼に施されたダークグレーのアイシャドウ、それにアクセントをつける黒いマスカラ。このアイメイクの効いた目元は特に美味しそうだ。 舐めれば直ぐに崩れてしまうだろうが、これほどの美貌を誇る女の顔、その目元を舐めてアイメイクを溶かしつつ崩していく。 幸雄は妄想をしつつ目の前に座る女の顔を舐めるように見ながら視線をジャケットの胸元に落とすとゴールドのネームプレートが目に入った。黒色で「金沢」という文字が彫られている。 やっぱりそうだ。この女が金沢美香。自分の相手をしているフロントが美香であることを確信した幸雄は内心小躍りしながらチェックインの手続きを続けていた。 「皆川様。それではお部屋へご案内させていただきます。本日はベルの研修を兼ねて、私がご案内させていただきます。」 一通りの手続きを終えた美香は、立ち上がってフロントデスクの脇に進み、挨拶をしながらベルに荷物を持つよう促した。 ベルに手荷物を預けた幸雄は、先導する美香の後ろについて歩いて行った。 ベルがいながらフロント自ら部屋へ案内するのは研修だから?それともスイートに宿泊するから?幸雄は疑問を持ちながらも、目の前で部屋までの案内を始めた美香の後ろ姿を内心喜びながら眺めていた。 解れがないほど綺麗に纏められたシニヨン。黒いジャケットとタイトスカートに身を包み、背筋をピンと伸ばして歩む姿は、流石は日本橋最高級ホテルのフロントと思わせるだけの美しさがある。 それに、スカートの裾から伸びる細くて綺麗な二本の脚。ヌードベージュのストッキングに包まれるそれは、これぞ美脚と言わせるだけの魅力を見せつけている。そして足元に黒光りしている高めの細いヒールが付いたパンプスがまた良い。 気品ある歩き姿を後ろから眺めつつ、このパンスト脚は実に美味そうだ。見事に磨き上げられて輝いているパンプスごと食いついてやりたい。まさかパンプスごと食べられるなんて想像したこともないだろうから、さぞかし驚くことだろう。 優雅な所作で部屋までの案内を続ける美香を、まるで美味しい食べ物でも愛でるかのような目でジロジロと見ながら歩く幸雄であった。 --*--*-- 幸雄がジュニアスイートに案内されて6時間が経過し、時計の針が22時ちょうどを示したとき、秒針が止まった。と、同時に外から呼鈴が鳴らされた。 その音に反応した幸雄が玄関扉へ早足に進み、ドアスコープから外を覗く。扉の外に一人の女性が立っている。 女性が誰であるかを確認した幸雄は貴重品バッグを持ち、静かに扉を開けて外に出る。 目の前に立つ女性。長いロングストレートの黒髪に整った顔立ち。瞼にはパープルのラメ入りのアイシャドウが施され、ホテルの暗い廊下ながらも照明を反射してキラキラとした輝きを帯びている。 グロスを効かせて赤く輝く唇を開き、微笑みを保ちながら幸雄に話し掛けてきた。 「皆川様、お待たせ致しました。お時間となりましたので、会場までご案内致します。」 言うなり女性は向きを代え、黒髪をサラサラとひらめかせつつ幸雄を先導して廊下を歩き始めた。 オフホワイトのジャケットに同色のタイトスカートを纏う後ろ姿は実に優雅である。スカートの裾から伸びる二本の脚、ベージュのストッキングに包まれたそれも実に綺麗だ。先に見た美香の脚と遜色が無い。いや、こっちが上か。 足元もまたオフホワイトのエナメルパンプスが輝きを帯びており、黒くて細いヒールが真っすぐカーペットに突き立って身体のバランスを支えている。 美しい。幸雄はただそれだけを思って後ろを歩いていた。 時遊人倶楽部。幸雄がこれから行く会場の名前である。10年近く前から始まった金持ち向けに催される特別な女遊びの会に幸雄は初回から参加していた。 目の前で幸雄を先導する女性。彼女は倶楽部開催時に必ずナビゲーターとして立ち会う及川祐佳(※)。初回の時で既に20代半ばに差し掛かるであろう雰囲気だったから、今なら30代半ばになろうというところか。 それにしても、と幸雄は思う。目の前を歩く女性は、20代と言われればそう見えてしまう。それくらい美しく、若く見えていた。 (※祐佳は山田祐佳。太郎の婦人であるが、公では旧姓及川の名前により太郎のビジネスパートナーとして活動している。) 幸雄は祐佳を見るたび、ナビゲーターではなく遊びの対象としてこの女を弄びたい。倶楽部に参加している時は何時も、目の前で優雅に案内をする祐佳のことをそういう目で見ていた。 何せ、幸雄にしてみれば、倶楽部開催時に提供されてきたどんな女よりも、祐佳の方がはるかに優雅で洗練された雰囲気を持つ、最高の女性に見えていたから。 前頁/次頁 |